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他の男をすすめないで!(2)

◆◆◆




今日は一世一代の大勝負をかけるはずだった。


「……冥加くん、もう一回言って?」

 行きつけのファミレスのいつもの席で、私は中学二年生のとき以来の付き合いのふじ 冥加みょうがと顔をつき合わせていた。

春といっても陽が暮れれば肌寒いせいか、冥加くんは相変わらずマフラーをしている。濃い紫の丈が長いマフラーを、三回ほどぐるぐる首に巻いている。

今年はもう高校二年、来年の今頃は大学受験に向けて勉強しだすと思えば、目の前に座るこの男に告白するのは春休みの今日しかないはずだった。

「オッケ。ね、ひかりちゃん。今年中に彼氏を絶対つくろう?ぼくが絶対つくってあげるから」

「なんで」

 何が悲しくて、好きな・・・・に彼氏を作ってあげるって言われなきゃいけないの?

 ワックスをつけたりしないそのままの黒髪に、名字と同じ上品な藤色の目を瞬かせ、冥加は無邪気に微笑む。

 ウェイターがフライドポテト特盛りをテーブルの真ん中に置いて、立ち去って行く。

 冥加が率先して塩を振りかけて、さあどうぞと私のほうに差し出す。

「はい、ポテト食べて。で、なんでって言われちゃうと、なんだかひかりちゃんに彼氏を作ってあげなきゃっていう使命感が沸いてきたからかな。というか、前々から思ってたんだけど、二年生になるんだなって思うと、その気持ちが強まった的な」

 私がポテトをつまんで口に運ぶのを見届けてから、冥加くんもポテトを食べる。

「強まったって、そんな。だって、わたしは―――」

 冥加くんの言っている意味が分からない。けれど、嫌な流れだ。

 ポテトを呑みこんで、縋るように冥加くんに告白しようとする。

「で、早速だけど、ひかりちゃん、ぼくのことはもう下の名前で呼ばないでくださいね」

 が、遮るように口を挟まれる。

 下の名前じゃなくて、名字で呼ばれたことに愕然とする。

「やっぱり男的には、好きな女の子が別の男と仲良くしてるのは気分が良くないだろうし。

 これからは名字で呼んでね」

 告白もさせない気か、この男は。

 冥加くんはどんどん勝手に話を進めていく。

「ひかりちゃん――あ、これも馴れ馴れしいよね。

 上地さんって呼ぶけど、上地かみぢさんには義理の兄弟が出来る予定もなし。

 禁断の関係路線は没。ってことは学校で見つけなくちゃでしょ?」

 勝手に両親に離婚の予定を作るな。というかなんだ。禁断の関係路線て。

 冥加くんはどんどん話を続けていく。

「ある程度目星はつけてるから、ぼくがサポートする通りに、

 どんどん関わっていけばいいと思うよ」

 短時間で、一方的に離された心の距離に、涙が出そうになるくらい悲しくなる。

 あまつさえ、何が悲しくて好きな人に他の男をすすめられなくちゃいけないの?

「そんなの…そんなの勝手だよ。

 大体、冥加くんの方はどうなの?自分だって彼女いないじゃない」

 彼女いないなら、他の男じゃなくて、冥加くんと付き合いたい。

 そう続けようとするも、冥加くんはあっさりと笑う。

 まるで聞き分けのない生徒を見るような目で私を見る。

「冥加じゃないでしょ、藤って呼んで。

 ぼく、自分の感情では好きってよく分かんないんだよね。

 それと、一応、彼女はいたよ?ほら、去年の秋に転校して行った梅野さん。

 すぐに別れちゃったけどね」

「そうなの?!聞いてないよ!」

「だってすぐ別れちゃったから、言う必要ないかなって」

 衝撃の事実に愕然とする。

 梅野さんっていうのは、確か1個下の超絶美人な下級生。

 梅野 さゆり。親の都合で北海道に転校していった子だ。

 冥加くんとの接点は…確か、中学の時同じ部活で、テニス部だった。

「ていうか、いつの間に」

 去年の秋が、何月を指しているのかわからないけれど、冥加と私はいつものようにファミレスで放課後こうして遊んでいたはずだ。

 なら、休日?私の家は学校までの通学路にあるだけで、冥加の家からは遠い。

仲が良いとは思っているけど、私は遠慮して休みの日に冥加を誘ったりはしない。

「まあ、ぼくのことはいいじゃん。

 上地さんの恋をぼくはサポートするから、任せて。

 頑張って今年中に彼氏を作ろう」

「ちょっと待って」

 ぼくのことはいい?

 さらっと対象外通告されたようなものだけれど、私はめげない!

自己解決して、自分勝手に満足している目の前の男に、私はきっと睨みつけて宣告する。

「もし、もしも、今年中に彼氏が出来なかったら、どう責任とってくれるわけ?」

 可愛げのない言い方しかできない自分が恨めしい。

 でも、なりふりなんて構ってられない。

 鈍感過ぎていっそ憎らしい冥加くんに、可愛さなんて構ってる場合じゃない。

「え、責任?いや、そこまで深く考えてなかったけど」

「責任取らなきゃだめでしょ。私の保護者かってくらい口出ししてくるなら。

 私に彼氏が出来なかったそのときは、私のお願い一つ聞いてもらってもいいよね?」

「お願い?なに、ぼくにかなえて欲しいことあるの?

 今聞くよ?ぼくと上地さんの仲だしね。ほら、言って」

 人の良く、面倒見がいい冥加くん。

 私の心中なんていざしらず、今叶えようとしてくれる。

「今じゃ駄目!!ふざけてんの!!ほんっとに!!今言ってもだめなの!

 あと、私のこと名字で呼ぶの禁止!

 どうしてもっていうなら、せめて、学校の外くらいは名前で呼ばせて」

 分からず屋な冥加くんに、とうとう涙が零れてくる。

 だって、冥加ってば、なんでもないみたいに当たり前のように私を名字で呼ぶから。

 本当に面倒くさい男を好きになっちゃったんだて思う。

「えっ、そんなに名字で呼び合うの嫌?

 わかった、学校の外ではこれまでみたいに呼び合おう?

 ほら、泣かないで、ひかりちゃん。ひかりちゃんに泣かれると、焦る」

 冥加は立ちあがって、私の目元をペーパーナプキンで拭ってくれる。紙がこすれて痛い。

 綺麗に整えられた眉をさげて、慌てたように慰めてくれる冥加に、私は嬉しくもあり悲しくもなる。

 わたしに泣かれると焦るくせに、対象外なんだなって。

自分はいつの間にか彼女を作って、別れて、そうして私に他の男をすすめてしまうくらいなんだもん。

「私、頑張るよ」

 涙を拭って貰いながら、答える。

 他人に優しいけど、面倒くさくて、無邪気に残酷な冥加くん。

「ほんと?ぼくも、頑張るよ」

 うん、頑張る。冥加くんとは頑張る方向が違うけど。

 冥加くんは私が他の男と付き合えるように。

 私は、冥加くんに振り向いて貰えるように。

 もう一年頑張ってみる。


 だから、わたしに他の男をすすめてきても、意味ないんだからね。


「覚悟しててよ、冥加くん」

「オッケ。じゃ、まずはひかりちゃんの芋っぽい容姿から手をつけていこう」

「え」


 学力はもう大丈夫だからねと、冥加くんは私の鞄から覗いている通知表を指差し、無邪気に笑った。


 だ、誰が芋っぽいって。



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