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ふたりで見る、花火(5)

――結論だけを先に言うと、冥加くんは私と火神くんとは合流しなかった。



「梅野さゆりがこっちに帰省してるとはな。ほら、もう泣くなよ。わたあめやるから」

「な、泣いてなんかないっ」

「チッ…、どうしろつうんだよ。ハァ…」


 星華神社の境内の裏で、重い溜め息を吐く火神くんと並んで座っていた。

出店の明かりと祭りの喧騒が、薄暗い境内の裏からでも感じられる。

私は、泣いていない。泣いてないけど、瞼が熱くて、何かが込み上げてきそうになる。

自分をごまかすように、込み上げてくるものに気づきたくなくて、私は困ったように火神くんから差し出されたわたあめに齧りついた。無心で食べ続ける。口に入った瞬間に溶けだす甘さが、今はツラい。



 待ち合わせの場所は、鳥居の前にいる狛犬。一番乗りは冥加くんだった。

火神くんのアドバイス通りに浴衣を着ていた私は、下駄をからんころんと鳴らしながら駆けて行った。

満面の笑みで近づいて、私は固まった。冥加くんの隣に、綺麗な女の子がいたから。

『あ、ひかりちゃん。ひかりちゃんも浴衣なんだ。うんうん、いいね。戦人も喜ぶと思う』

 違う、違うって。火神くんのためじゃなくて、私は冥加くんに見て欲しくて。

『ひかりちゃんは面識あったかな。さゆり。夏休みだからこっち来てたみたいなんだよ。

誘ってくれたのに悪いけど、祭りは戦人と二人っきりで楽しんできて』

 浴衣を着て髪をアップにまとめた梅野さゆりが、冥加くんの服の袖をちょこんと掴んだままお辞儀をする。

 ねえ、もう別れたんでしょ?なんで、袖持ってるの?冥加くんも持たせてるの?

『いい知らせ期待してるね。行こうか、さゆり』

 呆然とする私の横をすれ違いざまに冥加くんは耳打ちして、そして梅野さゆりに私には一度も見せたことのないような男の顔をしてそのまま人混みの中に消えて行った。

『遅れた!いや、言い訳すると先に着いてたんだけどよ、誰もいなくて、んでちょっと出店で食ってたら…って、ああ?冥加はまだ来てねぇのかよ?』

 両手にわたがしとイカ焼きを手に遅れて登場した火神くんが、怪訝そうな顔をする。

『行っちゃったよ』

『は?行っちゃった?どういうことだよ』

『元カノにとられちゃった、冥加くん。先に約束をしてたのは私たちなのに』

『上地……』



ぱぱんぱんぱんっ。


「あ」


ぱんっ。

ぱぱんぱんぱんっぱんっ。


夜空に光の筋が立ち昇り、色とりどりの華が咲く。


「上地、花火だ」


星よりも明るい花火の光が、私たちを照らす。


「知ってる。そんなの見たら分かるし、聞こえてる」


火神くんがくれたわたあめも食べ切って、私は少し鼻声のまま答える。


「オレと二人で花火見ることになっちまって、マジゴメン」


ぱんっ、ぱんぱんぱんっ。


「別に。火神くんが謝ることじゃないし」


ぱんっ、ぱんっ、ぱんっぱんっ。


「けど、悪ィ。罪悪感感じるつうか、な」

「そんなの感じなくていい。わ、悪いのは、梅野さゆりを優先させた冥加くんだからっ」

「……だな」


ぱぱぱぱぱぱんっ。


「オレのこと、オマエなら戦人って呼び捨てにしてくれて構わねえぜ」


 女は苦手だけど、と火神くんは前置きする。


「なんかオマエのこと応援したくなったわ」


 そう言って、火神くんは―――戦人は、ものかなしげに目を細めた。

 夜空に咲いた華が、シャワーのように崩れ落ちて光の筋を作る。

それから私たちは並んで座って、黙ってただ花火を見た。


▼ 火神 戦人 の 攻略情報 が 開示 されました。

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