イベントだけを起こすと、バッドエンド直行だよ(2)
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光陰矢のごとし、体育祭はあっという間に終わった。
借り物競走で『好きな人』と書かれた紙を冥加くんが選ぶこともなければ、私が最終種目のフォークダンスで冥加くんと踊ることもなかった。
冥加くんは『おたま』と書かれた紙を選んで失格、フォークダンスは私と踊る直前で音楽が終了。神様がいるなら残酷だと、嘆かざるを得ない。
体育祭は学年別のクラス対抗だが、私のクラスは12位。最下位であった。
木ノ内くんはそのことに若干の責任を感じているようだが、体を動かすイベントに関しては不真面目な進学クラスという定評があるので、彼以外は結果を特段気にしている様子はなかった。
私はと言えば、まだ得意なはずの玉入れで、何をとち狂ったのか、勢いよく投げ過ぎて、他クラスの籠の中に放り込んでしまった。その時は、前の席の赤いメッシュの男子に睨まれてしまった。ごめんなさい。
今月第一回目の図書委員の仕事の帰り、本を抱きかかえてご機嫌な気分で廊下を歩いていると、前方から冥加くんが歩いているのに気づいた。
「あ、冥加くん!」
小走りで駆け寄る。
「―――上地さん。良い所で出会ったね。ちょっと、こっち来ようか」
「うん?なに?」
貼り付けたような笑顔を浮かべる冥加くんに手招きをされ、空き教室に連れて来られる。
「――ひかりちゃん、ぼくのアドバイス無視し過ぎだよ?」
感情が抑えられた静かな声から、冥加くんの怒りを感じる。
びくっと肩を竦ませても、冥加くんの怖い笑顔は崩れない。
彼は肩からかけた鞄をがざごそいじって、ファッション雑誌を数冊取り出す。
「はい。姉ちゃんから借りたから、これでも読んで、見た目を気をつけよう?
……木ノ内くんはどうやら、ひかりちゃんのことを完全に恋愛対象外と見てるみたいだからね。次の奴に行こう」
「お、おっけーです」
大人しく返事をして、図書館で同じ図書委員の子から借りてきた本の上に重ねた。
お姉ちゃんから借りてくるなんて、冥加くんの本気っぷりが怖い。読む気分じゃないんだけどな。
「あ、その本」
借りてきた本のタイトルを見た冥加くんが、声をあげる。
ズボンのポケットからスマホを取り出し、いじりだす。ちらりと私の本を見て、またすぐに画面に目を戻し、彼はうんと満足げに頷く。
「うんうん、良いチョイスだね、ひかりちゃん。
どうせぼくの貸したその雑誌はなかなか読まない気でしょう?
すぐに雑誌読まなくていいから、明日、温室にその本を持って行きなよ」
「温室?」
雑誌を読む気がないことを見透かされたことにひやひやしながらも、私は冥加くんからの謎の指示に首を傾げた。
温室って、あれだろうか。入学してから一度も訪れたことはないが、学園長の趣味で作られたという鳥かごをモチーフにしたガラスの温室。美化委員に花壇の水やりをやらせても、温室の世話はさせず、業者に任せるくらい本気のあそこ?
「そ。次のぼくのターゲットがいるから。もし行かなかったら……わかってるよね?」
声のトーンが下がる。
「行かなかったら…?」
私は固唾を呑んだ。
「ひかりちゃんのこと大嫌いになるから」
真顔。
「……!!?」
「じゃ、頑張ってね。健闘を祈ってるよ」
真顔から一転、破顔した冥加くんは、そう言って軽い調子で手を振って、空き教室から出て行った。
取り残された私は、まだ固まっていた。
大嫌いになるって、これ、絶対冥加くん私の気持ちに気づいてこんなこと言ってるよね?