第九章 嘘と真実
第九章 嘘と真実
夜とアリスが疾走してから、早一年が経過した。いまだに二人は見つからない。
「どこ行った、夜」
「……」
大学を辞め、働いている春は、昼食を喫茶店で食べていた最中に、志菊がやって来て合席になってしまった。
「なあ、春は知っているか。星空ちゃんが、一度死んだと思われたことがあるってこと」
「……まあ、知らなくはない。話だって聞いている。志菊、アリスは何者だ」
「……」
煙草を一本口にくわえ、ゆっくりと味わい煙をまき散らした。
「お願いだ。教えてくれ」
「……」
「場所は知っている。でも、夜は自分でアリスについて行ったから、引き戻すなんて言う野暮なことはしない。だから、頼む、教えてくれ」
「……アリスは、俺の親の親友の子供だ。だから、俺と冨野とは血が繋がってない。夜空ちゃんが死んだと聞かされたのは、俺の親も医者だから。だから知った。でも、アリスが消えたのは知らなかった。必ず、家に誰かいれば挨拶するルールがあるからきっと、俺たち全員用事だった時だと思う。飯を食べる時に、一向に降りてこないから、部屋をのぞけば誰もいない。アリスが今、きっといる屋敷は、アリスの本当の親の物らしい」
「そう……アリスは家族じゃないのか」
頼んでいた熱々のグラタンは、いつしか冷えたグラタンに代わっていた。
「父さんが言っていた。アリスは少し変わっている。アリスは、欲しいもののためなら手段を選ばない。たとえ、その大切なものに傷をつけても。そのことを聞いて俺は思った、アリスと結ばれる人は、脅威依存じゃないのかって。」
「それでも、夜はアリスを選んだ。平凡な日常より、明日も生きられるかわからない不安定な生き方をね。なら、親友の私は見守るだけよ。でも、お葬式で顔を合わすことになったら散々嫌味言ってやるから……」
涙を堪えている姿が、愛おしいと思った志菊は人目を気にせず春を抱きしめた。人前でイチャつくことを極端に嫌う春でも、今日ばかしは仕方なかった。
「脅威依存、そうかもね。馬鹿兄貴は、狂っているから。それでも、その馬鹿兄貴を羨ましいなんて言ったら、志菊はどんな顔をするのか、少し面白そうだけどもうちょっと後に取っとこうかな。だって、まだ志菊は私なしでも生きていけそうだから。残り九年……」