第八章 記憶と昔
第八章 記憶と昔
夜が目を覚ました場所は、大きな部屋のベッドの上。
起き上がり辺りを見回してみると、金持ちの部屋のようだ。
「あ、起きた」
ドアから入って来たアリスは、平然と夜のいるベッドの上に座った。
「さあ、どこから話そうかな。やっぱり、十一年から恋していた方から話そうかな。俺たちは今から十一年前だから、俺は六歳で夜が五歳の頃に会っているよ。ほら、覚えてない。夜たち家族が海水浴で海に来た時、夜は海に足元をすくわれ溺れてしまったこと」
「あ……」
その日は、夜の誕生日で好きな場所に連れて行ってくれると言うので、夜は家族で海に行った。海に行ったら白夜の気分転換になるかもと思っていたからである。
でも、白夜は海についても、泳ぐことも水着に着替えることもせず、両親に見取られながら勉強をしていた。自分だけでも楽しまなくては、どうしてここに行きたかったのか、と後でぐちぐち言われることが目に見えてわかっていた。
でも、五歳児に海の危険さが分かることもなく、簡単に溺れた。護衛は来ていたが、白夜の方に全員行って誰も、夜の事を見ていなかった。溺れている五歳の夜でもわかった。このまま死ぬことが。
でも、奇跡が起こりどこかの島に流された。そう、この展開だとアリスに会うのだが、残念ながらあったのは腹を空かした虎にあった。無我夢中で逃げた。
そこで、見つけたのが大きな屋敷。そこで、アリスと会った。
「全部思い出したみたいだね。よかった、全部話すのはいいけど、やっぱり自分で思い出してもらわなきゃ俺が悲しいだろ」
「本当に、ウサギなの」
「うん。名前まで思い出してくれてありがとう。あ、でも本名はアリスだから。ウサギはペンネームみたいなものだから。ちなみに、ココも俺と夜が会った場所だよ。気づいた」
もう一度辺りを見回した。記憶が徐々に思い出した。
「それと、何か所か訂正しておくと、その背中の蝶跡は俺が付けたよ。別れ際にね」
「嘘……だって、両親が珍しくあたしを呼び出したのよ」
「ああ、それだったら、そう言えって俺が言ったから」
「意味……わかんないよ」
「うーん……そうだな、それじゃ、やっぱり位置から説明した方がいいかな、あの時のショックで記憶全部消えていると思うし。まあ、それ全部俺の所為だけどね」
「記憶が消えている、ショック、須藤先輩の所為」
頭を抱えながら下を向く夜に微笑みを浮かべ、別途から腰を上げ紅茶を入れだした。
「そうだね、この屋敷までは思い出したから、その次だね。夜はこの屋敷の中に入って、今いるベッドの中で寝ていたよ。まあ、仕方ないけどね。溺れてここまで流されるは、気がついたら虎がこっちまで接近しているはで、くたくただったろうからね。それでも、また目を覚ましたら、俺が目の前にいるわけ。それで、話を聞くためにこうやって紅茶を出したの。ここまで思い出した」
カップを二つ持ち、片方を夜に渡した。カップを受け取ると、記憶が走馬灯のように流れた。
「その様子だと、思い出したみたいだね。よかった、よかった。それから、夜はココに何日も居たよ。本もココでいっぱい読ませたのも俺だし、カードゲームやボードゲーム、テレビゲームなどやり方を教えたのも俺。しかも、ヒーローの話をしたのも俺だよ」
「わ、わからない」
「別にいいよ、今すぐ全部思い出せなんて言わないから。徐々に思い出してくれれば構わないから。でも、話は進めさせてもらうね。何年ココに居たかな……やだね、人に話すのに僕まで忘れているなんて……ああ、思い出した。五年だよ。夜はココに五年いたよ。突然夜が、兄さんが心配だから帰るって言い出したのが始まり。だから、俺は夜にお土産を渡した。それは――」
「蝶をくれたよね。黒い色の蝶を。絶対に、肌身離さないでいるために、アリスはあたしに……」
すべてを思い出した夜は、アリスを見た。
五年間この屋敷にいた夜は、白夜のために家に帰ると言った。そこで、アリスは黒い色の蝶の焼き印を入れられた。
そして、外に出て崖から突き落とされた。継ぎ目を開けた時は両親が経営する病院だった。
「さすがだね。全部思い出したみたいだね。それじゃ、夜を崖に突き落とした後の話をしてあげようかな。血まみれの夜を、抱えながら夜の両親に会ったよ。夜と俺を見て、びっくりしていたな、水死したはずの娘が血まみれで、しかも知らない同い年っぽい俺に連れて来られたら、何の冗談だと言われるし、警察に連れて行かれる。でも、夜の親は賢い。さすが、自分たちで病院を運営しているだけある。俺を警察に突き出せば、夜の両親が隠していることをばらす。そんなこと言っても、信じなかったから証拠を出したよ。その証拠が、夜が見せてくれた文庫本のようなノートだよ」
「……」
「取引は無事成功したから、あとは変えるだけだけど、一つ言い忘れていたから、言ったの。夜は、海に言った記憶をきれいさっぱり忘れている。本当のことを教えるかどうかは、あんたたちの自由。でも、嘘をつくなら背中にある跡は、生まれたと同時に付けたとか言っておいた方がいいと思うよって。ああ、最後に。もし、夜がすべて思い出したとき、夜は俺が貰うから横取りすんじゃねえって言って帰ったよ。後は、夜が見たまんま」
「……」
「おーい、夜。聞いている。それとも、嫌いになった」
ずっと無言のままの夜を、見ると微笑み身を浮かべたまま手に持っているコップを近くの机の上に置きアリスに抱き締めた。
「なわけない。もっと余計に好きになった。アリス、私を離さないで。大好き、愛している」
「当たり前だろ、離さない。もう、誰の目にも触れさせない。夜は俺の、俺は夜の。夜、愛している」
ベッドに二人同時飛び込み、愛を育んだ。
誰にも邪魔されない、二人きりの人生が今まさに開かれた。