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探し物  作者: 柊 琥珀
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第七章 告白と返事

第七章 告白と返事


 卒業生当日、卒業生代表の言葉をアリスが言い卒業式の幕を閉じた。夜を探しているアリスに、女子生徒たちは群がった。その女子生徒たちを前までだったら、軽くあしらっていたが今は冷たく払いのけた。

 教室、体育館、図書室、音楽室いろいろな所に行ったが、夜は見つからなかった。

「どこにいるんだよ」

 苛立ってきたアリスは考えた。今まで夜とどこにいたのか、夜とどこで会ったのか考えていくと、一つの記憶にたどり着いた。

「まさか……」

 走った、とにかく走った。夜だという証拠は何もない。そこに夜が現れる保証もない。けれども、夜かもしれない。そうであってほしいと願っていた。

「夜」

 走って着いた場所は中庭。一年生の教室からよく見えるベンチの上に座っていたのは夜だった。夜は立ち上がりアリスの方を向いた。

「須藤先輩、卒業おめでとうございます」

「ありがとう……夜、もしかして化粧しているの」

 夜の顔は、文化祭のときのように美人だった。

「いいえ。この顔があたしの素顔です。兄さんと似てないでしょ」

「……」

 笑う夜の顔は、正しく白夜を女にしたら今の夜だろう。なのに、夜は似てないと言う。

 今の夜を見た男どもは、夜をほっとかないだろう。

「二週間前、兄さんから手紙が来ました。最初の方は、他愛のない話で最後に注意事項が書かれていました。一つ、ピアスをしないこと。二つ、髪の毛は染めない。三つ、自分の素顔に自信を持つこと」

「白夜さんは、知ってみたいだね」

「はい。兄さんにそう言われて、これからは嫌いな自分の顔と向き合おうと思います」

 その一言にびっくりしたアリスは、もう一度聞き返した。

「嫌いなの、自分の顔。何で」

「だって、カッコいい兄さんの隣は、可愛い顔の妹ですよ。普通は。あたしは可愛いとかけ離れているこの顔が嫌いでした。兄さんが家を出て行った時は、あたしの顔が原因だからかもと一時期、思っていました。だから、春が羨ましかったですけど、今はもう大丈夫です」

「そっか……」

 ベンチに力なく座った、アリスの隣に夜も座った。

「この場所に来た、ってことは須藤先輩なのですね」

「うん」

 

受験当日、夜は窓側の席の後ろから二番目の席で、テスト中ふと外を見ると今、夜とアリスが座っているベンチに寝転んで、開いたままの本を顔に載せ寝ている先輩の姿を見つけた夜は、最初はそんなに気にしてはいなかったが、昼ご飯を食べ、最後のテストを受けている時、さっきの人の姿が頭に浮かび、もういないだろうと外を見ると朝と同じように寝ているのが気にかかり、テストが終わってからそそくさと教室を出て、中庭に行き寝ている男子生徒の側に近寄った。

「その日、何と言ったか覚えていますか」

「あなたは宇宙人ですか、でしょ」

「はい。そう言ったらその人は、俺が宇宙人なら今、みんなから嫌われているよ」

「改めて思い出すと、笑えるね。その日はオールして、朝の九時半に自分のベッドで寝ようと横になろうとした時に学校から呼ばれて、学校に来たまではよかったけど、校舎内に入ると眠気が襲ってきて中庭で寝ていただけだよ。夢と現実の中間にいた時、話し声が聞こえたから答えたけど、起きた時は誰もいないから夢かな、って思ったけど……夜だったと言うことだね」

「はい」

 優しく夜の髪に触れ、夜を見た。

「俺が夜を好きになった理由、言ってないよね」

「ええ、そうですね。あたしはずっと春の隣にいたので、春に嫉妬してほしいのか、春と仲良くなるための橋をかけて欲しい人たち。その人たちがほとんどの確率で、あたしに近づいて来るので……」

「だから、あんな心にもないこと言って、振ってくれた訳か。俺は春ちゃんじゃなくて、夜が好きなのに……まあ、いいよ。俺の話を聞いてくれたら」

 アリスが二年生の梅雨が明け始めたころ、アリスは体育の授業でサッカーの試合をしていた。その当時のアリスは、男子生徒たちに毛嫌いされていた。

その試合で、わざと敵に怪我をさせられた。アリスは右膝部分から、血があふれ出ていた。男子のほとんどが嘲り笑っている。女子の方は黄色い声を出叫び声を上げながら近づいて来きた。アリスの怪我の具合は結構ひどく一人で立って保健室まで行けそうになかった。そんなアリスの横で、男子と女子は喧嘩を始めた。

アリスはその様子を無視し、どうやって保健室に行こうか考えが浮かばず、仕方なく体育教師を探したが、どこにもいなかった。徐々に怒りがピークに達しようとしている時、ふと理科室の方を向いてみると、こっちを見ている女子生徒と目があった。

目があった女子生徒は、理科室から出て行きアリスの方に競歩でやって来た。一方、女子生徒が来ることをアリスは、これ以上増えるのは厄介だなと思っていた。

アリスの目の前に立つと、女子生徒はアリスの腕を自分の肩に回し、アリスを立たせた。その瞬間、さっきまでアリスを放置して男子たちと喧嘩していた女子生徒たちが、アリスを立たせ密着している女子生徒を、罵倒する言葉を浴びせた。

その言葉を気にするそぶりを全く見せない女子生徒は、アリスをそのまま保健室に連れて行った。

あいにく、今日は保健室の先生は出張で不在だったため、治療までもやってあげた。

 その女子生徒が夜だってことがわかるのは、もうちょっと後の話。

「あの日の夜に、俺がお礼を言ったらなんて返したか覚えている」

「……ああ、思い出しました。お礼を言うのはあたしではなく、自分の彼女に言ってください、でしたよね」

「そ、正解」

 保健室の中にいつ入って来たかわからなかったが、その当時のアリスの彼女が心配そうに立っていた。

「次の言葉が。彼女さんが外ばっかり見ていて、片付けが全然進まなかったので、先輩を助けたまでです。他に理由はありません。それでは、後は任せましたよ、ですよね」

「そうだよ。すぐ出て行くから、名前聞けなかったけどね」

「名乗るほどの者じゃありません」

「まあ、名前はその当時の彼女に聞いたよ。ちなみに、そのとき保健委員だったから、そんな手際が良かったことも知っているよ。後、このことがきっかけで、俺は夜を好きになった。誰でも、分け隔てなく接するところが好きだよ」

「翌日には、なぜかアリス先輩がベッタリでしたからね。最初は、嫌がらせか何かと思いました。まあ、最終的にあたしが下した判断は、さっき言ったことですけどね」

「だから違うからね。あれは、夜の気を引きたかったからしたこと。あの日からずっと好きだよ」

 顔を真っ赤にしながら、顔ごと下に向けた夜を見て、機嫌がよくなったアリス。その様子に気づいた夜は、勢いよく顔を上げ、アリスを睨んだ。

「あたしも、須藤先輩に興味がわいた瞬間くらいありますよ」

「う、嘘。いつ」

 夜が一年生のクリスマスイブ前日。

今日もアリスは夜のところに行こうとしている時に、一人の女子生徒がアリスに駆け寄り、腕を絡めるように隣を陣取った。

女子生徒の要件はいたってシンプルでわかりやすいものだった。アリスとクリスマスイブを一緒に過ごすことだった。しかも、それはもう決定事項だと言い張る。

そこに運悪く別の女子生徒が来て、腕を絡めている女と同じことを言った。当然のように女子生徒の二人は喧嘩をやり始めた。

「その二人、私がアリスの彼女なのよ。いいや、違う。アリスの彼女は私に決まっているのよ。自意識過剰女。そっくりそのまま返してあげる。とか何とか言って周りの目を気にせず、喧嘩していましたよね。大声で」

「アレ、見ていたの」

「次の授業が移動教室だったので、その移動中に見ていただけですよ」

一向に喧嘩を辞めようとしない女子生徒二人に、痺れを切らしたアリス。

「あの言葉で、須藤先輩に興味を持ちました」

「もういいよ、別れる。てか、そもそも俺は誰とも付き合ってない。最初に言ったよね。友達以上恋人未満の関係だって。その関係が割り切れるって言ったから、俺の側に居るよね。でも、君たちはわかってないみたいだね。なら、いらない。もう電話やメールしないで。後、俺の番号消しといて電話とメール両方。じゃ、バイバイ。こんな感じだったよね」

「はい。夏休みから変わりましたよね。あの彼女と別れ、女子生徒と友達以上恋人未満の関係を持ち始め、学校中大騒ぎ。余計に男子生徒に嫌われましたよね」

「でも、それからいろいろあって、男子とも和解したよ」

 苦笑いを浮かべるアリスを見て、話しを聞くのは今だと察した。

「夏休み、何かありましたよね」

「それ、聞いちゃう普通……」

「あたしの普通と須藤先輩の普通を、一緒にしないでください」

「……わかったよ。かっこ悪いから絶対に言うつもりなかったけど……」

 腹をくくったアリスだが、さすがに夜の目を見ながら話すことができなく、下を向いたままはなしだした。

「嫉妬だよ」

「……」

「だからね、夜に嫉妬してほしかった。夏休み中考えていた、ずっと。だから、夏休みの宿題結構ギリギリだったよ」

「夏休みの宿題が出来なかったことの言い訳に、あたしの名前を出さないでください」

「冗談だよ、ちゃんと宿題は夏休み入って一週間で終わらせたから大丈夫。でも、嫉妬してほしかったのは本当だよ。だから、いろいろな人と関係を持った。春ちゃんと意気投合できたのは、同じ穴の貉だったからかな。だから、春ちゃんは好きだけど恋愛対象には見えなかった」

「……コメントしにくいです」

 下を向いていたアリスは、苦笑しながら謝った。

「まあ、その当時のあたしは女の子大好きだと思っていたので、あんな冷たい言葉を言ったので、あたしの中須藤先輩のランクが少し上がりましたね」

「そっか、ならよかったよ」

 上を向き、青い空に向かって独り言のように、夜は話し方を普通にして呟き始めた。

「あたしが、ヒーローだのサブキャラだの騒いでいたのは、ある本がきっかけなの。あたしの家、病院を経営しているの。だから厳しかった。兄は毎日怒られるし、あたしは放置。だからこそ、カードゲームやボードゲーム、テレビゲームなど何でもできた。親が厳しくするのは兄妹ではなく、兄さんだけってこと。別に、兄さんが羨ましいとは一度も思ったことはない。この時点でもう私は本の虜だったから。意味不明だと顔にかいてあるよ。まあ、今から説明してあげるから」

 まだ上を向いたまま、目を閉じた。

「現代の若者は本を読まないと、ニュースでも取り上げられていたことがある。あたし的にそのニュースを見て考えたの、本は人によって変わる。あたしは、本は麻薬だと思っている。でも、苦い薬と思う人もいる。好んで苦い薬を飲む人なんていないでしょ。それでも、麻薬だと思っているあたしには本を手放せない。本から得られるのはなんだと思う」

「そんなの、決ま――」

「ああ、別に答えなくてもいいよ。須藤先輩が言いたい言葉はわかっているから。普通の人は、漢字や文章に強くなるためや、人のことを思いやる気持ちなんて言うけど、本当にそれだけ。否、それは間違え。本から得られるのは人の本性を暴くコツ。あたしは本に教わった。この世は嘘ばかり、騙し騙され生きていくこの世の中で、一番騙しているのは誰。一番騙されているのは誰」

「……」

「須藤先輩、わかるよね。一番騙しているのは、自分の利益にさせようと企む大人。一番騙されているのは、親の言うことは絶対の純真な子供。本当、腐った世の中だよ。その世界に小さい頃から踏み込んでいる兄さんを、羨ましくはないけれど憧れに似た尊敬をしているよ。そんな兄さんこそ、ヒーローだよ。あたしがさっき言ったあの本って言うのは、この本だよ」

 スカートのポケットから、文庫本を取り出し、アリスに渡した。

 アリス、その文庫本を開けて目を見開いた。

「それは、あたしの親が大切にしている本で、絶対に触るなと言われてきた物だよ」

「でも、コレ……」

 文庫本の中は、真っ白だった。これは、本の形をしたノートだ。

「そう、嘘だった。大切じゃなくて、消したい過去の間違えだよ。何を消したいかって、そんなの決まっているよ。私の父は母親の姉が好きだった。でも、病気で死んでしまった。それは、母の姉が大切にしていた、本の形をしたノート。親戚連中に今も内緒にしているよ。ここまでたどり着くのは早かった、本のおかげだね。本の知識があったから調べられた。そして、最終的にあたしがたどりついたのは、ヒーローは純真で周りの言うことも素直に聞き物語を進み始める人のこと」

「でも、夜が言ったのは、完璧な人間の人がヒーローだって」

「そう思わないと、兄さんが何のために我慢していたのよ。私のため、家のため。否、自分の未来のためよ。それでも、兄さんを能無し人間なんて言わせない……」

 閉じていた目から涙が頬を伝って流れ落ちた。

「兄さんは、本を読んだことがないの。今はどうか知らないけど、本を麻薬のようなものとは思ってないでしょう。だからわからないのよ、ヒーローの利点なんてない、ヒーロー何てただの操り人形じゃない。私はそんなのまっぴらごめんよ」

「夜。俺は、夜から見たら、ただの操り人形に見えたのか」

「いいえ、違う。一本線を引きたかったの。逃げられるために」

「夜が、俺から逃げられるため」

「いいえ、須藤先輩が私から逃げられるためよ」

 目を開け、アリスを真っ直ぐ見た。

「それ、どういう意味。俺の言っていること、まだ信じてないの」

「信じている。でも、もしもの場合よ」

 髪を耳にかけ、目線を斜めに下げた。

 この仕草は、夜が何かを隠しているときの仕草だとわかっているアリスは、夜に詰め寄った。

だてに、好きだと連呼しているだけある。

「何を隠している、夜」

「……」

「言ってくれ、お願いだから」

「……」

 無言のまま、夜はベンチから立ち上がり制服を脱いだ。

「そ…れ」

「そう。コレが、あたしがヒーロー……じゃないね、ヒロインの方だね。あたしがヒロインになれない証拠」

 夜の背中には蝶のような跡がついていた。

「生まれた瞬間つけたらしい。二番目って証だって。万が一兄さんに何かあった時の保険だって」

「……」

「ごめんね。気味が悪いと思った。私が隠していた、最大の汚点。あたしが高校入学の時言っていた。お前は、この家から離れることはできん。高校を出れば、あたしはずっとあの家で食い物される。だからあたしは、卒業と同時に高跳びするって決めた。背中のコレを見せるのは計算外だったけど、サヨナラを言いに来たの。須藤先輩、今までありがとうございます。ずっと……ずっと好きでした。あたしは蒼時から、須藤先輩を好きになっていました。サヨナラ」

 制服を着なおした夜は、涙を拭きながら今できる最大限の笑顔を作り、立ち去ろうとした、そのとき――。

「待てよ」

 立ち去る夜の腕を掴み、抱き締めた。

「話してください、同情なんていりません」

 いつの間にか、口調がいつも通りに戻っているが、アリスはいつものお気楽な声色ではなく、男の口調だった。

「同情じゃない。夜、お前がどんな体でも気にしない。さっき、何も声が出なかったのは、これを見たお前が、誰を信用していいのかわからなかったときに、どうして会えなかったのかとか、もっと早くあってればとか、一杯自分を責めた。夜、あの日言った告白の返事聞かせて。もし、夜が俺を選ぶのなら、俺は夜の味方になる。夜を絶対離さないし、どこにも行かせない。ずっと一緒に居るよ。さあ、返事を聞かせて」

 優しく夜の顔を手で包み込み、目と目を合わせた。

「本当に、いいの……選んで、いいの」

 言葉にはしなかったアリスは、笑顔で頷いた。

「須藤先輩、好きです。好きだったなんて嘘です。愛しています……愛しています」

「嬉しいよ、ようやく長年の恋がかなった。やっぱり、十一年は長かったよ」

「え、何で十一年間……」

「それは、次目覚めた時ね。後、次はアリスって読んでね。お休み、夜。俺も愛しているよ。この世の誰よりも」

 行き成り口付すると同時に、睡眠薬を飲ませた。


「お帰り、夜。もう、誰の目にも触れさせないし、誰にも触らせない。でも、その前にやっぱり俺たちがどうしてであったのか、思い出して欲しいからそっちの方が先になるけど、許してね。夜、愛している二人の愛の巣に今から行くよ」


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