第二章 がんばりと目標
第二章 がんばりと目標
夏休みが終わり、体育祭が近づいて来た。
「もうすぐ、体育祭だよ」
「運動音痴の春には、地獄の日だよね」
「……酷い」
海星高校の体育祭は有名であり、このためにこの学校に入る人もいるくらいだ。
「夜は何の種目に出るの」
「今年はパス」
「え」
お弁当を仕舞い、パックのミルクティーを飲み干すと、一メートル先のごみ箱に投げ見事入った。
「何で、やろうよ、一緒に」
「ごめん」
その日から春は、夜に体育祭に出ようと猛アッタクしたが、まったく効果がなかったため最終手段にでた。
「夜」
「喋るな、馬鹿。馬鹿菌が移る」
「酷いなあ、俺はコレでも全国模試トップ五に入ったよ」
屋上で寝ていた夜はアリスによって起こされ不機嫌だが、邪魔した本人は何事もなく普通に夜に接していた。ちなみに、今は五時間目。夜のクラスは体育でアリスのクラスは英語。
「春ちゃんから聞いたよ。体育祭出ないらしいね」
「須藤先輩には関係ありません」
別の方向に転がると、アリスも付いて来てどうしてもアリスの顔を見なければならなかった。
「ねえ」
「五月蝿い」
「それじゃ、勝負しようよ」
「嫌です」
即答しても話を進めるアリスに半ば呆れかえる夜。
「体育祭で負けた方が勝った方の言うことを絶対に守らなければならない。どう、簡単でしょ」
「……関わるな、とかでも」
「もちろん、いいよ」
数分見つめ合っていたが、夜が深いため息をつい了承した。こうして、夜も体育祭に参加することになった。
体育祭当日
「快晴だね」
「見ればわかるよ」
「……夜は、どの種目に出るの」
不機嫌な夜に気を遣い、話題を変えた春。
海星高校の体育祭は、参加するなら必ず一人三種目は出なくてはならない。種目の種類は三十種類以上もある。なので、海星高校の体育祭は三日も続く。
「全部」
「……」
どうして夜が全種目出なければならないか、春は何も言わなかった。夜が全種目でなければならなくなった、諸悪の根源がやって来た。
「やあ、夜に春ちゃん。正しく体育祭日和だね」
「そんな呑気で馬鹿な顔と今日で見納めすると思えば、晴れていようが曇っていようが、あたしには関係ないですけどね」
二人の間に変な空気が流れているまま、体育祭が始まった。午前の部は、主にフィールド競技。
海星高校の体育祭は、一・二・三組が赤組で四・五・六組が白組の二チームに別れており、夜と春は赤組でアリスは白組なので、勝敗は優勝したチームである。午前の部はアリスの活躍により、一五〇点差まで差を広げた。
「夜……大丈夫」
「う……」
午前の部の全競技に出た夜は、春の膝を借りて横たわっていた。春よりは運動できるが、アリスのように可憐に一位を取れるような運動能力を持っていない夜は、昼ご飯も食べられないほどだった。
「あれれ、夜。もしかして、もうギブ」
「……」
「須藤先輩、夜が何で全競技に出ているのか、説明してもらってもいいです」
春の隣に座り顔を真っ青にしている夜の頭を撫でたが、すぐに叩かれてしまった。
「うーん……まあ、要はハンデだよ」
「ハンデですが」
「うん。俺は午後の部は、強制種目以外は出ないことの代わりに夜は全競技出る、ってこと」
「……」
「そんな目で見ないでよ、春ちゃん」
呆れている春から目を逸らすため寝転んでいる夜の方を向くと、夜もアリスと反対側に寝返りを打ち、午後の部が始まるまで眠りだした。
「よく、勝てる自信とかありますね。体育祭は、三日間ですよ」
「あるよ、ありまくり。俺を誰だと思っているの。春ちゃんや赤組の人たちには悪いけど、二〇〇点以上は差をつけて白組が優勝する自信がね。ところで、何で、俺たちが勝負しているのか、何で知っているの」
「夜が息巻いていたから。夜は、人一倍わかりやすい。隠し事できないタイプですから」
「なるほど」
こうして、午後の部が始まり体育祭一日目は、白組の五〇点差で幕を閉じた。
三日に続いた体育祭も最終種目となった。
「次の種目、一位を取れば赤組の逆転優勝だよ」
「そうだね。春は出る」
「うんん。あの競技はさすがに出られないよ」
最終種目は、障害物リレー。クラスに一人出し、九人でリレーをする。ルールは普通の障害物リレーだが、範囲がとことん広い。
第一走者目は、グラウンドを走るが、第二走者目から九走者目は、校外で走る。もちろん、障害物はあるが障害物の規模がでかくなった。例えば、巨大ボールの上に乗り次の障害物まで転がすのがある。
最終結果、アリスの予言した通り二一三点差をつけて白組が優勝した。
体育祭が終わり、生徒だけのイベント。そう、キャンプファイヤーが始まった。
「須藤先輩、近いです。無駄に近いです」
「それが、敗者が勝者に言う言葉なの」
皆キャンプファイヤーの周りにいて、校舎の陰に隠れている夜とアリスに気づく人などいなかった。
「なら、早く行ってください。あたしも、春のところに行きたいです」
「そっか、じゃ今日から夜は俺の彼女な」
外が暗くなり、夜の赤くなった頬を隠した。
「ほ、滅びろぉお」
叫びながら走り去りさった。初めて、タメ後になった記念でもある。
こうして、夜とアリスは付き合い始めた。
「ほら、手に入った。でも、忘れているのか。まあ、仕方ないか。約束まで、あともう少し」