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英雄のご子孫ご一行(仮)  作者: 赤月
辺境の森での日々
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辺境の森①

 「フレイヤ、起きる。」

 

 「フレイヤ、起きる。」


 5年間毎朝、左右両方から起こされるのには慣れてもいいと思うんだけど、ぜんぜん慣れないのはなぜかしら・・・。


 「フレイヤ、起きない。」


 「フレイヤ、起きない。」


 「フレイヤ、起きない。ご飯無い。」


 「フレイヤ、起きない。ご飯無い。」


 「ハティお腹すいた。」


 「スコルお腹すいた。」


 「あぁ!!もうわかったわよ。起きたらいんでしょ!!起きたら!!」


 私のベッドの左右に犬の顔と手だけがある。いや違う、ベッドに顎を乗せているのだ。左に黒毛のハティと右に茶毛のスコルがベッドの私を覗き込んでいるだ。


 「ハティ、スコル窓開けて。」


 ハティが踏み台をもってくるとスコルがそれに登り、跳ね上げ戸を開け、つっかえ棒をしてくれる。窓から差し込む光は、都のそれのようにきつくも無く、森の葉々の自然なカーテンで柔らかい。家のそばを流れる小川のせせらぎも小鳥のさえずりも殺伐とした都にはなかったものだ。私には、森の中(こっち)の暮らしのほうがあっていると思う。


 「フレイヤ、ご飯まだ?」


 「フレイヤ、ご飯まだ?」


 ハティとスコルが狭い踏み台の上に乗り、私を急かす。愛くるしいほどくりくりした目を輝かせ、くるりと巻いている尻尾を懸命に降る姿からは、彼らが犬人(コボルト)族と呼ばれる妖魔だとは思えない。むしろ寒い夜にはハティは茶色のスコルは黒い毛は柔らかく撫ぜ心地もいいし毛布代わりになるが、彼らのカードには、きっちりと『種族:犬人族』と明記されている。

 犬人(コボルト)族といえば、妖魔の中でも代表格的な存在だ。小鬼(ゴブリン)よりも繁殖力が強く、平原や森の中はもちろんの事、人が住みにくい雪山でも砂漠でも数十匹で集落を作る。ただ、繁殖力が強い代わりなのか、妖魔の中でも単体での攻撃力なら成人男性なら戦闘経験が無い人でも十分対抗できるといわれているほどだ。はぐれ犬人(コボルト)なんて聞いた事が無いぐらい群れで活動する為、小さな村が犬人(コボルト)族によって、壊滅した話も稀に聞く、野生の犬人(コボルト)を1匹見たら30匹はいると思え。これが世間での犬人(コボルト)にたいする見解だ。

 

 急かす2匹と一緒に寝室から出るとそこは、囲炉裏がある台所兼居間兼玄関だ。簡単にいうと、この家には、2部屋しかない。1部屋は、ベッドだけで一杯になる寝室とそれよりすこし広いこの部屋だけ。都でお養父さんと暮らしていた屋敷から考えれば、庭先にある用具入れ程度しかないけど、住んでいるのが、私たちだけなのだから今の所問題はないだろう。


 昨夜、残しておいた焼いた鹿肉を2匹に与え、私は、森で取れた果物をかじりつつ、外に出、家の前に流れる小川で顔を洗い身支度を整え、今日やるべきことを整理する。都にいた頃は、なにも考えなくてもメイドや爺が、全ての世話をしてくれ、私は頷くだけで良かったが、ここではそうは行かない。ちょっとした間違いでも死に至る事があるかもしれないのだ。


 「フレイヤ、今日何する?」


 「フレイヤ、今日何する?」


 「スコル、肉食べたい。」


 「ハティ、魚食べたい。」


 食事を終えたばかりで次に出てくることは、また食事。決して朝食が足りないわけではなく、考えることは、本能そのままだと長い付き合いで理解している。召喚魔である為、繁殖についての本能がない事だけが、救いだった。これ以上、食欲魔が増えたなら都に戻ってお養父様に頭を下げてまた養ってもらうか、畑を作るしかないだろう。といっても畑の作り方の本など読んだ事が無いから都に戻るしかないのだ。


 「今日は、狩りも釣りもしません。今日は、ドグルおばーさんに頼まれてる薬草取りに行くよ。」


 「あそこ臭い。」


 「あそこ臭い。」


 たしかにドルグおばーさんがいる洞窟は、小鬼(ゴブリン)族に伝わる秘薬を作ってるらしくいつ行っても鍋で妖しげなものを煮ていて臭い。でもドルグおばーさんに薬草を持っていくのと物々交換で、自分で手に入れれない物をもらえているのだから臭かろうが、何であろうが頼まれ物は持っていくのだ。


 「文句言わないの。『空の柱』の木の根元に生えてる『ツンツン草』取りに行くからね。」


 「あそこ嫌い。」


 「あそこ嫌い。」


 また文句をいう。同じ辺境の森の中にあるのにドルグおばーさんが、薬草を取りにいけないのとハティとスコルが嫌がるのも同じ理由だ。あそこは妖魔達と仲が悪い妖精たちの縄張りであり、妖魔が入り込んで見つかってしまうと戦いになるらしい。それでもツンツン草を手に入れるため、小鬼(ゴブリン)達は、死を覚悟の度胸試しと称し取りにいっていたらしい。だがハティやスコルは、召喚魔であり、妖魔であるようで、すでに魔法生物の為、妖精もいい顔はしないが、追い出されはしないのだが、それでもこの2匹には居心地が悪いそうだ。


 「さぁ、早く行く用意して!!じゃないと今晩は、空の柱の下で一泊するよ!!私は、うれしいから構わないけど、あそこの晩御飯は果物か野菜しかでないからね!!」


 2匹は眉間に皺を寄せると短い足で必死に家に走り込んで用意をしだした。そこまで嫌がることはないと思うんだけどな・・・・。私も小屋に入り用意を整える。この家周辺は、訳あって、安全なのだが、離れるとそこは、人々が恐れる辺境の森だ。なにがあってもおかしくない。


 柔革鎧を着、マントを羽織、短剣を腰にさし、ハティとスコルの革の胴巻きの紐を結び、準備完了っと


 「いってきま~す。」


 私たちは、家の前の小川で、水筒を満たしたあと、家の横の樹に向かって手を振ると『空の柱』がある辺境の森の西側に向かって歩き出した。風も無いのに家の樹が木の葉を揺らしていた。

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