最後の決戦。~そして悪は・・。~④
ここは魔王軍の召喚魔達と魔王城の中間点ぐらいの平原。
遠くから聞こえる悲鳴や金属音、爆発音を除けば、いつもと変わらない平原。その平原の空間が音も無くいきなり切り裂かれた。まるで布のように切り裂かれた空間から2人が出てくると何事も無かったように空間はくっつき、先ほどまでの平穏が訪れる。
「へぇ・・・・・。ほんとに出れるんだ・・・。」
「嘘だとおもっていたでござるか?」
はじめに口を開いたのは、油で汚れた上着とズボン縫い合わされたつなぎを着、手には、いったいどれだけ大きなボルトを締めるかと聞きたくなるほどの戦槌並みに巨大なレンチを持っている。後ろで大雑把に縛った黒い長髪にも、きれいに洗えば男達からもてはやされそうな顔立ちも服と同様に機械油まみれであり、顔を左右に振り興味深そうにあたりを見回している。
「ヴェルンド殿先ほどにも伝えました通り、拙者の天性の才能『空間転移』は1ヶ月3回が限界でござる。宮廷魔術士殿を魔王城にお連れし、戻り、次に貴殿をここにお連れした為、もう戻ることも叶わぬのでござるが、よろしいでござるか?」
もう片方は、声色からどうやら奇妙な話し方の男であるらしいが、目元以外は、頭巾を被り、素肌を少しも露出させていないので、確認のしようがない。
「梟さん、それは困るんだけど・・・。」
「えっ!でござる!!あれだけあっちで何度も確認したでござるよ!?」
「ごめん冗談。」
一瞬、梟と呼ばれた男が、腰を落とし、背中に背負っている剣に手をかけたが、大きく息を吐く。
「で、ここからどうするのでござるか?拙者と貴殿の戦闘力で、背後からあの軍勢を打ち負かせるとは、おもってないのでござろう?」
「えっ!!無理なの!?」
「・・・・。そろそろ怒るでござるよ?」
「はい、ごめんなさい。」
ヴェルンドは、胸元のポケットから一枚のカードを取り出した。
「それはなんでござるか?」
「アイテムカード知らないの?カード化すると大きなものから小さなものまでなんでもカードにできるんだよ。こんな常識しらないないんて・・・・。」
「・・・・・・。」
梟は、もう諦めの境地だった。
どうしてこう英雄王の仲間達はどれも変な人材ばかりである。知的探求心が満たされる事が、第一の召喚魔術士にどうみても子供で、無口で感情が欠落した少女、でも異常なまでの使い手の魔術士。なにかあるとすぐに2つの魔銃を乱射する乱射狂い の2丁魔銃使いそして、この鍛冶師といい・・・。まともなのは、拙者ぐらいだな。と自分の異様な言葉遣いは棚上げした梟であった。
「・・・。さてと相手してくれないみたいだし、梟さん、貴方も英雄王と共に旅したならここから無事戻れるよね?」
「当然で、ござる。ここからあの召喚魔の軍を抜けることなど、英雄王と共に旅したら日常茶飯事の朝飯前でござる。」
「はは、だよね。それは同感。アイテムカード解除!!いでよ!!私のかわいいお人形さん!!」
ヴェルンドの声に反応し、カードが輝くとその光の中から巨人族ごとき大きさの人型が出てきたのだ。
鋼鉄で出来た手足。すこし丸みがあるが、それは紛れも無く動く鋼鉄像だ。
ただし、なぜかヴェナントと同じつなぎを着、なぜか、巻き毛の豪華な金髪であるが・・・。
「突っ込みたいところではあるでござるが、やめておくでござる。」
「意地悪・・・。突っ込んでよ・・・。」
どこか寂しげなヴェナントは、動く鋼鉄像の手に乗り、そのまま、動く鋼鉄像のつなぎにある胸ポケットに入っていった。
「では、ヴェナント殿。次は、戦勝祝賀会にて!!」
梟は、中央軍に向かって、背負った剣の柄に手を添えながらという独特のスタイルで走り去っていった。
動く鋼鉄像の胸ポケットの中にある操縦席に入りこんだヴェナントは、無言で梟を見送った。私と同じ頃ではないが、彼も英雄王と共に戦ったのならそうめったに召喚魔におくれを取ることもないだろう。自己最高主義で自意識過剰な英雄王と共に旅すれば、1個師団や2個師団を潰すのが日常なのだから。
「梟さんは、英雄王の下に向かったかな?どうせ右翼は、ハッターの馬鹿が乱射狂してるし、私は、残る左翼かな。私のかわいいお人形さん。いくよ!!」
ヴェナントが、操縦席にある感応球に魔力を注ぎ込むとかわいいお人形さんは、ゆったりと地響きをあげながら左翼召喚魔軍の背後に歩いていくのだった。
「これでもあれしてろ!!」
相手を見つけた途端、切りかかるなんてライドウさんらしいですね。でも・・。
「なんだ!?」
私が、懸念したとおり、ライドウさんの必殺の一撃は、魔王を姿を一時ゆがませただけだった。
「兄じゃ、いや魔王よ。その姿は、精神体じゃな?」
ライドウさんは騙せても私のこの知性たっぷりのどんなかによりも詰まった脳味噌は、だませんわい。
「はっはっはっは。さすがだな。弟、いや宮廷召喚士殿よ。いかにも今、そなたらの前にあるのは、精神体じゃ。物理攻撃などきかんぞ。」
私そっくりの魔王の姿が、消え去った瞬間こんどは、巨大な顔だけの姿で現れる。似てはおるが、品性というものが備わってないから似て非なる物じゃな。
「私の体は、長年の研究の成果である我が天性の才能『改造』で、作り出した。あの卵に差し出しておる最中だ!!残念だな。弟いや、宮廷召喚士殿よ。」
「我が兄いや魔王ながら凄いことをしよる!!」
「主、いやお2人とももう少し、スムーズにお話を進めれませんか?」
「「我らの邪魔するな!!」」
我が召還人ながら少し無粋じゃ。あとで折檻じゃ。
「兄じゃ、いや魔王よ!!おぬしの目的とはいかに!?」
「我が弟ながら、いや宮廷召喚士ながらそんなことも思いつかんのか、なさけないの。」
魔王は、口をゆがめ失笑するが、幼き頃より奇人変人といわれ、そのせいで私まで同類扱いされた兄じゃの考えなどわかるわけがないじゃろ。
「わからぬか、わからぬであろうのぉ~~。ここからは魔王たるわしの説明時間じゃ、弟よ。いや宮廷召喚士殿よ。主の僕に邪魔をさせるなよ?」
「わかっておる兄じゃ、いや魔王よ。」
私は、2人に右手を上げて何もするなといわんばかりに手を振ると忠実なサトウウォーリアさんはもちろん、ライドウさんさえ、おとなしく数歩下がった。ライドウを見たなにも知らぬ愚民どもは、放し飼いだとか、召喚主として、手綱をもてなどいうが、私が命じれば、おとなしく従うんじゃよ。
「うむ、さすが我が弟、いや、宮廷召喚士殿の召喚人じゃ。さてと・・。」
我が兄じゃ、いや魔王は大きく頷くと、調子こいてしゃべりだしたわい。おぬし程度の知恵でしぼりだした研究成果じゃ、すぐ私のもんにして、私の成果として発表してやるわい。ほっほっほっほ。
「まず、わしの天性の才能は、偉大なる『改造』じゃ。なのに愚民どもは、愚かなる弟の天性の才能をすごいと騒ぎ立てよった。」
あたりまえじゃ、私のほうが凄いが、今は黙っといてやろう。
「そこでわしは、この城に篭り研究した。どこまで改造ができるのか、どうすれば、改造の範囲を広げられるのかじゃ。そしてついに契約時に膨大な魔力を消費することで、強力な改造を行えることを発見したのじゃ!!」
兄じゃは、さもすごいだろという顔をしているが・・・・。ただの力技ではないか・・・。私の手柄に出来そうにないな。
「そこで、より強力な魔力を集積する為、禁断の大量生贄儀式を行い、あの巨大な赤く輝く石あれこそが、伝説の魔集石じゃ!!」
「な、なんじゃと!!あれが伝説の魔集石か!!兄じゃ、いや魔王よ。是非この手に触らせてくれ!!」
「愚かなる弟よ、いや宮廷召喚士殿ならん!!あれは非常に不安定なのじゃ、触るな!!」
「・・・・。けち。」
「主、『けち』ではなくて、あれを作る為に2つの国の住人が、全て生贄にささげられております・・・。」
「わかっとる。だが、もう終わったことじゃ。今騒いでも生贄はもどってこん!!口出し無用じゃ!!」
一喝し、サトウウォーリアさんを黙らせた。ほしい。欲しいが、触れば、壊れる!?是非研究したい・・・。
「さて、次の問題点は、あの巨大な魔集積に魔力を溜め込む方法じゃが、はじめは、地道に毎日少しずつわし1人で、送り込んでおったが、らちがあかなくての。実験的に我が弟子の全魔力を強制的にしぼりだしてみたら、まぁーすごい。けっこうな量になっての。腕に覚えある術士をさらっては、しぼりとったんじゃ。あ、ちなみに遺体は、環境に配慮して、きちんと骸骨戦士として、再利用しておるので、問題なしじゃ。」
「さすが、兄じゃ、いや魔王、環境問題にまで配慮するとは。」
私はすこし感動したぞ!!私も今度から実験で出来た失敗作の発色する緑色の液体などは無闇に捨てないようにしよう。
「姐さん、爺共なんかあれだよね?」
「ライドウ・・。言わないで・・・。ここの会話は、外に漏らしたら私達も同類と思われるから忘れないさい。」
私の背後で、忠実なる召還人がささやいておるが、兄じゃは、調子に乗ってまだ話し続けた。
「そして30人の術者から絞りとり、ついに最強の召喚魔を作り出したのじゃ。あれじゃ!!」
ででぇ~んといった感じで兄じゃが、見る先には、あの玉座の卵がある。
「あれが最強?あれしたら、あれじゃね?」
「食うな!!」
つぶやいたライドウの言葉が聞こえたのか、さすが、我が兄じゃ、ライドウと初見であるのに『あれ』の連発を理解するとは・・。ただ唾を飛ばし兄じゃがどなる。兄じゃに一番近い私にもろにいっぱい唾が飛んでくるんじゃが・・・。私は、ポケットからハンカチを出して顔をぬぐった。
「確かにあれは、卵っぽいが、あれには、なんと天性の才能『魔王』がついておるんじゃ!!おっと、口を挟むなよ今一番いいところじゃ!!魔王とは、召喚術において、魔力量などに制限される召喚数を妖魔限定ではあるが、魔力量・召喚主のレベルなどにしばられないのじゃ!!弟よ、いや宮廷召喚士殿よ。そなたでも同時にそこの4つ星と5つ星を1人ずつ召喚し、維持するのが精一杯。なのに我が偉大なる召喚魔は、無限じゃ無限!!はっはっははぁはぁ・・・。」
どうやら年甲斐も無く、興奮して一気にしゃべって息切れしたみたいじゃな。精神体の癖に呼吸が必要とは・・・。にしても・・。
「兄じゃ、いや魔王よ!!ならば目的は果たしたのではないのか?今のこの戦争はなんじゃ?」
「愚弟よ、いや愚かなる宮廷召喚士殿よ。よくぞ聞いた!!あれは、最強ではあるが、所詮わしの召喚魔じゃ。あれは見ての通り、『魔王』以外のステータスは、赤子並じゃ、だからわしは、あれを6つ星ランクに成長させる為、大量の召喚魔を出現させる魔力を補う為、術者やわしから魔力を絞りとり、召喚魔の軍を作ったのじゃ、その召喚魔の軍を使い、愚民どもを刈り取りとると、大量の召喚魔が刈り取った大量の星が、あれ《卵》に注ぎ込まれる。すると弟よ、いや宮廷召喚士殿の天性の才能『集星増加』など比べ物にならないほどの成長を可能とするのじゃ!!で今、頭上の5つの星の回転速度はどんどん速くなっておる。もうすぐじゃもうすぐ、あれは6つ星になれるのじゃ!!はぁはぁはぁ・・・。」
また息切れをおこしておるわ・・・。にしても・・・・。
「主、任務完了いたしました。」
サトウウォーリアさんが、一歩踏み出し大きく頷いた。
「私の、茨の鞭を伸ばし、分岐し、魔集石なる物に魔力を供給している管を全て断ち切りました。あと、魔王の本体も我が、茨の鞭で捕縛済みでございます。」
「「な、なに!!!」」
私も兄じゃも驚愕の声をあげてしまった。
「魔王は、わかりますが、命を下した主がなぜ驚かれますか?私と契約を結んだ80年前からの合図の取り決めどおり事を運びましたが?」
「そんな合図忘れ取った!!すまぬ兄じゃ、いや魔王よ!!愚かなる我が召喚人が、偉大な研究の邪魔をしてしまった!!」
私は驚愕のあまり杖を落とし、膝を折り、兄じゃに土下座をし、許しを請うた。
「うむ、愚弟、いや愚かなる宮廷召喚士殿よ。ささやかな事で、きっとわれらが、願いは成就するぞ。」
さすがは、偉大なる兄じゃ、偉大なる魔王じゃ!!
「姐さん、爺あれじゃね?」
「えぇ・・。きっと魔王の考えに感化されてるわ・・。」
「うるさいわ!!愚かなる我が召還人よ。召喚主の本にもどっとれ!!」
「「うわぁ!!」」
召喚主の本を開くと、2人が煙となって吸収されていった。この件が落ち着いたならあの2人の脳みそに躾を叩き込まんとな・・・。
「兄じゃ、いや魔王よ!!ささやかな事とはいったい何をすればよい?」
「魔集石に魔力の供給が絶たれたといっても、今しばらく魔集石に蓄積された魔力で我が召喚魔を維持し、戦闘を繰り替えすじゃろう。だが、弟よ、いや宮廷召喚士よ。それだけでは、星が足らん!!だから願いを成就する為に弟よ、いや宮廷召喚士殿よ。お前の体をさしだせ!!」
この兄弟、うざいけど楽しくて暴走中・・。