引き籠りな冒険者④
「とりあえず、隷属妖魔の卵を孵して、俺の次期ギルド長確定にしようか。」
いやいや、いろいろすっ飛ばし過ぎだと思うんだけど、まだ僕が引き受けるとは言ってないんだけど・・。
ギルは、強引に僕の右手をつかむと逆手の手首を軽くふった。
「?」
指先からじんわりと血がにじみでてくる。手刀というやつなのだろうけど、触れられた記憶はない。さすがA級ランクの冒険者といったところだろう。そしてそのまま手を引っ張られ、卵の上に持っていかれ、血が卵に落ちた。
瞬時に魔法陣が卵の下に展開し、輝きが増していく。魔術や魔法を使った時の特有の魔力が引き出されていく感覚がない。血だけの魔力要素で、魔法陣を展開ってどういう仕組みなんだろうか?確かに生命力といわれる命の源を消費して、魔力の代わりに使用し、大型魔法陣を展開させたという伝承は残っている。でもその代償の結果は、力尽きて、死亡すると言われている。血の数滴程度で、召喚陣を発動させることはできないはずだ。
輝きが卵に集約していき、そして卵にひびが入る。
「おぉ、面白いな。なにが生まれるかわからないこの高揚感。こりゃ金持ちどもが面白がるわけだ!!」
僕のいくつかの疑問など感じず、厳つい筋肉の塊のおっさんは、嬉しそうに眺めている。というか、占い通りだとピクシーだろ?人に仇名す妖魔じゃないけど、『いたずら妖精』とも呼ばれる程、好奇心旺盛なピクシーは、人の肩に乗れる程度の身長しかなく、背中の4枚の羽で飛び、人語を理解する。と本に書いてあったと思う。
人語を理解して、寝ることがないって言われている妖精が、見張りをしてくれるなら魔術を使えば、1人で、森の中でも活動可能かもしれない。本当に出ればだけど。
僕が考えている間に卵からコツコツとなにかたたく音がし、そして、卵が少し割れるとそこから手が出てくる。貴婦人のごとく透き通るような白く、そしてか細い手だ。その手がさらに卵を割り、みるみるわれていき、手の主が現れた。
大きさは、聞き及ぶ通りの大きさで、肌という肌は、手と同様透き通るように白く、手足は細長く、大きさの割には、出ているところは出ており、ひっこむところは、ひっこんでおり、魅力的な体だ。背中には、薄い半透明な羽もはえている。顔も大きな特徴はないけど、整っており、この容姿をもってすれば、都では無理でも街程度なら1番人気の娘になれそうな雰囲気だ。ただ、残念なな事にこの帝国では、奇異な目で見られがちな髪も瞳も僕と一緒で、黒い。大昔、悪魔族との戦闘が多く、悪魔族が黒髪の持ち主が多いというだけの理由なのだが、こういった根付いた価値観は、なかなか抜けないようだ。
「おぉ!!本当にピクシーか!!僕ちんが、パパのギルですよ。」
我が子でも生まれたかのような喜びを表現しているギルは、厳つい顔で、僕ちんって似合うわけないだろう・・。
「ん、まてよ。卵を持ってきたのが、俺なんだから俺は、母親でリュークが父親になるのか?」
こんな厳つい母親嫌だし、ギルと夫婦ってのも嫌すぎる。生まれたばかりのピクシーも露骨に眉間に皺を寄せて、嫌そうな表情を浮かべている。
「どっちが、父でも母でもいいか!!さぁ~我が娘よ。僕ちんの胸に飛び込んでおいで!!」
筋肉で盛り上がった両腕を広げたギルの様は、まるで、熊を絞殺すような罠にしか見えない。ただ、顔には、厳つい顔なりの笑顔とそして、純真そうに輝くひとみが2つあった。ピクシーは、しばらくその厳つい自称親を見つめると背中の羽を広げ浮かび上がる。鳥や昆虫のように羽ばたいているわけでない。ただ、大きく広げただけで、小さな体を浮かび上がらせている。そしてそのまま、僕の肩に舞い降りた。
「あぁ~・・・。」
ギルは肩を落とし、まるで、年頃の娘に「パパ臭い。」と拒絶されたかのようにうなだれている。でも僕でもこんな親に抱擁されそうになったら逃げるだろうな。
「リューク・・・。これで、なにが出るかわからないはずの卵からピクシーが出たことで、占いは証明された・・・。後は、お前が仕事を成功させて、俺をギルド長に押し上げるだけだ!!」
「は?いや、そもそも仕事するなんて言ってないんだけど?」
「では、養育権を俺によこせ。」
僕の言葉に瞬時に言い放つギル。言ってる意味は、かなりおかしいが、ギルの殺気が放たれる。ピクシーを渡さないと一撃で僕など粉砕されるだろう。それぐらいの実力差があるのはわかっている。僕は、大人しくピクシーの背を押すが、ピクシーは僕の耳を必死に両手でつかみ、顔を左右にぶんぶんと振り続けている。
「嫌がってるんですけど・・・。」
いくら妖魔とはいえ、人型の女の子だ。これ以上力づくでというのは気が引けた。ギルに上目づかいでそう告げると、ギルから非常な三択が言い渡された。
「仕方がない。どうしてもその子の養育権を渡したくないなら、仕事を成功させるか、俺の屍を越えるか、俺のこぶしでつぶされるか選べ・・・。」




