引き籠りな冒険者①
門が大きなこぶしでたたかれ、そのたびに悲鳴を上げている。いつ破られてもおかしくないほどの悲鳴を僕は、聞きながらそれでも最後の門を突破されないように信じてもいない神様に祈りをささげる。ここが破られれば、僕に自由などない。門の逆側は、外壁になっており、脱出口はない。そして左右にも窓はなく。門と同じ壁面にある鎧戸だけが、この部屋からの出口だ。外にいるのが、一人ならば、鎧戸から脱出、そして逃亡って事も成功するかもしれないけど、門の外からは、複数の気配がしている。こんな逃げることに向いていない所を選んでしまったのか悔やまれるが、今は、悔やむより祈るしかないのだ。どうか、奴らがあきらめてくれますように、と。
「リューク。いるだろ?仕事だ仕事。ちょっと遠いが、安全だし、報酬がおいしいんだぜ。いるんだろ?一緒にいこうぜ?」
ドアをこぶしでたたく男が僕の名前を呼んでいる。やっぱりギルだ。元傭兵の戦士、素手で、熊を撲殺するほどの体格を持つ大男、今は、南都にある2つの冒険者ギルド管轄の片方のギルドハウスの管理人、南都の冒険者ギルドの副ギルド長の1人。僕をこき使いたいときは、こうやって強引に僕に仕事を押し付けに来る・・・。
「リューク。お前、引き籠るのはいいけど、そろそろ前の護衛仕事の報酬がなくなるころだろ?財布の中身がすっからかんだろ?」
さすが、僕の収入を知り尽くしているギルド関係者。たしかに財布の中身は、そこをつきかけているけど、僕は、もう死と隣り合わせよりも駆け出しの冒険者達が、請け負うような仕事をこなして日々生きていきたいんだ。
「今、この仕事が一番おいしいんだって、賊あいてでもないし、探し物でもない。ただの旅行程度の仕事で、がっぽりかせげるんだ。な?この前、俺が持ってきた仕事も楽勝だったろ?」
「う、うそだ。この前の護衛だって、安全な道中だからって言って僕をだましたじゃないか!!」
「お、やっぱり居やがったな。」
声が聞こえたと思った瞬間、ドンッ!!という音とともに木の扉に手が生えた。いや違う、ギルのこぶしが、先ほどまできしむほどたたかれていた扉を貫通したのだ。そして貫通していた手を何度か戻したり、差し出したりと引き抜こうとしていたが、抜けないようだ。するといきなり扉が派手な音を立てて、爆発し、粉砕される。奴は拳士であり、今の爆発、粉砕も拳士としての技か何かだろうと思うけど・・。
「修理費用は、ギルドに請求するからね・・・・。」
僕は、扉があったところから顔をだした左半分に熊を殴り殺したときにつけられたという巨大な引っかき傷痕がさらに子供が泣くほど厳つい顔に拍車をかけたギルに向かってそう告げるのだった。
拉致誘拐され、連れてこられたのは、ギルが管理している冒険者ギルドハウスだった。昔は、1国の首都であった頃は、街の名前があったらしいが、戦で、帝国に敗れてからは、ただの『南都』と呼ばれるようになった。中央にあったと言われる城は、反乱を防ぐためにつぶされ、今は、装飾など施されていない簡素な南領主の館がそびえている。その館を中心に街の北部と南部を隔てる外壁で2分されており、北街には、中央領との交易を主とする商人街やその商人達を目当てにする歓楽街などが存在し、活気に満ちている。逆に南街には、南都にすむ人々が多く暮らしており、比較的落ち着いたにぎわいだ。2つある冒険者ギルドハウスは、北街と南街に分かれており、自然と冒険者達に集まる依頼も交易商人達からの商隊の護衛などの依頼が多い北冒険者ギルドハウスと南都周辺の問題ごとである討伐依頼が多い南冒険者ギルドハウスになっている。別にどちらの依頼を受けても問題ないのだが、各冒険者の得意とする分野の仕事にあわせて、入り浸る冒険者ギルドハウスがかわってくるのは、しかたがないだろう。
そして、北冒険者ギルドハウスの管理人ギルと南冒険者ギルドハウス管理人ティーマは、依頼達成率などで、次期冒険者ギルド長の座を争っているわけだ。依頼達成率を上げるとなると優秀なギルド構成員を囲い、その技量にあった者を派遣しなければならない。さらに言えば、ギルド構成員の技量から性格そして、財布の中身すらも把握する必要があると前に聞いたことがある。なにはともあれ、大変な仕事だと思うけど。できれば、僕としては、そっとしておいてほしいのだけど・・・。
「でだ。今回のお前の仕事なのだが・・。」
北街冒険者ギルドは、1階にアルコールも扱っている食堂と冒険者ギルドハウスとしての事務所。2階、3階が宿。4階は、ギルドの幹部の執務室となっており、今僕は、ギル執務室に監禁されている。
机の上には、書類が散乱し、何度も津波のごとく崩れてもそのまま放置されているのが、床にも書類が散乱している。これで、ギルドハウスの管理人として、副ギルド長としての執務ができるのかと思うが、僕が知る限りギルが仕事を滞らせているという話は、聞いたこともなく、筋肉ダルマの厳つい外見からは想像できないような高い事務処理能力をもっているということなのだろうか。
「おい、聞いているのか?」
「う、うん。」
僕が、周囲を見渡して、上の空だった事を見透かされ、大きなため息をつくとギルは、仕事の内容を要約してくれた。要は偵察と報告といった冒険者というより、傭兵向きのように思える仕事内容だ。ただ、偵察するのは、地元の人すら避ける妖魔の巣窟『辺境の森』であり、対人になれた傭兵より対妖になれた冒険者のほうが適しているのだろうけど、今回も大変な目にあいそうである。




