暗躍
あれからナルスの能力を確認しおおよそ把握できたと思う。
まず、浮遊し続けることに疲れは感じないらしい。私相手に全力で、攻撃を命じてみると体当たりをするが、私でも簡単に避けれるし、当たってみても痛くもない。戦力としてはやはり絶望的だ。
隠密行動を確認したが、私の魔力の消費量は、微弱で苦にならない。しかも隠密行動中は、ハティやスコルの鼻や耳でもどこにいるかわからないらしい。そして、かなりの距離を離れても私の左目と視界を共有することができるようだ。頷いたり、左右に振ったりと体全体のジェスチャーでしか会話に参加できないが、視界を共有できることは、偵察型としては使い勝手がいいだろう。
そして、ナルス本人の意向も確認し、私の天性の才能の1つである『改造(微)』でのステータス成長方向を速度向上に持って行くことにした。攻撃力も防御力も期待できない進化形態であり、それならば、偵察する際に移動速度があれば、あるだけ潤滑に任務を実行できると判断したからだ。
問題は、緊急時の攻撃力が格段に落ちた事だ。
ハティとスコルは、速度重視で息の合った連携で、相手を翻弄し、弱点を狙ったり、や機動力を削ぐ先頭スタイルで、瞬時に相手を行動不能に陥らせることは難しい。
ショーンは、突進し、体当たりで相手を弾き飛ばすが、直線的すぎて来るとわかっていれば、私でも避けることができる。限定条件ながらの強度の防御力を持つが、気性が、臆病であり、戦闘向きとはいえない。キラービー戦では、乗馬ならぬ乗羊としてハティやスコル並み速度で、でも持久力は2匹を超え、活躍してくれた。本人は乗せるのは嫌らしいけど・・・。
リタは、武具の整備をしてくれ、トルクちゃんの精霊魔術の媒介として助力していた。ただ、戦力としては、ナルス並みに戦力外でしかない。
この前の突然のオーク達の出没のような森にいないはずの脅威が今後現れないという保証はない。なんらかの戦力補強が必要なのだけど、召喚魔達が成長するまで、待ってくれるわけもない。新しい召喚魔と契約したとしても即戦力とできるのは、数少ないだろう。おおよその魔獣、妖魔達は、自分より弱い召喚主と契約を結ぶことはないといわれている。魔眼と契約した時は、魔力放出などできないただの眼球の奥に出現する話相手だったし、ハティやスコルに至っては、目も開いてない子犬だった。
今の私と契約をしてくれ、即戦力になる妖魔、魔獣は皆無だろう。となると召喚魔に期待ができない。ほかの手段を考えないとね。たとえば、私自信が、切り札としての力を得るしかないかな。
「とりあえず、ドルグおばーさんなり、トルクちゃんに精霊魔術を教えてもらってみようかな・・。」
爺が私にあきらめていた格闘系よりも魔術系を身につける方がはやいだろうと思う。明日明後日に身につくものじゃないのはわかっているけど、試してみる価値はあると思いたい。ちょうど今日が、ドルグおばーさんの言っていた宴会の日だしね。
私は、召喚魔達を集め、ゴブリンの村に向かったのだ。
「領主殿、放ったオーク達の生き残りは、森の南方20日ほどの所で、動かずにいます。おそらくそこが、妖魔殿と呼ばれる妖魔の都かと思われます。」
「そうか。」
青いローブを羽織り、髪を好き放題に伸ばした老人が、青年に告げると、青年はぶっきらぼうにうなづいただけだった。
「殿下、どうなさいますか?オークどもが一度に多く倒された周辺には、何らかの集落があることは明確です。兵か傭兵なりを派遣し制圧、可能ならば砦を作り、この怪しげな妖魔術師が、申しております妖魔殿なるあるかどうか疑わしい新天地か、共和国制圧の足がかりにするというのが定石だと思われますが?」
青いローブの隣に立っている金属鎧を着込んだ男は、隣に立つ青いローブの老人をいかにも胡散臭いと言いたげな感じで、見下していた。ここ帝国では、魔術が深く進行しており、生贄や生き物の内臓などを媒介し、力を駆使する妖魔術なる術師は、異端とされているのだから当然の反応だといえるだろう。
「ガイウス、俺が信じたことに異論があるのか?」
青年は、鎧の男を鋭いまなざしで睨みつける。そのまなざしは暗く、幾多の戦役を生き延びたガイウスと呼ばれた男でさえも一歩引いてしまうほどの威圧を持っていた。
「め、めっそうもありません・・。」
ガイウスは、膝を折り、頭を垂れ、恭順の意を現し、殿下と呼ばれた青年の次の言葉を待つ。それを横目で見た青いローブの老人は、鼻で笑いとばしている。
「今は、兵はいたずらに動かせん。いくら我が領地の兵とはいえ、父君のいや、皇帝の許しなく進軍させ、万が一にも失敗でもしようものなら我が首をはねられかねん。弟どもも領主の座を狙っていることだしな。傭兵は、略奪できない森になどすすんでいかんだろう。妖術師よ。街の冒険者なるなんでも屋に適当な理由をつけて森の妖魔の退治をさせよ。賞金をつけさせてな。もちろん我らの関与を疑わせるなよ?そして、生きて帰ってきたものには、森の様子を報告させるのだ。」
2人の挙動など気にもせず、青年は指示を飛ばすと手の下がれと言わんばかりに2人を部屋から追い出した。
青年は、帝国の第三皇位継承者であり、帝国南領主でもある。第三という微妙な立場でありながら皇位につくことはあきらめておらず、3男である自分の下にいる数十人の異母兄弟たちに出し抜かれまいと警戒しつつ、皇帝のおひざ元である中央領を治める長兄。帝国と共和国との間で中立国を名乗っている国々を隣国に持ち、外交に忙しい北領を納める次兄の2人をいかに出し抜くかだけを幼いころから考えていた。ただ、南領は、北は、中央領、南は険しい山脈に西は、大海原に阻まれ身動きできない。武勲を立てるには、難しい領地だ。それを打開する案を持ってきたのが、あの怪しげな妖術師であり、東に位置する『辺境の森』さえ、踏破できれば、無防備であろう共和国の南部に攻め込むことが可能であり、さらに伝説でしか聞いたことがない妖魔殿という未開の地が、辺境の森南部にあることを進言された。
問題は、妖魔の巣ともいえる辺境の森の踏破するため情報が少なすぎた事だ。それも妖術師がどこからか連れてきたオークという妖魔を森に放ち、妖魔術の力を持って追跡し、少しは集めることができた。だが、まだ足りない。この程度の情報で動けば、失敗するかもしれない。そうなれば、私の地位など、次の者にすぐに替えられてしまうだろう。
「まだ、時間があるはずだ。慎重に事を運んで損はないだろう・・・。」
そうつぶやくと南領を治める青年は、執務用の机に積み上げられているさまざまな案件の報告書に目を通していくのだった。辺境の森攻略だけが、彼の仕事ではない。他の仕事をおろそかにすれば、そのほころびを利用し、追い落とされるかもしれないのだ。物ごころついて20数年、気を抜いたことなど記憶になかった。
翌日、南領の冒険者ギルドの依頼を張り出す掲示板には、辺境の森でしか入手できないツンツン草や他の薬草、鉱物などの採取の依頼が、増えているのであった。戦役のない南領では、荒れくれ者達の中には、冒険者になり、用心棒をしたり、妖魔や悪魔、魔獣の退治や普段人がいかない場所での鉱石、薬草などの採取を依頼され、その賞金で日々暮らしている。そんな冒険者たちには、辺境の森に手を出すななどの古くからの言い伝えなど気にもせず、依頼を受ける者もおり、幾人かの冒険者達が、辺境の森に向かい旅立ったのであった。




