最後の決戦。~そして悪は・・。~③
「馬鹿かあいつら?乱戦にしてどうするんだよ。お前ら!!ここは俺1人でいい!!真ん中の混乱を手伝ってやれ。」
「へっい!!ハッターの親分!!ただ・・・。」
親分と呼んだ男は、頬に大きな傷をもち、がっしりとした体格で、動きやすい傷だらけの金属製胸甲鎧をきている。手には、戦斧を持っている。口調に姿から察するに歴戦の傭兵だろう。ただ、その男から親分と呼ばれた男は、中折れ帽を被り、黒いマントを羽織っている。そのマントの下は、紳士服を着ている。戦場に不釣合いな姿だが、顔はそうでもなかった。戦斧を持つ男のように傷こそないが、黒い瞳を持つ目には、どこか残忍な輝きがあり、端整な顔立ちなのに印象は、残忍そうといわれるであろう。
「ただ?お前は、俺がこの程度の妖魔共と一緒に踊りたいのか?踊りたいなら遠慮するなよ?」
「ハ、ハッターの親分・・。いえそんな親分が、そ、そんな踊りたいだなんて、け、けっしてあっしは・・。」
歴戦の傭兵が、にらまれただけで、動けなくなるほどの威圧が発せられている。
「そう思うなら手下共を連れてとっとと行って来い!!」
「へ、へい!!」
戦斧の男は、周囲の男達に声をかけ、中央の乱戦に向かっていく。
「さてと・・・。」
前方を見渡すとゆっくりとだが、小鬼や中鬼を主体とした山のような召喚魔達が、迫ってきている。ハットは舌なめずりををするとマントを止めていたブローチを外すと両腰から愛用の2対の魔銃、女王の復讐と皇帝の裏切りを引き抜くと、交互に銃身を舐めた。
「お前ら全員、舞踏会場に招待するぜ!!踊り狂って死にやがれ!!」
永遠に続くかと思われた螺旋階段の先には、頑丈な鉄の扉が待っていた。探知型である私の能力を使い、扉の先の大地の波動を探る。
「主、この先の扉の奥に多数の魔力の発生源を感じます。およそ30。その中にリンク様の魔力も感じますので、行方不明の術士の方々かと思われます。ただ・・。」
「ただなんですか?サートゥルナーリアさん?」
「はい、不思議なことにその魔力を一箇所に集めているのです。そう、こんな魔力を供給し続けるには、命を削る必要があるのではないかと思われます。」
そう、固体《人》からこんな魔力を放出すれば、3日と待たず、ミイラ化してしまうだろうといった放出量だ。我が主バルズ様の魔力量も人としては、非常に多いといえるが、バルズ様でもこれだけの魔力を放出し続けることは難しいだろう。魔力放出者が、決死の覚悟で行うか、強制的に行い吸い上げるしかない。
「きっと、その魔力を集めて、軍をもしのぐ数の召喚魔を使役しているのでしょう。」
さすがは、我が主。すべてを言わなくても理解してくれる。それに比べ、横にいるライドウは、理解できずにぽかんと口を開けている始末だ。ただこの先の荒事には、いくら5つ星クラスの探索型の私より、4つ星クラスの戦闘型ライドウのほうが役立つだろう。私は、私の仕事を完遂すればいい。戦えないというわけではないのだから。私は、腰につけている茨の鞭の柄に手をやった。
「お2人共お聞きなさい。この扉の先に魔王と行方不明者が捕らえられていると思われます。」
私もライドウも静かに頷いた。
「この魔王の城に入って、誰も私達の足止めをしないのは、先ほど話したとおり、余裕がないのか、よほど自信があるかだと思いますが、どちらにしても我々が、負けるという事は、この大陸が闇に飲み込まれる事と同じと思ってください。」
「ありえねぇ「ゲシッ!!」いてぇ・・・。」
私は、バルズ様の話をさえぎるライドウの足を蹴りつけた。
「大陸がかかっているのですから、契約者の私の事より魔王を倒すことを優先してください。わかりましたね。」
私達は静かに頷いた。契約者であるバルズ様を守ることは、当然ではあるが、バルズ様がなによりも魔王討伐を望まれるならそのお望みをかなえるのが、我々の務めだろう。
「安心しな。爺。俺がこれで、ずばっと、あれしてなにしたら、OKだぜ!!そのあとは、外のお祭りに参加だ。」
ライドウの『これ』は、手にもった両手剣の事だとおもう。『ずばっと』は切るのだろう。ただ、その後の『あれ』と『なに』は何を指しているのわからないが、主にきちんと伝わっているらしく、まるで幼子に微笑むがごとく、やさしく微笑んでいらっしゃる。さすが我が主である。
重そうな音をたてて扉が開いた。その先からは異様な空気が流れてくる。巨大な魔力を使用し続けることにより、部屋ないの空気が異質になっているのではないかと推察する。脳まで筋肉のライドウまでが、眉間に皺を寄せ、不快感をあらわにするのだからすさまじい異質さだといえるだろう。
私達は、部屋の中に入ると、そこはテラスになっており、下の階が一望できた。
磔の刑の如く、30ほどの十字に磔にされた人で、大きな円を描いており、その足元からは、太い管が、中央の不気味に赤く輝く石に伸びている。その輝く石の前には、荘厳で意匠の凝った玉座があり、何ものかが座していた。
「あれが、例のあれか?どう見ても人じゃないぞ?」
ライドウの言うとおり、玉座に座っているのは、人に見えなかった。
どうみても人が抱える事ができるかできないかという大きさの卵だ。
卵の表面全体に目を閉じてはいるが顔がある。その卵から短い細い手足があるが、あの手足であの卵の大きさが支えられるかどうかは、聞くまでも無く、支えきれず、こけて卵が割れてしまうだろう。
その卵の頭上には、5つの星が回転している。
「ほぉ、召喚魔じゃのう。しかも星が回転しておる。ランクが上がるまであと少しといったところか?」
主は、豊かな白い髭を撫で、関心しているようだ。召喚されたものは5つ星が最高クラスであり、6つ星など私は、聞いた事が無い。でも目の前には、5つ星以上に成長しようとしている召喚魔がいる。私の知識では、矛盾になるが、主の落ち着きようから何をご存知なのかもしれない。
「あっ!!奴の右手みてみろよ!!あれをもってる「ゲシッ!!」ぃって!!」
馬鹿ライドウがその巨体に似合う大声を張り上げるから思いっきり蹴ってしまった。潜入を台無しにしてどうするのだろうか、にしても右手・・・・
「!?」
「ほぉ!!面白いものを。」
私は、驚きのあまり声が出ないが、深遠な知識を持つ主の唯一とも悪い癖で、探究心の方が勝っているのだろうか、うれしそうに声を魅入っていた。
ありえないことに卵男の右手には、召喚主の本 を抱えているのだ。
召喚される側である召喚魔が、召喚する側しかもてない召喚主の本を持っている。ランクが上がりそうな5つ星に召喚主の本。ありえないことの塊の卵男だ。
「主、あれはいったい・・・・・?」
「バルズに聞いても仕方がないじゃろ。あれは、我の召喚魔なのだから・・・。」
不意に頭上から主の声が聞こえた。いや、主は私の目の前にいるのだから、主ではないはずだ。だがそこには、主がいた。いや正確には、主ではない。主の髭も髪も白いのに頭上にいるのは、黒い。
「ひさしぶりじゃの。バルズ。」
「そうですの兄さん。いや魔王とお呼びすべきですかな?」