目と目⑧
「丸薬の代金は、高いぞ?」
ハティに背負われたしわくちゃな妖怪おばーさんが、手を出し代金を請求していた。
「ドルグおばーさん、森の一大事を抑え込んでる私にそれは、あんまりじゃない?」
キラービーが大量羽化すれば、森の多くの生き物達が、襲われ死んで行く。もちろんこの森では、屈指の実力集団であるゴブリン族ですらその例外ではないはず。それを1人、厳密にいえば、1人じゃないけど。ここまで食い止めた私に会って、開口一番に代金を請求する!?
「ふむ、勘違いをしておるようじゃな。キラービーが大量羽化したとしてもそれは、この森の意思じゃ。昔から数十年という年月毎に大量羽化しておるキラービーのせいで、この森の生物が絶滅したわけではない。大量羽化すれば、大量に餌や産卵の苗床として犠牲となるが、それがなければ、この森の生物は、あふれかえってしまうのじゃよ。まぁ、ここ近年一番数を増やしたわしらゴブリンがいえたもんじゃないがのぉ。」
大量に犠牲者の出すキラービーとて、この森の住人であり、邪魔ものじゃないってことなの?そのキラービーにゴブリン族が殺されても文句は言えないっていうの?理解できないわ・・・。
「そのキラービーの羽化場を燻して、燻製にしようとしているゴブリン族もどうかと思うが、きっとそれも森の意思じゃ。」
結局正当化?トルクちゃんと違って、なにを考えているかわからないこのおばーさんは、やっぱり苦手だわ。
「で、どうやって燻す気なの?見ての通り、目の前には、キラービーが出てこようと必死にもがいてるけど?」
「くえっえっえっえ。心配ご無用じゃわい。だからこそわしが、ここまで来たのじゃからのぉ。」
「ハティとスコルに担がせてね。その運搬料金と丸薬代で、チャラってことで。」
「おぉ、こんなかわいい、いたいけな老婆に、こんな斜面を歩けというのかい?最近若ゴブリン達は、巣穴に入る度胸がないと嘆いておったが、最近の若い人間も残酷なことをいうのぉ。」
かわいいにいたいけな?どこからどうみたらそんな形容詞がつくのだろう?緑色の小さなしわくちゃなおばーさん。屈強な村のホブゴブリンですら平伏する実力者で、トルクちゃんの話によると精霊使いとしては、トルクちゃんが5人いても勝てない実力者。齢は、100歳というゴブリンの寿命を3倍以上生きている妖怪。かわいいにいたいけな?どこからどうみたらそんな形容詞がつくのだろう?重要だから2度心に刻んでおいた。
「どこからどうみてもかわいい上にいけいけな老婆じゃ。」
魔眼のように精神がつながっているわけでもないのに心を読んだの?どうやって?目を細め、意地悪そうに笑みを浮かべ、私の疑問すらも見透かしたような表情を浮かべながら、ドルグおばーさんは、ハティの背から降り、私より前に歩いていくと地面に何かを書き始める。4重円を書き、その円1つ1つの縁に解読不明な文字を書いていく。
「精霊語とゴブリン語を混ぜ合わせた言語じゃ。精霊の力を借りるのがシャーマンじゃが、力を最大限に借りるには、その精霊が好む環境とシャーマンと力を借りようとする精霊の相性、後は精霊の力をこういった魔法陣を描くことができれば、さらに強力な術を行使できるのじゃ。お、そうそう。わしの相性のいいのは、水の精霊じゃ。水はここにはないが、こういったものでも十分役に立つ。」
その手には、私のポーチに入っていたはずの水筒が握られていた。
「いつのまに!?」
「くえっえっえっえ。隙だらけじゃからのぉ。周りに頼り過ぎじゃ。」
いつもの奇妙な笑い声を響かせ、水筒の栓を抜くと魔法陣の周囲に水をまいていく。
「相変わらずの良い水じゃ。」
私にわかる言語でそうつぶやいた後は、理解はできないが、ゴブリンの村で聞いたような言葉が続いた。その後魔法陣から、水筒に入っていた量とは比較にならない水があふれ出し、一気に羽化場まで押し流れていく。
「すごい、魔術師でもこんな芸当できる人少ないわよ・・。」
養父の関係で、何人もの著名な魔術師を見てきたが、ここまで水を具現化できるほどの魔力の持ち主はいなかったように思える。もちろん隠していたかもしれないが、ドルグおばーさんも日頃は、ここまでの魔力を見せることもない。
水が、押し流した後には、障害物になっていたキラービーもそれを撤去いようとしていた羽をなくしたキラービーすら姿はなく、あれだけの水が流れたというのに、天井にも地面にも水が流れた痕跡すらなかった。
「ほれ、みとらんで、とっとと奥に進まんか。押し流しただけじゃぞ。」
ドルグおばーさんは、そういうと、ショーンの頭と私の間に入り込み、すばやくショーンに乗り込んでいる。このおばーさん、見た目も魔力もすごいけど、動きがびっくりするぐらい早い。腰が曲がったゴブリンとは思えないぐらいだ。
「って押し流しただけ?羽化場までいったら一杯キラービーがいましたって事になるんじゃないの!?」
「あたりまえじゃ、だからはよ奥まですすむんじゃ!!」
そういうとショーンの首筋をぴしゃり!!と叩きつける。
「め゛ぇ~!!」
びっくりしたのか、急にショーンが羽化場に向かって走り出した。もしかして、その首筋が、鉄羊の弱点だったりするとか?まさかね・・・。と思いつつも私は、狂ったように走るショーンから振り落とされないようにしがみつくのだった。




