辺境の森⑤
私達の姿を見つけたのかエントが近づいてきた。
「そこいるのはフレイヤ?」
切り株のような姿からは想像がつかない透き通った声だ。
「はい。あとハティとスコルとあと・・・。」
私は、近づいてきたエントの足元に葉っぱに包まれたドライアドと金髪の妖精さんをそっと横たえた。事情を話すとエントは、頷き、ドライアドに話しかける。
「жгдём。」
エントが、リリアがいた頃は、理解できたであろうが、今の私には、理解できない言葉で葉っぱに話しかけるとゆっくりと葉っぱが開いて、その隙間から潤んだ緑の瞳を持つ整った顔立ちの美少女が顔を覗かせる。
「йну?」
「фод」
美少女が何かをつぶやき、エントまた何かをいうと、葉っぱが、緑の髪に変化し、真っ白の肌を持つ美少女の裸体が、姿を現した。ドライアドは、みんな少女の姿なのだ。私の腰ほどまでの身長しかなくまるでお人形さんのようにかわいい。こんな小さな子でよかったのか?とあのオーク共に聞いてみたくなる。
ドライアドが私に頭を下げると、他のドライアドたちに向かって駆けていく。
「ありがとう。オークに襲撃され、撃退したもののあの子がいないので、心配しているところでした。ところで、この土妖精は?」
「さぁ、ここに来る途中にであったものの気絶から醒めないんですよ。どこのこか知りませんか?」
「いえ、まぁ、本人に聞いてみましょうか。」
エントがノームを手に乗せ、空の柱に向かい歩き出したので、私達もついていくその途中木の葉が刺さったり、鞭のようなもので叩かれた痕を持つオークが数体山積みにされており、別のところでは、ほんとうに切り倒された木のようになったエントが1体倒れ、周囲のドライアドが泣きじゃくっていた。
「急にオークは襲ってきたの?というか前に聞いた時は、この森にオークいないんじゃなかったの?」
そうこの空の柱と交流をはじめて持った時に、この森に生息する妖魔や魔獣の種類を彼らから教えてもらっていたのだ。だが、その中にオークはいなかったはずだ。
「オークはいませんでした。森の外から来たと思いますが、まだいるかどうかは、わかりません。」
私たちは、広場の中央『空の柱』の根に腰を下ろすと、ドライアドが、葉っぱで作ったコップに樹液を注ぎ手渡してくれる。ハティとスコルは、オークから手に入れた肉らしきものにかじりつき、遅めの昼食をとっていた。
「まだ他にいるのなら、日々警戒が必要でしょうね。ゴブリンやコボルトなどと違い強力ですから。今回は、エント1人が犠牲で終わりましたが、数が増えたなら危険でしょうから。」
そりゃそうだ。ここには、ドライアドが何人もいる。幼女愛好でもいいというのがオークたちの中で普通だったら、格好の狙い場になってしまうだろう。
再びドライアドが近づいてきた。手には、丸い土団子のようなものと草を1束もっていた。それをエントに渡すとまた離れていく。
「かなり魔力が枯渇してますからこれを与えれば、ノームは目を覚ますと思います。」
そういうとノームのお腹に団子をのせるとまるで雪が解けるようにノームのお腹に団子が溶け込んでいった。
「Δ・・・・。」
「АКФ?」
「ΚΓΣ?」
「この子はノーム語しかわからないようですね。残念ながら私は、人の言葉とドライアド語しかわかりませんので、これ以上、何もできません。」
エントは頭を下げ、その横でノームは、首をかしげていたが、その金色の瞳が、私から肉にかぶりつくハティとスコルに移ったとたん、再び気を失ってしまった。
「ノームは、非常に臆病なのですよ。私の一番小さい子トムテは、樹上で暮らすため、多くの動物や鳥と出会いますが、ノーム達は、地中で暮らすため同族以外出会う事がすくないのですよ。」
ドライアドは、やさしく微笑みながらノームを木の葉にそっと乗せてくれる。
「あっ!!はいこれ、いつものです。寄り道しちゃったので少し飲んじゃいましたが・・。」
私は朝出かけるときに汲んでおいた小川の水の入った水筒を差し出すとそんな事は気にしないとばかりにエントは、代わりに先ほどドライアドが持ってきた草を差し出してくれる。この四方八方にとがった草をだしているのが、ツンツン草だ。
あの小川は、ドライアドと関係深いウィンディーネ達の集落から流れてきており、ドライアドにとって傷をいやす効果があるとエントは言っていた。そしてツンツン草のしぼり汁は、エンシェント・エントの『空の柱』にとって、有害な虫が嫌う香りがするのだそうだ。ドグルおばーさんが何のために必要なのかは、知らないそうだ。
「ドライアドを助けてくれたお礼をしたいのだが?他にいるものはないか?」
「死んだ豚臭いどうする?」
「どうする?」
肉を食べ終わったハティとスコルが急に話に割り込んでくる。
「オークの事ですね。特に何もあのままおけば、もうすこしで土に還るでしょう。」
「何もしないならば、オークの所持品をいただいてもいいですか?」
私の問いにエントがなにも言わずうなづくとハティとスコルは、一目散に駆けだした。狙いは、他のオークが肉を持っているかいないかの確認だろう。私も取引材料が増えるのは、非常に助かるけどね。倒したのと合わせ、10匹分。もしもカードがもう一枚あれば、嬉しいけどさすがにそれには期待しないでおこう。
「あなたたちも森の外から来る者にお気をつけて、私もお別れがありますので。」
そう言い残すとエントは、倒れたエントに向かって歩いていった。あのエントも後2時間もすれば、土に還るだろう。さすがにカードがあるかないか確かめさせてもらうのは失礼だし、私もこの樹液を飲み終えたら家に帰るかな。
「でも、このノームどうしよう・・・。」
ハティとスコルは結局、槍3本・斧2本・剣1本・こん棒2本 後さっきの肉らしき黒い物が3つと帝国金貨3枚をオーク達が土に還るまでにみつけてくれていた。
さすがにカードはなかったけど、私達が倒した2匹の武器を合わせれば、8つはなかなかの収穫だ。ただ、持って帰れないので、槍は穂先だけ斧は刃の部分だけでにして木でできた柄は、取り外した。同じく木でできてるこん棒には大して価値がないので、持って帰るのを諦める。剣を1本ずつを背にくくりつけ、手に斧の刃をもったハティとスコルと槍の穂先だけを蔦で縛って、背中にしょった私は、ドライアド達にお別れを告げると家路についたのであった。実は、ドライアドの1匹は、私達が見えなくなるまで、見送っていたことなど思いにもよらなかった。
なにも起きず、無事、日が沈む前に家に寄り添うように立つ木が見え、無事家に着き、ハティもスコルをベッドに入れ、気絶したままのノームを机の上に藁を固め横にし、私は外に出た。
月明かりが湖にさしこみ、小川にきらめいている。私は、そよ風を受け楽しそうに木の葉を揺らしている木にもたれ座る。
「今日ね、いろんな事あったよ。リリア・・・。」
リリアは、私の話に相槌を打つかの如く木の葉を揺らすのであった。




