辺境の森④
周囲をハティとスコルが警戒をしながら進んでいく。私も魔力を左手に集め、召喚主の本を出現させた。これを出せないと召喚士にはなれない。一杯勉強してもなぜか出ない人は出ないらしい。が、召喚士になる勉強をするぐらいなら魔術士になるほうが、便利だし、就職しやすいらしい。
召喚士になっても、モンスターカードを買うか、もらうか、自力で手に入れなくてはいけない。さらに契約が失敗すれば、そのモンスターカードは、消失するし、契約できても育てたりといろいろ大変なのだ。
そう、私の場合は、モンスターカードが手に入っても契約できなかった事が多いから召喚主の本に入っている契約カードは、以前は3枚だったけど今はたった2枚。一枚はハティとスコルのカード『日月の犬人』。あと1枚は、あまり使いたくないけど、『魔眼』。リリルがいない分、これに頼らないとだめかもしれない。
「見えた。」
「豚臭いの見えた。」
まだ『空の柱』まで、すこしある。木陰から見える限り、豚人が2匹。どれもがっちりした体格に、上半身は裸、腰には、布か毛皮を巻きつけて、手には、ぼろぼろの剣や斧をもっている。うち前方を走る1匹の肩には、大きな葉っぱでくるまれているものを担いでいる。リリアもよくあの状態になっていたからわかるが、あれは、木妖精が寝るときや身を守るときに髪を変化させているものだ。
ある程度安全なところまでいったら豚人共の欲望のまま襲うつもりだろう。
「どうやら、さらって逃げているようね。空の柱の前に、あの子を助けましょうか。」
幸い私たちの方に向かってくるし、オーク達は、追撃に注意を払っても前方は不注意だとおもうけど、ハティとスコルだけでは、2匹の相手は、危険だ。ハティとスコルがけっして弱いわけではないコボルトとしては、強いと思うが、オークとコボルトでは、格が違うのだ。
「ハティ、スコルは後ろのオークをお願い。私は、前のをどうにかするわ。」
「フレイヤ大丈夫?」
「大丈夫?」
私の足元では、ハティとスコルが心配そうに私を見上げていた。長年一緒にいるハティとスコルは、私の切り札とその反動をしっているのだから。
「うん、大丈夫。オークならそんなに長時間使わないから。」
ハティとスコルは、顔を見合わせ、頷きあうと何も言わず、4足歩行で、静かに前に進んでいった。
「さてと、まずはこの子を・・。」
手に乗せていた金髪の妖精をそっと、地面に横たえてる。ポーチに入れて荷物にはさまれるのもかわいそうだし、目の届く範囲ならば、再びオオカミさんのご飯として捕獲されることもないだろうしね。
私は、召喚主の本を開き、目の絵が書かれている『魔眼』のカードに触れる。
「契約に従い、我に従い力となれ!!」
カードに魔法陣が描かれ、青い光が私にさし込まれた。私のどんどん魔力吸い上げていき、契約で定められた量を吸い上げ、青い光が収まり、カードに描かれた目の絵がなくなった。瞬間、私の左目に激痛がはしる。反射的に左手で押さえるが、収まるわけも無く。声をあげそうになるが、オークに気がつかれる恐れがあるため、かみ締めていた下唇をさらにかみ締め我慢した。
『ひさしぶりだな。主よ。』
痛みになれた頃合を見計らったのだろう。あまり聞きたくない声が、私の脳裏に野太い声が響き渡った。
「えぇ、出来れば、痛いし、会いたくないんだけどね。」
痛みになれただけで、あって痛みが引いたわけではない。彼曰く、常時召喚し続けていれば、痛みもなくなるらしいけど、ごめんこうむりたい。今の私の左目には、瞳はなくその代わりに青い魔法陣が描かれているはずだ。この魔法陣の目こそ、私の切り札『魔眼』。魔力消耗も激しく、痛みも激しいし、長時間この状態で、寝込んだこともある。ただ、その分今の私には、メリットも大きい。
『契約を交わしておいて、つれぬ事よ。さて。』
「あのオークを止めたいの。でも運んでるドライアドは、無事に助けて。」
私は、右目と魔眼でオークを見据えた。
『力を加減せよと?面倒な。』
「出来るでしょ?」
『もちろんだ。ただ、良いのか?そろそろだぞ?』
「えぇ、わかっているわ。覚悟の上よ。」
『そうかならばよい。』
もしかしたら今回かもしれない次かもしれない。がその覚悟の上、呼び出したのだ。確実にドライアドを助けなければ、彼女の末路は、オーク共にもてあそばれ、オークの子を宿し、産み、再びもてあそばれ、子を成せぬ体になれば、オークに食べられる。そんな末路は、女であれば、誰だろうがお断りだ。
『いつでも良いぞ?』
魔眼が、脳内で急かす。いつもと違って、高揚しているような声色に聞こえるのは、今回で、彼の思惑が成就するかもしれないからかもしれないし、久しぶりに自分の力を解放できるからかもしれない。
「じゃ、もうやって!!」
ハティとスコルの足ならもうタイミングを計っている頃だろうし、あまりオークに近づきたくない。
『では!!』
左目の視界がゆがみ、急に右目と左目の見えている景色が変わった。もちろん右目は、前から来るオーク2匹が見えているが、左目には、オーク2匹を上から見下ろしていた。そして左目の視界は、すごい速度で、降下しいき、葉っぱを担いだオークの頭が視界に広がり、そして暗くなった。
右目には、オークの頭上から青い光の線が降り注ぎ、一瞬にオークの体を串刺す。串刺されたオークは、数歩前に進むと一言も発さずに膝から崩れたのであった。
「ぐっ、うぇぇ・・。」
胃から熱い物が喉に登ってくるが、吐き出さず我慢する。いつもこうだ。両目で見える物が違うからか、この吐き気を覚えない時はない。
『主よ。魔力が足りぬ、もう一度放つか?』
「いえ、結構よ。戻って。」
『ふむ。どうやら今回では、足りなかったようだ。次回に期待しよう。』
魔眼がそう脳に響かせると左目の視界が元に戻り、召喚主の本の『魔眼』の絵が元通り描かれた。
吐き気は、まだあるが、オークは2匹。あと1匹を目で探すと、ハティとスコルが両脇に対峙し、肝心のオークは、膝をついていた。きっと不意を着いて、両足の腱をナイフで断ち切ったのだろう。彼らは、自分より大きい相手の時は、まず足を狙えと爺に教わっており、その教えどおりにしたのだろう。初手で相手の行動を奪えば、後は、確実にしとめるだけだ。
私は、短剣を手にし、オークの視界に入るように木陰から出ると、一瞬オークの注意が私に注がれる。それを見逃すハティとスコルではなく、次の瞬間2匹のナイフが、オークの喉を切り裂いたのだった。
私は、よろめきながらも地面に横たえた金髪の妖精を拾い、葉っぱに包まれているドライアドの元に向かう。
「えっと・・・。」
ハティやスコルぐらいなら包まれそうな大きさの葉っぱの包み。これはリリアのときにも経験済みだが、外からじゃ開けないのだ。中身の妖精じゃないと開かないのだ。強引に切り裂けば別だろうけど、ドライアドの髪を変化して作る葉っぱなのだから切り裂くということは、中の彼女を傷つけるということになるだろう。
ノックをしてもみるが、反応がない。気絶しているのか、恐怖で出てこないのかも判断しようがない状態だ。
「どうしようかな・・。連れて行くべきかな・・。」
金髪の妖精さんと同じく放置しておけば、野生動物に襲われるかもしれない、オークはまだいるかもしれない。置いていくわけにいかないかな。
「フレイヤ肉あった。」
「フレイヤこれ。」
ハティは干し肉っぽい黒い塊と斧を。スコルは剣と1枚のカードを私に持ってきた。そう私が、ドライアドに困っている間にも彼らは、戦利品を確認していたのだ。2匹ともうれしそうに尻尾を振って、私の目の前に戦利品を並べてくれた。
黒い物体は、ハティが肉というのだから黒かろうが、食べれるのだろう、持ってきた武器は、私たちが使うには、重くても売れば少しはお金になる。追い剥ぎのような行為だが、こうでもしないとこの森までの路銀が足りなかった私たちにとっては、欠かせない習慣になった行為だ。そしてなにより、スコルが持ってきたカードが一番うれしい。
『豚人の兵』。モンスターカード。召喚契約を結ぶ気は、毛頭ないが、付与魔術士に頼めば、武具にモンスターカードの効果を付与することも可能な為、どんなモンスターカードであれ、高値で売れる。森で手に入らないものは、買うしかないのだ。その代金を稼ぐにはカードでも武器でも素材でもなんでも集める。それが追い剥ぎだとしても仕方がないことだと思う。
「ハティ、スコルまだいける?」
「(コクコク)」
私の言葉を理解して、頷く2匹。そうまだ『空の柱』がどうなっているのか確かめていないのだ。このオークだけならいいけど、オークも群れで活動する為、もっといるかもしれない。
「じゃ、行くわよ。」
私は、ドライアドを担ぎ、道を急いだ。ちなみにドライアドは、軽い。ハティやスコルと大して大きさは変わらないのに、メロン一個程度の重さしかない。軽いからこそ簡単に連れていけるのだが、ハティとスコルは、同じ身長の子供とそう大差ないぐらい重い事から考えても不思議なことだが、リリルも理由はしらなかったので、ドライアドという種族がそういったものだろうと思う。
私たちは、警戒しつつ、前に進む。
それほどまでに歩かなくても、森がひらけ、大きな広場になっている場所がはっきりと見えた。あそこが『空の柱』だ。
「あそこも豚臭い。」
「血の臭い。」
ハティとスコルがいうのだからまだオークがいるのだろう。警戒しつつ木陰からそっと広場を覗き込んだ。
広場の中央には、大きな幹があり、その周囲にいくつかの人影が見え、そして、いくつか倒れている姿も見える。見る限り動いているのは、地面まで伸びている緑の髪をもつ裸体の少女と切り株のような姿のドライアドの上位種である木人だ。
「こっちはどうやら無事見たいね。いこうか。」
私たちは、武器を鞘に納め、ゆったりと広場に足を踏み入れた。




