辺境の森③
ハティとスコルは前を歩き、それについていく、気絶している?妖精さんを手に乗せついていくのだが、ハティとスコルは、相変わらず、匂いを嗅いだり、カエルをつつてみたりと、一向に前に進まないのはいつものことだ。家をでて、オオカミの巣穴まで、2時間。それから2時間は歩いたかな?日差しは真上からさしているけど、いつもならここら辺でお昼ご飯なんだけど、あいにくお弁当はなく、たまにハティとスコルが、私の手のひらに乗っている妖精さんの匂いをかいで、涎をたらすので、そのたび叱り前に進んでいく。それを繰り返すこと数度、目的地の象徴が、木々の隙間から見える。
それは、いつ見ても『空の柱』という名前がつけられるのにふさわしい大木だ。森の奥に入ってきているためか、木妖精の影響なのかは知らないけど、周囲には立派な木々が多い。だが、それよりも遥かに高く、さすがに雲までは届いてはいないと思うが、見上げると首が痛くなりそうだ。木妖精の村『空の柱』の長である木人曰く、古代木人と呼ばれる木人が、根付き、膨大な時間がはぐくむとこういった大木になるそうだ。
私はもう何度か足を運んでいるけど、ハティとスコルが一緒にいるのが気にいらないのか、会話した事がない、でも機嫌が良い時は、お話ができるらしい。
「・・・豚臭い。」
「・・・豚臭いね。」
ハティとスコルの耳が、ピンとまっすぐ『空の柱』に向けられ、眉間には皺がよっているようだ。
「豚臭い?」
食べれる豚ならきっとよだれをたれしているだろう。だけどこれは。
「大きくて嫌な豚臭い奴。」
「フレイヤ、帰る?」
ハティは、前方の臭いと音に集中し、スコルは、どうするの?と言いたげに首をかしげ私を見上げた。
大きくて嫌な豚臭い奴。たぶん、豚人だろうと思う。
召喚士としても女としてもあまり好まれない妖魔だ。豚人は力も強くて、戦闘に秀でて、知性もそれなりに高い、でも欲望が強すぎて、召喚士と契約を結ぶ事ができないって本に書いてあった。そして女として好まれないのは、不思議とメスがいない種族で、異種族と交配しても子を成す。そして欲望が強すぎて、人だろうが、妖精だろうが、動物だろうが、襲い子を成すのだ。そんな相手を好む女性はいないだろう。白馬の王子様を待っているわけではないが、野蛮な豚鼻の王子様など願い下げたいところである。
だが、『空の柱』が襲われているならば、何とかしないと明日から私達の生活にも影響がでる。たとえば、今日貰いに来た『ツンツン草』。これは、ここにしかないってドルグおばーさんが言っていた。それが貰えなくなると小鬼族との交換で物を貰えなくなるし、他にもここなら傷薬や解熱の薬草も簡単に手に入り、なおかつ年中果物がある。その見返りに私達が提供しているのは、家の前の小川の水を水筒一本分運ぶこと。ただそれだけの取引相手を安易に失うには、私達の自活レベルは低すぎる。そしてなにより、もう長い付き合いの木精霊達を見捨てるわけにはいかないのだ。
「帰らない。そっと近づくよ。いい?」
ハティもスコルも私の本気が伝わったのか、神妙にうなづき、いつもの子犬のような雰囲気から猟犬に変わり、うなづく。私達は、これでも都からはるばる辺境の森まで、旅をしてきたのだ。盗賊に襲われたり、妖魔の襲撃にも対応してきた。豚人?だからなんだ。たしかに旅してきたときの最大戦力は、今はいないけど、どうにかなるはずだ。
「ハティ、臭いが変わったり音がしたら教えて、スコル、後ろを注意してて、豚人とか大きいが相手だったら1人で飛びかからない事。後、妖精を助ける事を優先すること。」
「(コクコク)」
私の長い指示を一生懸命に聞いてうなづくハティとスコル。日頃は子犬でもそれなりに戦い慣れているし、問題はないはず・・・だといいたいけど・・・。やっぱリリルがいないのは、大きいな。リリルがいれば、私はハティとスコルの指示専念できてたもんな。
「あ、後死なないように!!」
「俺等、召喚魔。」
「死なない。」
「そういう事じゃなくて、とりあえず怪我しないでってことよ!!わかった?」
「(コクコク)」
召喚されている以上、死ぬことはない。死ぬほどの怪我を負えば、召喚主の本に戻されるだけ。ただし、1月程召喚できないというデメリットもあるが、召喚カードに戻るだけで死なない。というのは利点だと考える召喚術士が大半だ。
負けるとわかっていてもけしかけ、倒れたら次の召喚。それをくりかえし、強敵を倒す。絶対的な主従関係を盾に痛い思いをさせるのは、私は嫌だ。
そして、ハティとスコルにカードに戻ってほしくない理由はもう1つある。ハティとスコルのカードは『日月の犬人』という犬人カードの中では、最高クラスの珍品らしい。『ハティは月を追い、スコルは太陽を追う。太陽や月を食べようとする。』とカードに書かれている。数少ない同い年の友達からの大切なプレゼントだからどれだけ価値があるかは知らない。この1枚から召喚されているのだからハティとスコルは片方が致命傷を負えば、もう片方もカードに戻るだろう。そうなると1月の間、狩りもできないし、まだ秋とはいえ、毛布のかわりがないのは、困るのだ。
「絶対だからね!!」
「(コクコクコクコク)」
私が、更に念を押し、私達は慎重に空の柱に近づいていった。




