闇夜を小鳥たちは飛ぶ
長らくお待たせ致しましたm(_ _)m
他作品が煮詰まりました・・・。
次回は、書けたら投稿いたします。
切実に執筆時間と睡眠時間欲しい・・・・・。
もう、昔には戻れない。けれど、新しく始める事は出来るはず。内心が、悲鳴を上げるけど、今は蓋をして見ないふりをする。今は時間がないから・・・。昔ならば、こんな時とっくに泣いていただろうけれど。
ーーーーー今は、ちゃんと向き合えるはずだ。私も変わったはずだから。
「そういえば、自己紹介していませんでしたね、私は緑姫、皆は姫って呼ぶから、そう呼んで下さいね」
「姫さん・・・で、いいでしょうか? 私は、雪野と申します、家族は“ユキ”と呼んでくれますから、よろしければそう呼んで下さいませ」
それは、不意討ちだった。だから、思わず、顔が強ばってしまう。まさか、その名を、もう一度、呼ぶ事が出来るなんて・・・。涙が溢れそうになるのを、必死で我慢して、不恰好かもしれないけれど、笑顔を見せた。意地だったのかもしれない。これは、私に許された、新しい始まりなんだから。
「じゃあ、お言葉に甘えて、ユキって呼ばせてもらうね、とりあえず、ここは危ないから、移動しよう」
「あ、はい・・・でも、何処に?」
・・・・・あっ。
逃げる事しか考えてなかった為に、何処にとは考えていなかったのだ。何処までも続く闇の中、上下さえも曖昧なこの場所で、頼れるのは、自分とユキのお互いだけ。華樹と流星は、実態もないため、知恵を拝借するしかない。
「でも、ここは危ないわ、とにかく、移動しながら考えましょう」
先程から、嫌な感じが増した気がするのだ。急いで動くべきだと、昔は頼りに成らなかった勘が、ざわざわと警告を発しているかのようだ。
「分かりました、お邪魔にならないように、頑張ります」
可憐な雪野の仕草に、会わなかった期間の事が気になってしまったものの、動き出した二人は、直ぐに違和感を覚えた。
「我々は歩いていますよね?」
雪野の言葉通り、二人は早歩きくらいの速さで、前へ進んでいるはずだ。だが、実際に動いてみると、違和感しかない。進んでいる、または、別の場所へ移動した感じがしない・・・。
「もしかしたら、ここは特殊な空間に成っているのかも・・・」
私は、強張る顔で、辺りを見渡す。そう言う場所は、確か決められた手順をする事で出る事ができると、以前、読んだ本には書かれていた。
「我々をどうするつもりなんでしょう?」
顎に手を当てて考える姿に、昔を思い出しそうになって、頭を横に勢いよくふる。ちょっとくらくらしたが、今と混同してはいけないんだ。
「分からない・・・でも、相手に合わせる必要なんてないわ、でしょ?」
茶目っ気たっぷりに言ったら、雪野はおかしそうにくすりと笑う。あぁ、久しぶりに見た、ユキの笑顔。あの日から、見ていなかったから、思わず驚いたまま、固まってしまう。
「どうかしまして?」
「えっ? い、いいえ、何でもないわ」
危ない危ない・・・。昔を思い出して感慨に耽ってはいけないのだ。今はここから出る事を考えなければ。
「とにかく、私の契約武器を使ってみるわ、どこかに必ず出口があるはずだもの」
かなりの威力で、この空間に放てば、間違いなく何かしらは起きるはずだ。特殊な空間は、内側から無理やり壊す場合、かなりの力を使う。とはいえ、私は直径筋の娘である。莫大な力を持っているため、問題はないのだ。
「ユキさんは、身を守る事に全力を・・・」
「ならば、私は貴方の側に居ましょう、一番安全ですもの」
上品に微笑むユキは、昔見たどの姿とも違っていて、今度こそ気づいてしまう。ーーーーーもう、ユキは違うんだって。昔を引き摺っていたことに、嫌でも気付く。昔を捨てられないのは、私の方で、彼女は既に今を生きてるんだって。
「・・・・・そうだね、でも、私の服か何かを掴んでいてね」
弱いと思う。私はとても・・・。ほんの些細な出来事があるだけで、動けなくなってしまう。ユキは記憶がなかったから、すんなり今に馴染めたんだろう。私は駄目だ。昔の記憶が邪魔をして、時々、引き戻されてしまう。ーーーーー儚くて美しい輝きを今でも放つ、懐かしいあの日に・・・。
「『流星』・・・行くわよ!」
心は揺れに揺れている。でも、今はやるしかない!
国宝を使うなんて、昔では思いもしなかった。まさに、今だからこそ実現した、奇跡。顕現した流星は、神々しいまでの姿で、既にやる気に満ちていたように感じた。先程までの、親しみを感じる笑顔はない。ただただ、見入ってしまう程の、神々しい姿。まさに、国宝の輝きだった。
「天へ向けて、浄化の光を!」
迷いなく、私は天へ向けて、巨大な力を放った。流石と言うべきか、私には直系だけあって、巨大な力を継承している。
「いっけぇぇぇーーーーーーーーーーーー!!!」
どこまでも続く、黒き闇の世界に、一筋の光が貫いていく。どこまでも続くと思っていた世界。それが、光によって、照らされていく。
いや、浄化されていた。闇の霧が一気に晴れていく。それは、幻想的な景色のようで、間近で見ていた雪野は視線を反らすことなく、ただただ圧倒的な景色に見入っていた。
だからこそ、異変にいち早く気付いた。美しいまでの圧倒的な力、それを受けていた闇の空間に、いつの間にか無数の皹が入っていた。
「・・・・・っ! 姫!」
空間が崩れていく。間近にいる少女の悲鳴染みた声に、はっとして上を見上げる。まるで、卵の殻を剥くように、はらはらと落ちる欠片は、すっかり色を無くし、光を反射しながら、砂のように落ちていく。全ての殻だった物が落ちた時、外と思われる場所からの、眩い光に、私も雪野も目を閉じるしかなかった。
一瞬とも、永遠とも思える時間、ゆっくりと開いた私に飛び込んできた景色に、私は固まると共に、目を見開くしかなかった。




