小鳥と波紋
長らくご無沙汰してしまい、申し訳ありませんm(__)m は、半年ぶりになるなんて……………。次回は、もう少し頑張ります!
運命の歯車は動き出す
彼の者達すら気付かぬうちに
静かに、静かに、動き始める……………
水面に波紋が広がるように
一度動き始めた運命は
大きな波紋となって、広がるだろう―――――――――
二つの意志は廻り合い
巨大な渦とかす
人よ、見誤る事なかれ
道を誤れば、そこに待つのは破滅のみ
人よ……………、人の子よ…………………、決して見誤る事なかれ―――――――……
◇◇◇◇◇
豪華な廊下を、足早に歩いていく、一人の青年。その足は、迷いなく、この城で一番豪華な扉へと、進んでいく。勿論、ここは王城であり、その扉の前には、二人の近衛兵がいるのだが、その青年の余りの剣幕に、何も言わずに扉を開けた。本来ならば、役目に忠実な彼等も、彼の剣幕には本能的な意味で従ったのだ。
「失礼致します! 陛下!」
苛立たしくとも、冷静な部分は残っているらしい。そんな息子の姿に、陛下と呼ばれし威厳あるその人は、顔を僅かに弛ませた。滅多に無い、息子のその表情を見れた、父親として。
だが、すぐに顔を真面目な物に変え、この国の王としての顔になる。
「失礼します、陛下………人払いを」
今にも爆発しそうな気配をしつつも、第一皇子として、水暉は恥ずかしくない姿をしている。
しかし、これほどの怒りとは、何に対してか。
腕を払う仕草で、配下の者達を下がらせる。最後の者が部屋から出た時点で、水暉の我慢が切れた。まだ若い故に、保った方だろう。
「父上! 若葉と例の娘を会わせたそうですね!? 母上にも会わせたとか! 何故、私には会わせて下さらないのですか!!」
予想外の答えに、驚きで目を見開いた。まさかそう来るとは…………。
しかし、水暉の言葉は、まだ終わらない。
「そもそも、何故に若葉だけ会う事を許されているのです!? 私とて、自分の許婚にすら会う許可を頂けていないのに! それに何ですか! 人に対して、白を探れと申して置きながら、闇を使って例の者を調べるなんて! 私をのけ者になさるつもりか! 一言頂ければ、私とて協力いたしましたものをっ!」
一息で言い切った反動で、肩で荒い息を吐く息子を、まだ若いと思いつつも、父親としては成長が嬉しく思う。だが、王としては諫めなければならない。このままでは若さ故に、がむしゃらに突っ込んで行ってしまうだろう。
道を誤れば、それは自分達だけでなく、国をも揺るがしかねない事態を生む。王として、そして父として、若い者を諫めるのは、仕方の無い定めだ。
「水暉、そなたに会わせなかったのは、仕方なき事、許せ」
王として、謝る事は許されない。故に、父として、謝罪をする。許婚に会わせないのは、会わせられない理由があるからだ。彼にはまだ、理由があり今は会わせられないとしか、言っていない。聡明な王子である水暉は、それだけで察する事があったのか、何も言わなくなった。本当は会いたいだろうに、立派な子だ。
しかし、緑姫と会うのを邪魔した覚えはない。たまたま、時間が合わなかっただけだ。
「水暉よ、近いうちに、緑姫殿には会わせる機会を設けよう、しかし婚約者の件は待て……………今は時期が悪い」
水暉の婚約者は、とある事情により、ここに連れてくるわけにはいかないのだ。今は白蛇一族の問題があり、連れて来たらどうなるか。
「……………分かりました、しかし、緑姫殿には絶対に会わせて下さい! 未来の義妹ならば、何としてでも会いたいです」
確かに、緑姫殿と若葉の婚約の話が持ち上がっている。だが、あくまで仮定の話であり、“義妹”になるかは未定である。水暉がこんな事を言うとは、既に水面下では、かなりの噂になっているようだ。
「その件は、まだ未定だ……………しかし、水暉よ、白から目を離すな、まともな者達は既に此方で確認しておるが、いつ事態が動くとも知れぬ……………慎重に行動せよ」
自然、声は固くなる。白……白蛇一族は、最近、何やら動き始めていると、密偵により掴んでいる。あの一族は、潔癖症が多いが、故に優秀でもある。確かに、刑部を仕切るのは、白蛇一族だ。彼の目は、いかなる悪も見通すのだから。
…………………その奢りが、まさか他の一族に向かう等、誰が思ったか。百年前に消えた、黒麗一族……………13年前に本家が滅ぼされたかけた、緑英一族。
繰り返した悲劇、それ故に、白蛇一族、その中の黒く穢れた部分を、今度こそ消さねばならぬ。
「水暉よ、良いか? 今度こそ、白を白へ戻すのだ」
もう二度と、あの悲劇を起こさない為に―――――――。
「陛下のご意志のままに―――――」
臣下の礼をする水暉に、陛下の王としての顔で応えた。
廻り合い、そして離れるのは、人の性。故に願わずにはいられない。これから先に待つのが、幸ばかりであるようにと……………。
◇◇◇◇◇
寝床に座り込み、私はぼんやりと、ただ呼吸するだけの置物と化していた。
ユキは今頃、家族と会い、自宅になる場所に帰っただろうか。
結局、私はあの日以来、彼女に会っていない。私の知らない彼女を見ている事に、耐えられないから…………………。
「姫さま、今日はね、綺麗なお花を持って来たの!」
珍しく、フランが明るい声で言うから、私は何処か心を置き去りにしながら、其方を向いた。小さなフランが持って来た、それを見て、僅かに目を見開く。
…………………あの、夢に出て来た花、そう、確かこれは。
「…………牡丹…」
久し振りに呟いた声は、頼りなく擦れていて、自分のものとは思えなかった。
「そうなの! 綺麗でしょう? 季節の花だから、姫さまに見せたくて、主さまに頼んで分けてもらったの!」
嬉しそうに弾ける声が、音として私の耳を通り過ぎていく。ぼんやりと霞む頭は、理解はしても、意味が滑り落ちていく。
「ここに飾るから、姫さまも楽しんでね」
ぼんやりしたまま、時間は流れていく。昼になり、夜になり、ようやく嫌な事しかない現実から、逃れていられる時間が来る。私が唯一、安らぐ時間。寝ていても、誰も叱らない、私だけの時間……………。
準備はいつしか終わって、寝台に横になり、目を閉じる。
何て幸せな時間。嫌な事は忘れて、楽しい、笑顔だけが溢れる時間。
あぁ、ずっと幸せな夢の中に居れたら、どんなに幸せだろう………………。
◇◇◇◇◇
古いながらも清潔を保ち、美しく整えられた室内。そこには満面の笑顔を見せる、顔がよく似た数人の人々が、一人の少女を中心に、会話に花を咲かせていた。
「雪野………貴女が帰って来てくれて、母は本当に嬉しいわ」
そう言って涙ぐむのは、中年に差し掛かる、優しい雰囲気のご婦人である。紫色の着物を着ており、身分が貴族である事を表している。雪野と呼ばれた、昔はユキと呼ばれた少女は、戸惑いを顔に表したまま。その顔立ちは、母親と良く似ており、彼女も水色の着物を着ていた。
「あら、わたくしもよ? 末っ子の貴女は、わたくし達に取って、待ちに待った子だったのだもの!」
此方は活発な雰囲気の若い女性で、雪野の姉に当たる。赤い着物は、彼女の雰囲気にピッタリであった。その表情は、煌めきを全面に出したようだ。名を赤椿と言う。
「そうですよ、貴女をずっと探していたのですから」
此方はもう一人の姉で、白菊と言うそうで、落ち着いた雰囲気の人だ。右目の下にある泣き黒子が、彼女を更に優しい顔立ちにしていた。
「こらこら、お前達、雪野が困っているだろう、これからずっと会えるんだから、少し落ち着きなさい」
柔らかい音色で、女性達を止めたのは、柔和な顔立ちの中年男性である。この家の当主であり、そして雪野の父親である。彼女とは、目元がそっくりであった。親子だから当然なのだが、未だに馴れない。
「姉様達ばかりずるいよ! 僕も雪野を甘やかしたい!」
そう言ったのは、美しい顔立ちの少年で、雪野の兄に当たる。名を、蛍火と言った。
「こらっ、蛍火、雪野は女の子なんだから、節度を保ちなさい、雪野、私は一番上の兄だ、何かあれば頼りなさい」
穏やかな顔の青年は、長男だけあって、他の三人よりも落ち着いていて、思わず姉二人は素直に頷いていた。彼の名を、草薙と言い、皆より鮮やかな髪をしていて、人柄もしっかり者の為か、貴族の若者らしく見えた。
「兄様、ごめんなさい、でも嬉しいんだもん、やっと雪野が帰って来たんだよ? 姉様達だって、雪野が帰って来て、嬉しいでしょう?」
可愛らしい少年の蛍火に、確認をされた姉二人は、勿論だと言わんばかりに、満面の笑みを浮かべている。
「「勿論よ」」
周りは微笑みを浮かべているが、ただ一人、曖昧な微笑み、いや、戸惑いを浮かべた雪野だけが、取り残されていた。
記憶の無い彼女に取っては、全てが初めてで、でも戸惑いだけでなく、暖かい思いが彼女の心を支えている。
だから、目覚めた日に、会った少女について、彼女は思い出す事は無かった………………。覚えていないから――――――。
でも今、この瞬間だけは、幸せを戸惑いながら、噛み締めていたのだった。
◇◇◇◇◇
幸せの真っ只中に居る少女を、無機質に見つめる影がある。その眼は、ただ氷のように冷たい色を宿していた。
―――――――人よ、道を踏み外す事なかれ………………その先にあるのは、破滅のみなり―――――
まずは、いつもお読み頂きまして、本当にありがとうございますm(__)m
そして、前書きにも書きましたが、約半年ぶりの更新になってしまい、申し訳ありませんm(__)m
えー、ちょっと言い訳を(;^_^A
実は途中から、上手く表現出来なくて、いわばスランプ状態になっていました……………。気持ちとか、人間関係とか、今後の伏線も入れないとで、正直、大変な話でした。無事に進んで良かったです(^-^)
まだまだ亀更新が続きますが、宜しくお願いします!




