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泣く小鳥

長らくお待たせ致しましたm(__)m 次回は………早いうちに更新します。

ウキさんが部屋を出てから、嫌な沈黙が室内を満たしていく。その沈黙を破ったのは、フランであった。


「ねえ、姫さま、ユキさまはどんな人だったの?」


問うてきたのは、ユキの事。そういえばフランは、あの術で操られたユキしか知らないのである。これは当然の質問と言えるだろう。


「ユキ? そうね…………、一言で言うなら、完璧な優等生………かな」


あれは、そう表現するしかないだろう。それだけ、彼女は完璧であったのだから……………。


「私達、夢渡りの見習いには階級があるんだけど、ユキは同じ歳の子より、ずっと進んでたの……………、私は下から二番目の第四級、ユキは上から二番目の第二級」


試験はかなり難しいのだが、ユキはあっさりと合格し、前に進んでしまう。私を置いて、先に進んでいくのだ。ユキは、刀の契約も、異例の早さだった。普通は、第一級の時点で行う契約を、第三級の時に、既に契約をしていたのだから。


「あれ〜? 契約って、真名が無ければ契約出来ないよ〜?」


それはもっともな質問である。実際、ユキが契約した時、私も驚いたし、不思議に思ったのだから。


「実際ね、前例があるの、親が幼い頃に亡くなって、真名を知らない人が契約した事が―――――その方法を使ったんだよ」


ただ、あまり良い方法では無いけれど。


「ふーん………」


フランは何かを考え込んでいるようで、視線は畳を睨んだままだ。本来ならば、失礼にあたるのだろうが、私にとっては、有難いように思える。何故ならば、契約方法をフランに話さなくてよいのだから。あまり、気持ちの良い話ではないのだ、この話は。


「姫さまは…………ユキさん、好き?」


突然にフランから、予想だにしない事を問われ、思わず固まってしまう。私は、ユキが好きだったのだろうか?


「……………わかんない、かな」


だって、ずっと姉だと思ってきたから、今更問われても、分からないとしか言いようがないのだ。昔なら、ほんの一ヶ月程前の、何も知らない頃の私ならば、確かに答えただろう。――――――大好き、と。


「何も知らない時だったら、素直に答えたと思う、……………でもね? 今は昔とは違うの、私は…………立場が違い過ぎる」


対等な、いや、昔なら、ユキと離れるなんて、あり得なかっただろう。姉妹だと信じていたし、周りを何も知らない、小娘だったのだから。―――――――幸せな夢は終わってしまったのだ。

もう、昔には戻れない。お姉ちゃんと、一緒には居られない。早朝の夢が、信じたくなくても、私を追い詰めていく。夢の通りに……………。


「家族が居るなら、今からでも時間はあるもの、一緒に居るべきよ」


私には、もう、両親も、祖父母も居ないんだから。居るのは遠い血縁の者達だけ。待っているのは、政略結婚と、一族繁栄の礎の役割だろう。……………それくらい、いくら子供でも、私だって分かっているつもりだ。

でも、良かったとも思っている、自分がいるのだ。ユキが、この立場じゃなくて良かった、と。幸せでいて欲しいから。大切な“家族”には。例え血が繋がらなくても、私にとって大切な家族。だから、幸せでいて欲しくて、―――――――でも本当は、一緒に居たくて。


「早く、家族が見つかればいいね」


口は残酷にも、心にも無い言葉を吐く。本心は、例えフランでも、隠すしかないのだ。私の我が儘は、許された物じゃないし、何より、早朝の夢が語っている。

――――――ユキが私から、離れて行く事を。


「姫さま、だいじょうぶ? 無理してない?」


フランの問われ、私は硬直してしまった。今の会話で、何で気遣う言葉が出るのか、分からなくて。


「泣きそうな顔をしてるの、姫さま」


……………泣きそう? 私が?

頬に触れても泣いていないのに、フランはあっさりと言う。考えたいのに、頭の中は夢の事で一杯で………………。


「フラン、少し一人になりたい……………」


自分の気持ちが分からない。私はユキが家族と暮らすのに、賛成しているはず。ユキに家族がいて嬉しいし、祝福もしてる。

なのに、何故、もやもやした何かが晴れないのだろう?


「姫さま…………分かったの、ここは今から騒がしくなるから、部屋にいこう?」


足元がおぼつかないまま、私は部屋を出た。まるでユキから逃げるかのように、部屋へと戻る。いつの間にか部屋について、私はベッドに飛び込んだ。頭が沢山の事で一杯で、ぐちゃぐちゃして、考えられない。


「姫さま、何かあったらよんでね?」


フランはそう言って、部屋を出た。泣く事も無く、ただぼんやりとしていた。

―――――――どれだけ時間が経ったのか、分からなくなった頃。部屋の扉を叩く音がした。


「姫君、少し宜しいでしょうか?」


星回さんの声だ。ずっと考えて、考えて、考えて過ぎるくらい考えて、でも答えは出なかった。私はどうしたいんだろう? どうすればいいんだろう?


「失礼します」


返事はしなかったけれど、星回さんは静かに部屋へ入って来た。私の体勢も気にしていないようで、備え付けの椅子に、座ったのが音で分かった。


「先程、ユキ様の家族と連絡が取れました」


その言葉に、体が大きく震えた。恐れていた事態、いや、待ち望んだ事が起きたのだ。嬉しいはずで、喜ばなければいけないはずなのに、私の体は動けなかった。――――――これすらも情けなく思う。私は、最低な子だ。ユキの幸せを考えるなら、喜んで笑顔で送り出すのが、当たり前なのに……………。


「明日、会いに来るそうです、その時、今後を決めたいとも申していました」


今後を決める……………。その言葉が私の中に衝撃を放っていく。いつまでも、反響するこの言葉は、更に私を混乱させていく。


「………そう…ですか……」


そう答えるのが、やっとで。本当に嫌になる。私は、これから、緑英一族総本家最後の姫として、生きていかなければならないのに……………。頭では分かっていても、心がついていかなくて。


「姫君、無理に会う必要はありませんが、このまま会わなければ、後悔しますよ」


後悔…………するのだろうか? いや、するのかもしれない。私は、どうすればいいんだろう?

会いたいけど、合わせる顔が無くて。どんな顔をすればいいんだろう?

ずっと姉だと思っていた人が、遠い親戚の人で。自分の立場だって、やっと自覚したばかりの私。そんな私が、彼女に会って、昔のように居れる訳がない。粗相をしないで、ご両親と会って、今後を話し合って。

そんな大切な事、出来る訳がない………………。私にそんな度胸なんて、ない。


「かまいませんよ、姫君」


星回さんの言葉は、どこまでも優しいもの。私を労るものだ。


「今すぐではないのですよ、姫君、まずは彼女が目覚めてからです」


確かに、時間はあるだろう。ユキはまだ、目覚めていないのだから。でも、近いうちに、目覚めの時が来る。その時、どんな顔をして、私は会えばいいんだろう?


「姫君、ユキ様に会いに行きませんか? このままここに居るよりも、いいのでは無いですか?」


心臓が、跳ねた。


「私が………ユキと…………?」


会ってどうすればいい? まだ目覚めない眠り姫に。

―――――――私の所為で、未来を歪めてしまった彼女に、会って何を言えばいい?

謝る? それとも、別れを告げる? ――――――逃げる?


「会わなければ、その心の靄は晴れないでしょう…………いつまでも、抱えるつもりですか?」


この思いを、ずっと抱える?


「そんなの嫌っ! こんな苦しい気持ちなんて…………要らないっ!!!」


私の突然の大声にも、星回さんは冷静なまま。ただ椅子にゆったりと腰掛け、私を静かに見ているだけ。


「ならば、会いましょう、姫君…………会えば自ずと分かるものですよ」


不安で一杯で、逃げ出したいのに、それでも、私の心は決まった。


「分かりました、行きます、ユキの元に」


この気持ちを整理して、前を見る為に。私は、星回さんを信じて、ユキに会おうと、決めた。



◇◇◇◇◇



すぐに部屋を出て、私はまた、ユキの居る部屋に入る。和室故の、独特な香りの中、布団に横たわる眠り姫がいる。


「まだ、目覚めないんですね…………」


胸を撫で下ろせば、ふと、違和感を感じた。


「星回さん、ユキは眠っているのに、どうして私をここへ?」


起きてからでも、良かったはずなのに。


「彼女が目覚めた時、姫君が居た方が、彼女も安心するでしょう」


でも、私が欲しい情報は、流されてしまった。ユキは、目覚めるはずで、だから、私はここに来た訳で。

そっとユキの近くに座る。


「ねぇ、ユキ?」


貴方は今、どんな夢を見てるの? そこは幸せな場所? 私は、そこに居るの?

……………話し掛けても、答えは無くて。


「………早く、目覚めてよ」


その言葉が、口から、するりと零れ落ちる。あぁ、私はやっぱり、ユキが心配なんだ。そして、目覚めて欲しいと願っている。


「ユキ、また、お姉ちゃんて、呼んで………いいの……かな………?」


溢れそうになる涙で、直ぐに視界が歪んでいく。でも、涙が滑り落ちる前に、私は慌てて袖口で涙を拭いた。ユキの顔が見れなくなるのは、嫌だから。

もし、もしも、これが今生の別れになったら………………。そんな事は無いなんて、私は不定出来ないから。


「…………ん…」


「え? ユキ!?」


ユキの目尻が震えたかと思うと、ユキの綺麗な金色の目が現れる。ぼんやりと辺りを見渡していた視線が、私とかち合った。


「ユキ………良かった、目が覚めて…………」


また潤み始める私の目。そんな私を、ユキはぼんやり見ている。その姿に、違和感を覚える。


「ユキ………?」


でも、次のユキの言葉に、私は目を見開いたまま、凍り付いた。




「あなた………だぁれ…………?」




それは、予期せぬ事態で、私は動く事すら出来なかった――――――。


お久し振りでございます。年末に間に合って、本当に良かったです。


シリアスなお話になりました、今回です。彼女には、これからも受難が続きますが、最後は幸せになって欲しいです。


さて、ここらで次回予告を。


12月23日から、年末テンシロ企画のお話をスタートします。更に、28日には、新作短編小説を投稿します☆


では、23日にお会いしましょう♪♪

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