姫と雪花
お久しぶりでございますm(__)m 今回は、2ヶ月程で投稿出来ました☆ 来週、9月28日は、いつものように『天と白の勇者達』を更新します。
うつつの中、そっと手を伸ばす
光の渦が舞い踊るそこには
はらはらと、雪が降っていて
とても綺麗な純白の雪は
私の指から逃げて、大地へと消えていく
はらはらと、はらはらと
雪は止む事もなく、降り続いていく
まるで舞い散る花のように―――――
はらはらと、はらはらと、舞い散る雪花
雪は、まだ止まない
光の大地が、白く、白く、変わっていく
まるで、何かが消えていくかのように――――――………
◇◆◇◆◇
目を開けると、そこは不思議な場所だった。
地面は一面の真っ白い雲に覆われていて、ふわふわと頼りない姿で揺れている。空を見れば、雲一つ無い、吸い込まれてしまいそうな程に、青い空。
そこはまるで、おとぎ話に出てくるような、そんな幻想的な場所であった。
「ここは………」
ぼんやりした頭のままで、辺りを見れば、視界の隅に、見慣れた姿を見付けた。
「ユキ? ユキッ!!」
嬉しくなって、彼女の側に行こうと、立ち上がって手を伸ばしたけれど、何故か届かなくて…………離れて行く。必死に手を伸ばして、走るけれども、届かなくて。
「ユキッ!」
前を歩く彼女は、どんどん離れて行く。走っても、走っても届かなくて、彼女は離れてしまう。
「待って、置いて行かないで!! ユキッ、――――お姉ちゃん!」
私の叫びは、彼女には、届かない―――――――。
◇◆◇◆◇
「………ユキッ!」
自分の悲鳴のような、そんな叫びで目が覚めた。全身から汗が出て、私は早鐘を打ち続ける心臓に、そっと手を当てて、大きく息を吐く。
大丈夫、あれは夢………夢に決まってるんだから――――――。
「…………ここは」
ふと、辺りを見渡せば、最近見慣れた私の部屋だった。まだ早鐘を打つ心臓を、そっと手で押さえる。怖い、夢を見た。いや、怖いとは違うかもしれないけれど、でも、私にとっては、ヒヤリとする程には、嫌な夢だった。
「ユキ…………」
私がここにいるという事は、無事に、あの場から逃げられたと言うこと。震えそうになる指を、反対の手で押さえる。
大丈夫、まだ最悪の事態になった訳じゃない。だから、だから大丈夫。あれは夢、夢なんだから、だから大丈夫。
何度も何度も、口の中で大丈夫と繰り返す。言霊を信じられるなら、どれだけ嬉しいだろう。
――――――夢渡りの一族は、未来を夢で見る。
だから、夢が現実になる事も、私は知っている。でも、大丈夫という言葉に縋りたいのも本当なのだ。
布団の上で、震える体をぎゅっと抱き締めながら、小さくなる。大丈夫、夢は夢なんだから。
そんな時に、扉を叩く音がする。
「姫さま〜、フランなの〜」
その声を聞いたら、何だか分からないけれど、力が抜けた。ここで初めて、私は自分の体に力が入っていた事を知る。
「御飯、持ってきたよ〜、姫さま、食べれる?」
入ってきたフランは、とても心配してくれていたんだろう。何処か不安そうにしながらも、ホッとしたと分かるような、そんなまぜこぜの表情をしていた。
「ありがとう、フラン…………ねえ、ユキは何処にいるの?」
問うと、フランはあっさりと話してくれた。
「姫さまはね、2日間ずーっと眠っていたの、あのユキってお姉さんは、別室でまだ寝てるの、だから姫さまは、先に御飯食べて? そしたら案内するから」
胸が鳴る。ユキが、ユキが近くに居る。だとしたら、あの夢は何? 何であんな夢を、わたしは見たの?
「ねえ、フラン………ユキは大丈夫だよね? 何も変わりは無いよね?」
思わず聞いてしまったのは、ぼんやりとした不安の一部。あんな夢を見た後だからかもしれない。不安が消えないのだ。ずっと、そればかり気にしている。
「主様が、言ってたの、怪我もないし、後は起きてから見るんだって」
答えは微妙に違うものの、怪我が無い事にホッとした私が居た。あの戦いは、ユキにも怪我を負う危険があったから。
「さあ、姫さま、ご飯はちゃんと食べないとダメなの」
今日の献立は、野菜のスープにお粥と、消化の良いものである。これならば、久方ぶりの食事に、体が驚く事は無いだろう。
「そうね、いただきます」
久方ぶりの食事は、とても優しくて、何処か寂しい、そんな味がした。
◇◆◇◆◇
食べ終えた私は、フランに手伝ってもらいながら、着物に着替え、身支度を整えた後、ユキの居る部屋に案内して貰った。
このお屋敷には罠があると、以前に若葉様に教わってからは、フランと行動する事が増えた。迷路のような屋敷に、私が一人で歩ける訳も無く、否応なしに決定していた。
「ここだよ、姫さま」
何度目かの曲がり角を曲がった先の部屋、そこがユキが居る部屋なのだろう。勿論、ここまでの道は覚えられなかったけれど。
「ここに………ユキが…」
胸がやけに高鳴り、私は知らずに胸を押さえていた。ここにユキが居る。夢の様に、手が届かない場所にいるわけじゃない。
フランに先導され、入った部屋は、意外にも和室の部屋で、履き物を揃える小さな場所まであった。畳が敷かれたこの部屋は、まるで時間を忘れてしまったかのように、異彩を放っていた。
この屋敷に来てから、和室には入った事が無かった所為もあると思うが、洋館に和室があるとは、誰も思うまい。
その部屋には、布団の上に横たわる見知ったユキの姿がある。肩まで布団がかけられ、寝顔は穏やかであり、思わずホッとして、息を吐く。
「姫君様、ようこそおいで下さいました」
声をかけられて、そこに初めて他にも誰かが居たのだと気付く。そちらを見れば、私より年上の若い女性が居た。着物姿の何処か品がある姿に純白の髪、整った顔立ちは優しそうなもの。そして何より。
「…………しっぽ?」
思わず呟いてしまったのは、そこにいる彼女の背から、しっぽが生えていたからである。ふさふさとした美しいそれは、9本あり、ゆらゆらと優雅に動いている。
驚いてしまった私を余所に、フランは知り合いだったらしく、その女性に勢いよく飛び付いっていった。女性も優しく受け止めている事から、二人にとっても日常茶飯事な出来事なのだろう。
「久しぶりね、フラン」
声がとても優しい慈愛に満ちたもの。フランも満面の笑顔である。
「うん、ウキも久しぶりなの〜!」
一体どういう状況なのか、さっぱり分からなくなってしまってしまった。
「姫さま〜! ウキなの〜、フランと同じく、主さまと契約してるのよ〜」
成る程、契約した仲間だったらしい。つまり、ウキさんは、ユキにつけられたお側役なんだろう。私にとってのフランのように。
「はじめまして、緑姫です」
正しい礼儀作法等、私は知らないので、頭を下げる。
「まあ、ご丁寧に――――私は、主様の配下で、ウキと申します、以後、お見知り置きの程を」
優雅な礼は、見とれる程に綺麗なもの。だが、同時に自分の未熟さを見ているようで、すっと視線をそらした。
「ユキ様は未だに、目を覚まされません……………今現在、主様がご両親を探しております」
その最後の言葉に、心臓が鷲掴みされたような、そんな衝撃を受ける。
「えっ…………? ユキには、両親がいるんですか?」
先生からはずっと、私達二人は戦孤児だと聞いていた。弟子が欲しかったから、拾って育てたのだと。まさか、そこからして違っていたのか…………………。
「はい、こちらに来た折りに、調べさせて頂きました、彼女には家族………親との間の繋がりがありましたので、それを使い調べている最中なのです」
その言葉は、私の中の何かを刺激する。そうか、ユキには親がいるんだ………………。私はもう、ユキとは姉妹ではいれないのだ。
……………そんなの、当の昔に分かっていた事じゃないか。早朝の夢で、私は視たんだから――――――。
それでも、心はポッカリと穴が開いていくようで………………。
「そうですか…………、家族が早く見つかるといいですね」
必死に、笑顔を見せたのに、フランもウキも、二人揃って、顔が曇ってしまった。
「姫さま………」
不安そうに言うフランに、そっと頭を撫でる。
――――――分かっていた事なんだから。夢渡りの夢は、未来を過去を映す鏡。故に、ユキが私の元から去るだろう事は、夢が告げていた。
「大丈夫よ、フラン」
「でも………」
それでも、何かを言おうとするフランに、私は笑顔を見せる。
「ユキの家族だもの、早く見つかるといいでしょう? 長く家族に会えなかったんだもの、早い方がいいわ」
だって、ユキは私と違うんだから。ユキには、家族が居るんだから、だから、私は―――――。
「私は…………一人で大丈夫」
笑顔で嘘をつこう。ユキの為に、絶対に迷惑をかけないために。ユキには、家族の元で幸せになって欲しいから。
「姫さま………………、あ、主さま? えっと、今から主さまが来るって…………若葉様も一緒に来るんだって〜」
「そう…………」
言葉が、出てこない。出て来てくれない。大丈夫なのに、大丈夫なはずなのに……………。
「お茶の準備をして参ります、フラン? ここをお願いね?」
ウキさんは、優しい笑顔でそう告げると、優雅に礼をして、部屋を出ていった。恐らく、気を使ってくれたんだろう。
「姫さま………、大丈夫なの、姫さまは一人じゃないのよ?」
「フラン……………、ありがとう」
気を使ってくれる二人に、私が出来る事は、多分、泣かない事だろうから。
「早く起きて、お寝坊さん………」
本当に早く、貴女の声を聞かせて―――――――ユキ……。
読了、お疲れ様でした。そして、今だに読んで下さっている皆様、本当にありがとうございますm(__)m 作者の秋月煉です。
今回は、やや早めに更新できました。次回も早めに更新できるように、頑張りますね!
さて、お話も中々に辛い物になってきました……………。あー、これから、アレとアレを出さないといけないんですよねぇ。
しばらく笑いはありませんが、どうぞ、宜しくお願いしますm(__)m
では、またお会いしましょう。




