小鳥と迷子
感想、お待ちしてますm(__)m
ではお楽しみ下さい。
森の裏口に出たユウは、駆け足のまま舗装されていない山道を掛け降りた。まだ、森からは混乱したように、木々達の囁きが聞こえている。
「ありがとう……!」
ユウを逃がすために、皆は必死で食い止めてくれているのだ。不安で一杯でも、感謝しないのは失礼だろう。
家までは走れば30分程で付く………………………多分。
何せ、裏道は本日はじめて通る場所なのだ。
本当なら、魔法を使えばいいわけなのだが、ご存知の通り、ユウは魔法がほとんど使えない。この場からすぐにでも家に帰り、先生に言わなければいけないのにも関わらず、だ。
「私に、魔法の才能があれば……」
こんな時に悔やまれる。
この世界、あの世と呼ばれる場所は死者の国だ。この世の人が死ぬと、あの世で新たな身体を貰い、あの世で新たな生を謳歌する。そして死ぬと、また、この世に産まれる。
そしてあの世の人は、魔法が使える。個人にもよるが、大なり小なり魔法が使えるようになる。ファンタジーの小説に出てくるような、そんな魔法もあるし、ユウやユキが使う“音”を必要とする“夢渡り”や“夢見師”の使う夢魔法もある。後は白蛇一族のような、特殊な体質持ちもいる。
ユウには才能はあるらしいのだが、如何せん、本人が気付いていないので、結局、落ちこぼれと本人は思っている。
まあ、嘆いた所で始まらないのも事実。
ユウは動揺して強ばった体を無理矢理うごかして、走り始める。
どれくらいたっただろうか?
知らない道程を30分程はしり、もうすぐ家に着くかも、と淡い期待を抱いた…………そんな時。
「……っ!?」
強烈な痛みを首元に感じたと認識する前に、ユウの意識は遠退いた。最後に見たのは、小さな誰かの手だった。
◇◇◇◇◇
「先生、今晩の夕食はユウの大好きな、“あんかけうどん”にしようと思うんですが、どうでしょう?」
「それはいいですね、ユウは相当へこんでいたようですから」
勿論、あの世の人も食事は取る。
台所を預かっているのは、ユキとユウなのだが、ユウはあっさりした薄味を好むため、サラダやお浸し等の野菜物がレパートリーに多い。
それに対して、ユキは煮物や魚、肉料理と幅が広いため、もっぱらユキが主となりつつある。
本来なら、先生が作るのだが、彼は彼女達が1人で作れるようになると、さっさと任せて自分は空いたこの時間で、資料のまとめや、参考書、歴史書を読むようになった。これも三人で暮らすために必要な事なのだ。
「それにしても、遅いですね………」
既に時刻は夕暮れに近い。まだ太陽も黄昏色に変わる時間ではないが、後一時間もすれば間違いなく夕暮れになるだろう。
「随時へこんでいましたから、そのせいかもしれませんね」
実際は、ユウが迷子になっている所為なのだが、二人ともそれを知らないため、純粋にユウが凹んだためだと考えている。
「迎えに行きたいですが、ユウが何処にピクニックに行ったのか、分からないですからね…………」
かなり凹んでいたため、早めに帰る事を条件に、今回に限り大目にみたのだが、それが仇となってしまった。
「無闇に探す訳にもいきませんし………………」
「先生、探索魔法ってありましたよね? 私はまだ使えませんけど、あれを使えば、もしかして……」
場所が分かるかもしれない。
「もしかしたら、すぐに帰ってくるかもしれませんよ?」
先生は黒い髪をグシャグシャと掻く。これは先生が苛立った時にする癖だ。
「まあ、いいでしょう、流石に心配になってきました、ユキ、ユウの髪の毛を用意してください」
ユキに指示を出すと、先生は立ち上がり、台所で水盆を用意した。とはいえ、たらい(木で出来たやつ)に水を注いだだけのやつなのだが、今回はこれが必要なのである。
「先生、これでいいですか?」
ユキが手にしているのは、一本の髪の毛だ。かなり長いため、すぐにユウの物だと分かる。この家に、この長さの髪を持つのは、ユウだけなのだから、当然だ。
「ええ、かまいません、こちらも準備が終わりましたから」
水盆を机の上に置き、長い髪を器用に結び、短く束にすると、それを水の中に入れた。
「始めますから、絶対に揺らさないで下さいね」
ユキに念を押して、確認を取る。これからやる探索魔法は、水の中に探したい人の髪を入れ、その姿を映すという物だ。かなり集中しなければいけないため、生半可な人は使えない術だ。
『ねがいたてまつる、ねがいたてまつる、わがねがいはさがしびと、うつるるものはばいたいの、さがしたまえ、さがしたまえ、わがねがいかなえたまえ、かなえたまえ、さがしびとをうつしだしたまえ、ねがいたてまつる』
ぼうっと、誰かの姿が映り始める。少しずつ鮮明になる水面に写し出されたのは、必死に走るユウの姿だ。
「とりあえず無事のようですが………何処を走っているんでしょう?」
「さあ、これだけでは分かりませんね」
二人で頭を悩ませたが、結局、分からなかった。ただ、ユウが辺りを、キョロキョロと見回す、という行為を何度かしていたため、どんな状況かは、何となく察する事が出来た。
「迷子みたいです」
「迷子ですか」
二人で同時に呟く。
「………そういえば、ユウは方向音痴で、小さい頃はよく迷子になってましたね」
「一回でも通れば迷子にはならないんですが…………ここは私も知らない場所ですから、ユウの方向音痴が遺憾なく発揮されたんですね…………」
「しかし、この年で迷子ですか………はー、大丈夫だと安心してたんですが……………………」
「まあ、ユウですから」
「まあ、ユウですしね」
二人の意見が一致する。これだけで、普段の二人が、ユウをどういう位置に考えているのが分かる。
「しかし、場所は私達には分からないし……………どうしましょう?」
「…………おや?」
二人は、たらいの中のユウから目は離していない。必死で走るユウは、此方に見られているとは気付いていないため、道を探そうと辺りをキョロキョロと見渡していたのだが…………、足を止めた。
疲れたらしい。だが突然、ユウが倒れる。そこには、いつの間に立って居たのか、一人の子供が立っていた。黒いマントをすっぽりと羽織っており、それ以外は全く分からない。
そして一瞬でユウに近寄ると、手刀をユウの首に振り下ろす。その動作は、あまりにも馴れた手付きだった。
「なっ…!」
「ユウっ!」
ユウが倒れる。そこまでを見た瞬間、黒衣の人物がこちらを見た気がした。
馬鹿な、あり得ない。これは僅かな繋がりで写しているに過ぎない。なのに気付くなんて、あり得ないとしかいいようがない。
しかし次の瞬間。
ザッバ―――――――ン!
たらいの水が弾けた。
「先生! ユウは、ユウは一体!?」
「…………誘拐ですか、それもこの私に喧嘩を売るとは…………ユキ!」
何故か笑っている先生。この場にいるユキは、勿論きづいている。先生がキレているという、絶対に回避したい場にいる事を。
「は、はい!」
「空歩は使えますね?」
空歩とは、文字通りの意味で、空を自由に飛ぶことを指す。この国で役人をするものは、必ず出来る術である。余談だが、ユウはこれが使えない。何故か、発動しないのである。故に、森へ行くにも、帰るにも徒歩である。
「使えます!」
ハッキリと肯定したユキに、先生は指示を出していく。
「では南の地区を探して下さい、私は北の地区を探しますから」
この国は、中央に王宮、北に貴族の居住区、東に役人の居住区、西に職人の居住区、南に平民の居住区となっている。
ここで疑うのは、北の貴族達が暮らす居住区だ。何せ、誘拐ともなれば権力者が後ろに隠れている事も少なくない。そして南の平民の居住区。裏で何か黒い事があれば、こちらも疑わなければならないだろう。平民の暮らしも決して楽とは言えないのだから。
二人はお互いに頷きあうと、外に飛び出した。勿論、ユウを捜し出すために。
間に合いましたよ!! 5月1日投稿!!
そしていつものお約束♪ どうも〜、秋月でございます。
いや〜、あまりに忙しくて、睡眠不足の中の執筆でした。間に合って本当に良かった(汗) 資格の勉強、マジで死ぬ…………受かるのか、これ?
と、とにかく……眠いんですが(徹夜したから)、さらに次回は新作を御披露目のため、夢渡りの姫はお休みします。
次の投稿は、5月15日投稿ですね。ユウちゃんの隠れた真実、分かった方がいたら、感想にてヒソッと言ってくれたら嬉しいです。
ではでは、秋月は寝ます。お休みなさい…………。
尚、感想につきましては、オブラートに包んで下さいますことを、お願いします。
では次回に。