繋ぎのお話。クウのおんぶ。
ルテは服や体についた臭いも気にせず、帰路を歩きつづけた。目はやや虚ろに曇り、せせらぎはすっかり紫とも茶ともつかない流れになっている。
__恐怖に呑まれた。その事実が彼女の胸を締め上げ、途中幾度となく思い出しては身震いし、嘔吐。アード国の西端の町、ミンダスまではそう遠くはないが狼狽しきったルテを倒れさせるには事足りた。
道に紫と茶の水は流れ、空風がそれを揺らした。
ルテが一人で行く時は毎回こうだった。恐れた自分に悔やみ続け、疲労を重ね、道に倒れる。その後は大抵、通りすがりの行商人に拾われ厄介になる。そしてお礼といって釣り合わないくらいに高いお金を渡す。それでもルテは貧しくはならず、また単独で依頼をこなすのを禁止される事も無かった。そこはルテがいかに優れた攻め人であるかを象徴している。
さて外で気を失うという事はもちろんリスクが大きいが、守り手は洞窟もしくは遺跡など、ある種の建物にのみ湧くので外で気を失った時に危険にはならない。(希に外で活動する守り手もいるし、逆に守り手以外の盗賊などは脅威となるが)
やや空が暗くなってきた頃。琥珀がかった白髪はやや長く散らばり、目は柔らかい青に満ちていて、肌はアルビノ*を窺わせる病的な白。その上に安っぽい深緑のコートを着て、腰のホルスターにまた真っ白な銃が二丁。黒い動きやすさを重視した薄手のズボンに赤いスニーカー。そんないでたちの少年は、道に倒れるルテを見てため息。それからルテをおぶってミンダスまで歩き出す。
少年の小さく見える背中でルテは目を覚ます。
「クウ……こんなところで何をしている」
やや覇気のない声。憔悴しているルテにはこの辺が精一杯。クウと呼ばれた少年は笑顔で答える。
「どうせ、また倒れてるだろうから迎えにきたんだよ」
よく澄んだ声がルテの耳に入る。だがルテはこのおぶられている構図が気に入らないのか「降ろせ」と何度もクウに抗う。でもクウはどうもしないでただルテを背中に乗せつつ進むだけで、疲れたルテは諦める。そして背中の揺りかごの中で赤ん坊みたいに眠った。
それを察知したクウの表情は少し朗らかだった。
*アルビノ
→遺伝子の異常などにより、色素が合成できない個体。
肌や体毛は白くなり、目は赤くなる。余談だが白ウサギは全てアルビノである。