5.攻め人ギルド
ルテが目を覚ましたのはお昼の事だった。そう遠くないドアからはバタバタと人が行き交う音が空気を伝った。ルテは毛布を遠慮がちに押し上げ、ベッドから出る。素足で暖かい絨毯を歩き少し開いたドアからそっと外を覗く。すると、ちょうどあのリンという女性が誰かと階段で話している声が聞こえる。
「とにかく、あの子は重度の疲労と精神的負担を負っています。それなのに、今あの村の事を聞くのはいくらなんでも酷すぎますよ」
「でもリンさん、普通外に出回ってる守り手が村を襲う事なんて無いんだよ? それくらいリンさんだって知ってるでしょ? だからこそ、何か理由があるならそれを調べないとまたあの子みたいな子が出来ちゃうかも知れないじゃない」
声は子供のものだった。ルテと変わらないくらいの。だが男の子だとルテにはわかった。そしてあの村がツユマ村を指す事も。
「ですからクウ、そんな事はあの子が完全に回復してからでも遅くはありません。今はそっとしておいてあげてください」
「でも……」
「クウ、同じ孤児を増やしたくないというあなたの気持ちも分かります。ですが今は、今だけはあの子を休ませてあげましょう」
それから足音が登り、もうひとつは降りる。ルテは半ば条件反射でドアを閉じ、ベッドに駆け込む。リンがドアを開けるのとルテがもぐり込むタイミングはややルテの方が早かった。
「あ、起きてたんですね。おはようございます」
リンは頭を下げる。2つの茶色いサイドテールもそれに合わせて垂れる。
「あの、えと……おはようございます」
ルテも座礼。それから頭を戻してリンは告げる。
「お昼ご飯ができましたので一緒にいかがですか?」
ルテはそわそわと2回頷き、固い顔でベッドから出てリンと食堂へ向かった。