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アタッカー  作者: 空白スラ
3章:孤独な青狼娘ルテ
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7,ミンダス守ります-2

「いづぅっ!」

 ルテの頬に消毒液が染み込んだ。それから腕にも、背中にもリンが容赦なく傷口に消毒液を当てていく。

 狼たちの襲来は、一旦引いていた。ミンダスをくまなく捜索したが、もう誰一人黒い狼を見てはいなかった。それを良いことに、ルテは風車地下の貯蔵庫でリンから傷の手当てを受けていた。怪我人はルテや緊急要員の活躍により数名で、犠牲者は一人も出なかった。ルークの提案で、人々はこの貯蔵庫に避難したままだ。入り口には交代制で見張りをつけ、ルテの見張りは先程終わったところだ。不安からか、寝付けない人も多く貯蔵庫の中は小さなざわめきがおさまらない。

「はい、終わりましたよ。ゆっくり休んでくださいね」

 リンはルテに微笑んだ。ルテはああと軽く返事をして、近くの壁にもたれかかった。今は確か、クウが見張りをしているはず。あの狼はいったい何という守り手なんだろう。そんな事を考えながらうとうとと首が上下していた。

 悲鳴と、咆哮があがったのはほぼ同時だった。反射的にルテは剣を抜いて音の元へと視線を向ける。そこにいたのは、あの黒い狼だった。今までのやつよりは大きさが段違いで、どうやってここへ入ってきたのかが全くわからない。全長は10mはありそうだ。真っ黒い毛に血がべっとりとまとわりついて、口もとから人の手がこぼれ落ちた。

 混乱は一瞬で広まった。逃げ惑い押し寄せる人々にルテは押され、狼との距離は開いてしまう。剣も不用意には振れず、狼は後ろから逃げ遅れたものをむさぼるばかり。ルークやその他の攻め人が大声をあげて避難を誘導しているが、効果は薄く混乱は収まりそうに無い。

 ルテは、剣をきつく握っていた。何のために、私は攻め人になったんだと。私は結局無力で、緊急事態なのに誰も助けられていないじゃないかと。

 恐れた。自分のいる意味が無くなる事に。無力な自分に。人々をむさぼる狼に。重なるツユマ村の光景に。叫び声が、自分のものか他人のものかわからなくなる程に。息が苦しくてルテは喘いだ。その間にも、ルテは入り口へと押されていった。

 リンは、黒い狼の目の前に立っていた。大きさからして、これがリーダー格という事はリンも察していた。狼の右手が閃いてリンの体が左へ飛ぶと、リンの足元を黒い爪が突き抜けた。着地したリンは狼の手元まで詰めて、振り袖から抜いた2つの小太刀で引っ掻いた。構わず狼は強引にリンへと振り向き、その牙をむく。リンは後ろに下がり大きく跳躍して開かれた眉間に小太刀を突き刺し、背中に乗った。狼は暴れまわったが、小太刀は深く突き刺さり抜けない。リンはしばらく様子を見て降り立つと、一直線に腹部へと潜り込んでお腹を切り裂こうとした。しかし、突然前足が邪魔をしてリンは爪に深々と突き刺さった。小太刀をようやく抜いた狼は激怒して、リンを入り口付近まで投げつけた。再度雄叫びが貯蔵庫にこだまする。我を失って、狼は手当たり次第に貯蔵庫の物品を荒らしている。

 恐れるルテの目の前に、リンは降ってきた。お腹からの出血酷く、意識が無い。

「リン! リン! やめろ! リンを踏むな!」

 ルテの叫びは雑音に消え、流れる血は止まる事を知らない。逃げる人の下敷きになるリン。ルテは、強い衝動に我を忘れて物凄い勢いで人を突き飛ばした。

 怒りだ。恐れは怒りの裏。恐れは怒りの根元であり怒りは恐れのあらわれだ。リンを抱えたルテは、突き飛ばした数名に殴られもっと怒りを覚えた。ルテは剣を振ってしまった。怒り、悲しみ、恐れ、不安、憎悪。全てが詰まった人の命を、ルテは自ら奪ってしまった。人じゃない……人じゃないなら……守り手か……?

 貯蔵庫が地の底から響くような轟音で覆われた。リンの側にいるのは、ルテに切られた人の亡骸と……青い狼だった。体長は黒い狼のリーダーとそこまで変わらないが、青白色のせせらぎのような毛並みに、血のように赤い瞳が見る者全てを恐怖の底へと突き落とした。

「アルーン……」

 誰かがそう呟いた。途端貯蔵庫に風が吹き荒れ、みるみるリンを包んだ。アルーンが鳴くと風はリンの体に集約して、リンの傷はたちどころに癒えてしまった。

 黒い狼はアルーンの姿を見てたじろいた。恐れは怒りの裏。黒い狼はがむしゃらにアルーンに襲いかかった。アルーンは爪で空を引っ掻くと、黒い狼の体はまるで直に切り裂かれたように分断された。勢いで内蔵や骨が奇妙に飛散して貯蔵庫を血生臭く染め上げた。それで終わらず、アルーンは狼の体をむさぼった。一口の度に口元が赤く、怒りに染まっていく。

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