2.モルバーグ攻めます。(中編)
雲ひとつ無い青空の下、ルテは無言を貫いた。クウが何を言おうが、聴こえてないかのように。「怒ってない」とふてくされながら。せせらぎは後ろを行くクウを冷たくあしらった。遂にクウも諦め、ただただ吹き抜ける風が二人を急かした。
サン遺跡までは舗装されたレンガ造りの隣町への街道が通っている為、たまに他の攻め人や行承人とすれちがう。その誰もが無意識にクウとルテを避けていた。二人の間の空気はそれほどよどんでいた。
長く思える短い道を渡りきり、二人はサン遺跡へとたどり着く。遺跡といってもどんとでかい建築物がある訳ではなく、その大半は地下に埋まっている為地上で見えるのは入り口だけだ。しかも入り口といってもそれは言うなら縦穴。地面にぽっかりと穴が空いていてそれを降って遺跡の内部へと入れるようになっている。
無言の二人は、そう高くない高度からそそくさと飛び降りて広間まで猛進する。だが、その広間の入り口でルテは喚いた。
「おい、あんなに大きいなんて聞いてないぞ」
モルバーグそれは一言で言うならハリネズミ。出血毒がたっぷり含まれた紫のトゲを背中に覆わせ、本体は黄色。くりっとした小さい目が前についている。それを支える手足も可愛らしいもので、守り手などでは無かったらどこかのマスコットキャラクターにでもなっていそうだ。普通、体長は1~2メートル程だが今回のやつはまるで違う。悠に6メートルはある巨体。仙人クラスまではいかないがこれは大人クラスの個体だ。だがしかし、大人クラス以上の個体の依頼書にはその守り手のクラスを明記する義務がある。にもかかわらず、ルテがルークから見せつけられた依頼書にはそんな事は書かれていなかった。
「おいクウ、引き上げるぞ。こんな理不尽な依頼があるか。大人クラスなら最低でも四人以上のパーティを組む義務だってあるそれに……」
クウは目線をモルバーグから背けずに緊迫した声をあげる。
「残念だけどルテ、もう気づかれてるよ。さすがにこんな個体に気づかれてるのに遺跡の外に出るのは危険すぎる。これくらいのやつなら外へ追ってくるよ」
途端、二人はモルバーグの動きを察知して散った。無数のトゲが入り口付近に向けて放たれる。
「ルテ! なるべく距離を開けずに正面から切り込むんだ! ボクは後ろから援護する!」
「分かってる!」
二人の叫び声が互いを励ます。それぞれエモノを抜き放ち、構える。クウのそれはブレないがルテの剣は細かく震える。やや高い破裂音。白い銃口からは火花。それと共に走り出すルテ。水塊は猛スピードで黄色い本体に襲いかかる。対するハリネズミはうつ伏せになり再度針を乱射する。クウは距離をとっている為かわし易いがルテは近づく程かわしにくくなる。その針の一発はルテの鎧足を掠め、金属特有の固い音がした。針を見切りきれる限界の距離でルテは止まり、回避に専念。しばらくすると針の雨は止む。この攻撃には相当体力を使うのだ。相手が疲れて立ち上がる隙を逃さず、黄色い本体を銀の刃が横凪ぎに切り裂いた。確かな怯みを確認したルテはもう一発、袈裟切りをかます。もちろん、切れてはいるし手応えがあるが相手の皮膚は厚くまだ出血させるまでには至らなかった。ルテは一旦バックステップで間合いをとり、様子見する。剣は震え続けたが確かな勝機を感じていた。




