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私と新婚生活(疑似)。

作者: つかさ

異世界も今日で10日目。


産業革命前のヨーロッパといった感じのこの世界は、元いた世界と色々勝手が違った。


もう慣れたけど!…というのは嘘。


未だに戸惑うことは多々ある。


涙、鼻水滴ながらびーびー泣くこともある。


それでも、なんとかやってこれたのは、ご厄介になっているこのお城、この世界の人達のおかげである。


そして今日も私を励ます、という大義名分の下、酒盛りが行われていた。


面子は、王様と宰相様と騎士様、そして私である。


飲みはじめて早数時間。


3人と私が座るソファーの周りには、何本もの空き瓶が転がっていた。


「王様はさぁ、結婚しないわけ?」


おもむろに質問を投げたのは、女の子大好き!!(もちろん性的な意味で)と公言してはばからない騎士様だ。


普段は固い口調の騎士様も、気心しれた友人+私の前では砕けた口調になる。


「大切な家臣であり、友人であるお前たちを差し置いて俺だけが幸せになるなど…」


妙に芝居ががった口調の王様。


この人がこういう口調のときは、何かよからぬことを考えているとき。


実際、口調とは裏腹にその表情はどこか楽しげだ。


大人3人はゆうに座れるソファーを独り占めしながら、私は事の成り行きを見守ることにした。


そんな王様の言葉に騎士様は、自分のことは棚にあげ、嬉々とした様子で宰相様に話の矛先を向けた。


「だってさ、宰相殿。誰かいい人いないわけ?」


ムッとした様子で宰相様は騎士様をにらめつけている。


「いるわけなかろう…」


「そうだよねぇ、宰相殿は女が苦手だものねぇ」


間髪入れず、何度もうなづきながら騎士様が相槌をうつ。


「苦手ではない。不要なだけだ」


すぐさま宰相様は、騎士様の言葉を否定した。


さらに眼光が鋭くなっている…気がする…正直怖い…


そんな視線もなんのその、騎士様は女の子の素晴らしさを語ってきかせ始めた。


主に身体的な素晴らしさについて。


騎士様いわく、


「女の子は、柔らかくて、でも折れそうで、こうそっと抱きしめるとすりよってきて、いい匂いがして、とても気持ちがいい…」


まるで、目の前に女の子がいるかのようなジェスチャーを交えて、熱く語る騎士様。


「気持ちがいい、というのは夜伽の話か?」


「まぁ、そういうこと。」


あっさり認めた騎士様。それに対して、宰相様は呆れたように息をついた。


「夜伽ならば、その手の専門職に頼めばよいだろう。都合のいい夜伽相手欲しさに結婚するなどアホらしい。そもそも、相手に失礼だろう」


常識人の宰相様らしいお答えだった。


「誤解しないで欲しいんだけど、結婚=夜伽相手ゲット、なんて考えているわけじゃないからな」


正直、その騎士様の言葉には説得力がなかった。そう思ったのは、宰相様も同じらしい。


「フッ…どうだか」


「鼻で笑うなよ…」


鼻で笑われても当然。自業自得だ。


それにしても、と疑問に思ったことを私は思わず宰相様に尋ねていた。


「ということは、宰相様も゛その手の専門職゛にお世話になっているの?」


もし、お世話になっているなら女性を不要な存在とは言えないのではないだろうか。


そんな、私の素朴な疑問を汲み取った王様の次の言葉に、なるほど!と私は手をたたいた。


「世話になっている専門職が、何も女とは限らないだろう?」


「この国って同性婚オッケーなんだ?」


それなら納得。女性は不要だわ。


「あぁ、同性同士の婚姻も認められている。お前の故郷では違うのか?」


「えぇ。男女間でしか認められていないわ。他国ではそうでもなかったけれど」


そうなのか、と相槌をかえしながらお酒を口にする王様。


私も同じようにお酒で口を潤しながら、そうなのよと相槌をかえした。


すると、宰相様がこちらを睨みつけながら、


「おい、そこ。私が男色だということを前提に話を進めるな」


言葉遣いの粗さから、宰相様のお怒りっぷりが伝わってきた。男色に偏見でもあるのかしら?


「宰相様って、同性婚に抵抗があるの?」


「そうではない。ただ否定しておかないと陛下のことだ、おもしろがって男との見合いをすすめかねん」


「おっと、バレた?否定しないなら、大々的にお見合いパーティーでも開こうかと考えていたのだが。ペットのお披露目も兼ねて」


ふふ残念だ、と笑う王様は全く残念だそうに見えなかった。一方、宰相様は眉間をもみながら深いため息をついていた。


「だいたい、陛下は私が男色家ではないことをご存知でしょう?」


「そういえば、そうだったな」


満面の笑みを浮かべ答える王様に、宰相様は白々しいとつぶやくのがきこえた。


「じゃぁ、なんで女性が不要なの?女性恐怖症?ってことは、もしかして、ど…」


「女性との経験が無いわけではない。そういう意味では不要は言い過ぎだったかもしれん…だが、結婚相手としての女性が不要というのは本心だ」


なんだ童貞じゃないのか…とか、ということは宰相様にとっても(エロ騎士同様)女性=体なのか…とか、いろいろ思わなくは無かったけれど、とりあえず一番気になったことだけ尋ねてみた。


「どうして、結婚相手としての女性が不要なの?」


「俺も気になるな。宰相が結婚しないと俺も結婚できないし」


私、王様に続いて騎士様も俺も気になるとつぶやいた。というか王様、最初に言った言葉は本気だったのですか?


畳み掛けるように皆から尋ねられた宰相様は、小さく息をついてからその理由を教えてくださった。


「夫人に求められるのは、主として家の切り盛りと子を産むことだろう。だが、家の切り盛りは執事やメイドたちに任せれば済むし、私の場合次男だからどうしても子をつくらなければならないわけではない。

跡取りうんぬんを除いても、自分の子どもが欲しいとは思っていない。よって、いてもいなくてもよい存在だから、不要と申したのだ」


いざとなれば子どもはどこでも作れるしねー、という人でなし発言がどこからかきこえてきたがそれは無視して、宰相様に尋ねた。


「宰相様が…というか、この世界の人って言った方がいいのかな?結婚相手に求めることって、家事と子作りだけなの?」


もし、そうだとしたらとっても違和感。


そんな私の質問に答えてくれたのは、宰相様ではなく王様だった。


「そんなことはない…が、王族や貴族の場合は政略結婚とか打算で婚姻することが多いからな。結婚=子作りのような形が多いかもしれないな」


「そっかぁ…ん?ということは子どもをつくる必要に迫られていない宰相様は、そういう打算的な結婚をしなくてもいいってこと?」


そういうことになるな、と宰相様は答えた。


「ならさ、精神的なつながりとかやすらぎとか、そういうのを求めて結婚したいな、とか思わないわけ?」


「思わん」


即答だったことに驚きながらも、私は王様の方に向き直りこう述べた。


「というわけで、王様は一生結婚できないみたいですよ。宰相様結婚する気全く無いみたいだし」


「あぁ、そうみたいだな。ま、子どもは側室をとってつくればよいから問題はないないが」


てっきり発言を撤回するなりなんなりするかと思いきや、受け流す王様。


「そして、騎士様は思う存分遊べますね!!」


「そうだねぇ」


満面の笑みで答える騎士様。対して宰相様は、とてもとっても渋い顔をされていた。


「陛下、まさか本気でおっしゃっているわけではありませんよね?」


言葉と視線に若干の怒りを含ませつつ、宰相様が王様に尋ねた。


しかし、王様は宰相様に微笑みかけるだけで、何も答えない。


当事者でもないのに無言の睨み合いに耐えられなくなった私は、


「あぁ、私が宰相様ならそのルックスを最大限利用してかわいいお嫁さん探すのになぁ。そして、裸エプロンとか、行ってきますのチュウとか…フフフ…」


場を和まそう(?)と発言したはずが、妄想に突っ走る私。何を隠そう、私も女の子大好きです。(観賞的な意味で)


「ねぇ、ペットちゃん。行ってきますのチュウはわかるけど…裸エプロンって何?」


「え?騎士様、裸エプロン知らないの??」


「知らなーい。王様たちは知ってる?」


首を横に振る二人。


「言葉からおおよそ想像はできるが、初めてきいたな。裸エプロン」


同じく、と宰相様がつぶやく。


まさか、裸エプロンが無いなんて!この世界の人達人生半分損してるよ…と思ったり思わなかったり。


ここは、しっかりと説明せねば、という妙な使命感にかられた私は、基本から応用まで裸エプロンという名の文化を異世界に伝搬したのだった。


後悔はしていない。


「裸エプロン…今度、試してみよう…」


そう、つぶやく騎士様。少なくとも一人には、裸エプロンの素晴らしさを伝えられたらしい。


他のお二方はどうだろう、と様子を伺うと、満面の笑みを浮かべる王様と視線がぶつかった。限りなく嫌な予感がする…


思わず固まっていると、王様が口を開くのが見えた。


「ペットの説明で、概要は掴めた。だが、やはり実物を見ないことには…なぁ、宰相?」


てっきり、私に裸エプロンしろ!とか言う流れだと思ったのだが、


「え?宰相様、裸エプロンしてくれるの??」


「な!馬鹿も休みやすみ言え!!陛下もいい加減にしてください!!!」


騎士様が吹き出す音をBGMに、宰相様は本気で焦っているようだった。


こんなに焦っている宰相様はじめてみたかも、と思っていると、


「ククク…悪い。そうくるとは思わなくてな…俺が期待したのは、宰相も俺の言葉に同意して、ペットが裸エプロンをする流れだったのだが…宰相の裸エプロン…ククク…」


どうやら、私の勘違いが王様のツボにはまったらしい。まさに、お腹を抱えて笑っている。


騎士様にいたっては、笑いすぎて涙を浮かべている始末。


宰相様睨まないで。怖いから。


「ふぅ…」


ようやく笑いおえた王様が息をついた。お腹が痛いのか、右手で軽く腹部をさすっている。


笑いおえる様子のない騎士様にしびれをきらしたのか、宰相様は笑い声の発信源を殴りつけると、何やら怒りはじめた。全く効果ないみたいだけど。


「それにしても、ペットの国には妙な習慣があるのだな。裸エプロン…ククク…」


宰相様の裸エプロン姿を想像してしまったのだろうか。再び笑いをにじませながら、王様がそうおっしゃった。


殴られてなお激しく笑いつづける騎士様に宰相様は気をとられているのか、再び王様に笑われたことに気づいていないようだった。


「まぁ、実行するカップルがどのぐらいいるかはわかんないけどね。そういえば、新婚さんと言えばコレって言うのがもう一つあるんだけれど、それもこの世界にはないのかな?」


「ん?そのもう一つというのはどういうものなんだ?」


笑うな、と再び殴られている騎士様を横目に、私は王様にもう一つの゛新婚さんと言えばコレ゛を説明した。


「…っていうの何だけれど、きいたことある?」


「少なくとも俺はきいたことがないな。なかなか、そそられる出迎え方だと思うが…」


にやり。まさにそんな笑みを王様は浮かべていた。再び嫌な予感…


「宰相、騎士とじゃれてないでそこの扉から出て、10数えてから入ってこい。ペット、お前が宰相を相手に今のを再現しろ」


そう言いながら、王様はちょうど私たちが座っているソファセットから直角の位置にある扉を指差した。


宰相様はいきなりの命令に眉にシワをよせ、騎士様はこれから何が行われるのかと興味津々のご様子。


「ほら、宰相、早く外に出て10数えろ」


何様俺様王様の命令にしぶしぶ立ち上がった宰相様は、゛変なことするなよ゛とでも言いたげな(それはそれは恐ろしい)目で私を一瞥すると、扉の外へ出ていった。


「ほら、ペットも用意して」


宰相様の恐ろしい視線により石化していた私は、王様の声に我にかえった。


「え?本当ににやるの?」


「やるの。ほら、折角10数えて入ってきたのに何もなかったらなかったで、宰相の奴怒ると思うけど。無駄なことさせるなって」


っていうか、やっても怒られるよね?私、怒られるよね?さっきの視線から考えて。


しかも、私がこんなに困ってるのに騎士の野郎、少しは助けるそぶりを見せろよ!!


「うー、わかった…」


そう言いつつ、私は居心地の良いソファからしぶしぶ立ち上がり、扉の方へと向かった。


彫刻やら彫金の装飾やらがあしらわれた扉を前に、私は腹をくくった。


『女は度胸!騎士は後で殴る!!宰相様が怒りだしたら王様を盾にしてやる!!!そして、こうなったからには完璧な゛新妻゛を演じてみせるわ!!!!』


拳を握りしめながら覚悟を固めていると、扉の開く気配がした。火蓋は切って落とされた…!


「お帰りなさいアナタ!」


扉から宰相様が入ってきたと同時に、私は言葉を発した。満面の笑みで。


「…」


これ以上無い唐突さで発せられた私の言葉に、宰相様は対処できないでいるようだった。


ごく当たり前の反応だが、ここは無視してガンガン行かせていただきます。


宰相様の背後に回り込み背中を押す。お、結構良い身体。


「突っ立ってないで入った!はいった!!」


「…あぁ」


宰相様が部屋に入ったのを確認してから、扉を閉めつつ、先程王様に説明した゛新婚さんと言えばコレ第2弾゛の実演を開始した。

『え?なに??何プレイ???』とかいう騎士様の声は無視して。


「何様俺様王様との仕事お疲れ様。お腹すいた?夕飯、用意できてるけどご飯にする?」


さり気無く嫌みを交じらせつつ、宰相様の正面に回り込みながら、


「お風呂も用意できてるよ!先に汗流す?それとも…」


最後に少しためつつの、上目づかいで視線を合わせて…


「ワ・タ・シ?」


よし!完璧…なはずなのに、あれ?何この静寂??やっぱり、何様俺様王様はマズッたかしら???


呼吸音すらきこえてきそうな静寂の中、宰相様と見つめ合いつつ焦っていると、視界の端に何やら赤いものが紛れ込んできた。


と同時に、宰相様が自身の鼻を手で覆った。


「騎士、見たか!宰相が鼻血!!鼻血!!!」


鼻血と連呼しながら大笑いする王様の姿を見て、ようやくさっきの赤いものが宰相様の鼻血だと知った。


おぉ、あの堅物宰相が私の色香(?)で鼻血を…これは、女として喜んでいいのかしら?


だが、喜ぶ前に私にはやることがある。


「ペットちゃん!次は俺に言ってよーねぇ、お願いー」


目をキラキラさせながら懇願してくる騎士様に、私は満面の笑みを返した。


数分後、私にグーで殴られて『どうして…』と目を潤ませる騎士様の姿にキュンと(S的な意味で)してしまったのは、また別の話。

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