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徳を積みすぎたモブ願望の元聖女。 朝の挨拶で魔王が安眠し、なぜかお隣さんになりました!  作者: 黒武者


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第6話 魔王、婚約という言葉に沈む

放課後。

聖サーヴァント学園の中庭。


授業を終えた生徒たちが帰っていく中、

セラフィナイトは花壇の前で足を止めた。


「今日も立派に咲きましたね」


小さく頭を下げる。

花々が、ふわりと揺れた。


そのとき。


「……やはり、ここか」


背後から、低い声。


セラフは振り返り、にこりと微笑む。


「魔王様」


漆黒のマント。

――ただし裏地はピンク色。


魔王ヴォルガドである。


「お迎えですか?」


「そんなところだ」


ぶっきらぼうに答えながら、

そのまま自然にセラフの隣へ並ぶ。


セラフも気にした様子はない。

そのまま歩き出した。


二人は並んで、石畳をゆっくり歩く。


数歩。


沈黙。


やがて、ヴォルガドが口を開いた。


「そういや……聞こえてたぞ」


「まぁ、何をでしょう?」


セラフは穏やかに首をかしげる。


一拍。


「婚約、だ」


セラフはぱちぱちと瞬きをした。


「まぁ」


少し考えてから、ふわりと微笑む。


「今日の楽しい出来事のことでしょうか?」


ヴォルガドの眉がぴくりと動く。


「楽しい……だと?」


「はい」


嬉しそうに頷く。


「とても面白いお方でしたわ」


ヴォルガドは数秒、沈黙した。


そして低く言う。


「……そこではない」


歩調は変わらない。

だが、声だけがわずかに重くなる。


「なぜ婚約の話になる」


セラフは少し考える。


「……流れでしょうか?」


「どんな流れだ」


間髪入れずに返す。


「そうですねぇ……」


丁寧に説明する。


「掲示板の前でお会いして」


「少しお話をして」


「それから、婚約のお話になりましたの」


「理解できん」


前を見たまま言う。


小さく息を吐く。


「初対面のはずだ」


「はい」


「なぜそうなる」


「……不思議ですわね」


本気でそう思っている声だった。


ヴォルガドは黙る。


石畳を踏む音だけが響く。


少し風が吹いた。

セラフの髪が、ふわりと揺れる。


ヴォルガドはそれを一瞬だけ見て、すぐに視線を戻した。


(なんか気まずい……)


やがて。


セラフがふわりと微笑む。


「キレイな夕日ですわ」


空を見上げる。


「皆様とお話もできましたし」


「お友達もできましたし」


「パンも美味しかったですし」


ヴォルガドがぼそりと言う。


「……婚約はどうする」


「冗談ですもの」


あっさりだった。


ヴォルガドは天を仰いだ。


「冗談で婚約を口にする王族がいるか」


「いらっしゃいましたわ」


即答だった。


沈黙。


数秒後。


「……あの王子」


「問題があるな」


セラフはにこにこしている。


「楽しい方ですわ」


「違う」


即座に否定。


「そういう意味ではない」


セラフは首をかしげる。


「まぁ」


「では、どのような意味でしょう?」


ヴォルガドは言葉に詰まる。


しばらく考え――


諦めたように息を吐いた。


「……いい」


「もういい」


「考えるだけ無駄だ」


セラフは楽しそうに笑う。


「ふふ」


「……笑うな」


「はい」


「だが笑っている」


「楽しいですもの」


少しだけ間。


ヴォルガドは前を見たまま、低く呟いた。


「……だが、あの王子」


「二度目はないと思え」


その言葉は、風に紛れて消えた。


セラフィナイトは気づかない。


ただ隣で、穏やかに微笑んでいる。


二人の歩幅は、いつの間にか自然と揃っていた。


やがて学園を出て、家へと続く道。


夕焼けは、ゆっくりと群青へ変わり始めている。


セラフィナイトは小さく微笑む。


「今日は本当に、良い一日でしたわね」


「……そうだな」


ヴォルガドは前を見たまま、短く答えた。


そのまま二人は家の前へと辿り着く。


――そのすぐ横。


ぽつんと。


不自然なほど立派な黒いテントが張られていた。


漆黒の布地。

妙に威圧感のある装飾。


どう見ても普通の野営ではない。


その前に、ヴォルガドが立つ。


セラフはにこにこしている。


そのときだった。


通りかかった一人の女性が足を止め、ゆっくり振り返る。


「え?」


視線はまっすぐ、テントへ。


そして、その前に立つ男へ。


「ちょっと……あなた」


一拍。


「こんなところで何してるの?」


さらに間。


テントを指さす。


「キャンプ?……よね?」


沈黙。


セラフは魔王の顔を見て、きょとんとする。


ヴォルガドは腕を組んだまま答える。


「いや、違う」


低く、はっきりと。


モルディナは眉をひそめる。


「じゃあ何よ?」


一瞬の間。


「……魔王城だ」


沈黙。


風が吹く。


テントが、ぺらりと揺れた。


「……は?」


「もしもーし。いや、どう見てもテントでしょ」


ヴォルガドは動じない。


「真の姿が見えんのか?」


「いや誤魔化せてないわよ」


セラフがにこりと微笑む。


「あの……こちらの方は、お隣さんですの」


「……は?」


完全に思考が止まる。


「いや、意味が分からないわ」


「うんうん、そうなるな」


ヴォルガドが小さく呟く。


モルディナは二人を見比べる。


セラフの穏やかな笑顔。

テント(魔王城)。

ピンクの裏地のマント。


沈黙。


(……なに、この状況)


(いや待って)


(この子……)


セラフを見る。


(何、この子……)


(かわいいわ……)


(ちょっと待って、近くで見ると破壊力がおかしいわね?)


一瞬で思考が逸れる。


だが、すぐに咳払い。


「……まぁいいわ」


腕を組む。


「とりあえず」


セラフを指さす。


「あなた」


「明日、少し時間あるかしら?」


セラフはこくりと頷いた。


「はい、いつでもお約束いたしますわ」


その頬が、ほんの少し緩む。


それを見て、ヴォルガドがぼそりと呟く。


「……何か企んでいる顔だな」


「気のせいよ」


即答だった。


セラフィナイトは、そんな二人を見て――


嬉しそうに微笑む。


「明日も、楽しみですわね」


夕暮れの空の下。


“魔王城”と称されるテントは、

風に揺れながらも、堂々とそこに在り続けていた。


どう見ても場違いなその存在とともに、


新しい一日が、静かに動き始めていた。

何者?

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