第13話 張り合う二人と、優雅な朝食
翌朝。
高台の家の庭。
風が心地よく流れる。
魔王城と魔女城が並び、
カトレアが立っている。
なぜ?ここへ
昨夜の衝撃とセラフのことを考えすぎた結果、
あまり寝付けなく、ついにはここへ来てしまった。
そして――
その中心に、セラフィナイトが立っていた。
「おはようございます」
ぺこりと一礼。
空気が、ふわりと整う。
その左右に――
モルディナとカトレア。
並んでいる。
沈黙。
「……」
「……」
静かに火花が散っていた。
セラフは気づいていない。
にこにこしている。
モルディナが一歩前に出る。
「セラフちゃん」
「はい」
「今日は私と過ごすわよね?」
自然な流れで言った。
カトレアが即座に口を開く。
「待ちなさい」
一歩前へ。
「今日は私が観察する日よ」
モルディナ
「観察ってなによ、そもそも何故貴女がここに?朝から暇なの?」
「必要な調査よ。私の方がこの子のこと分かってるわ」
「昨日来たばかりでしょう。それに理解しているならもう必要ないでしょ」
「密度の問題よ」
「理論の問題よ」
バチバチである。
セラフはきょとんとしている。
「まぁ……」
困ったように微笑む。
「お二人とも、とても仲がよろしいのですね」
「「よくない」」
即答だった。
ぴたりと重なる。
一瞬の沈黙。
また火花。
そのとき。
「ならば」
カトレアが言った。
「同時に行動すればいいだけの話よ」
モルディナが目を細める。
「……なるほど?」
「互いに見ればいい」
「どちらがより適しているか」
挑戦的だった。
モルディナはふっと笑う。
「いいわ」
「受けて立つ」
完全に勝負が始まった。
セラフはぱっと顔を明るくする。
「まぁ!」
「皆様ご一緒なのですね!」
嬉しそうに両手を合わせる。
「とても賑やかですわ!」
空気が、また柔らかくなる。
二人とも一瞬だけ言葉を失う。
(……可愛い)
(……調子が狂う)
そして同時に目を逸らす。
その様子を、少し離れた場所から見ている影があった。
ヴォルガド。
腕を組み、静かに佇んでいる。
しばらく三人を見ていたが――
ふっと視線を外す。
そして。
ぽつりと呟いた。
「……余が一番であることに、変わりはない」
誰も聞いていない。
風だけが流れる。
その後ろで。
「ではまず、朝のご挨拶から行きましょうか!」
セラフの一言で、
全ての流れが決まる。
セラフィナイトを先頭に、
カトレア、モルディナ、
そして禍々しい覇気を纏ったヴォルガドの四人は、
朝日が降り注ぐ街路を歩いていた。
「せっかくですから、挨拶の最後にブレンダさんのパン屋さんへ寄り道して参りましょう。
朝食は活力の源ですわ!」
香ばしい小麦の香りに誘われ、
四人は街で評判のパン屋へと雪崩れ込む。
店主のブレンダは、
セラフィナイトの後ろに控える
「明らかに普通じゃない」メンツを見て目を丸くした。
「あら、セラフちゃん! 今日のお連れさんは……一段と個性的だねぇ」
「ええ、大切なお隣さん候補ですわ!
今日のお代はわたくしがお支払いしますから、
皆様、お好きなものを遠慮なくお選びになって!」
セラフィナイトは山積みのクロワッサンやチーズパンを大量に買い込み、
満面の笑みで提案した。
「学校へ行く前に、わたくしの部屋で朝食でもいかがかしら?」
――セラフィナイトの住むアパートの前。
扉を開け、
カトレアとモルディナが優雅に中へ入る中、
最後尾のヴォルガドだけが、
玄関先で「ぐぬぬ……」と見えない壁に押し返されていた。
「……入れん。この部屋の浄化結界、
以前より殺意に近い拒絶を感じるのだが」
ヴォルガドが焦燥に駆られ、
指先に暗黒魔力を集める。
物理的にアパートごと消し飛ばしかねない魔王に、
冷ややかな声が飛んだ。
「バカね、あんた」
モルディナが呆れたように、
ヴォルガドの重厚な『魔王の革靴』を指差した。
「そんな不浄な魔力がダダ漏れの靴を履いたまま、
この聖域に入れるわけないでしょ。
結界が『有害物質』だと判断してるのよ。
……脱いでみなさいよ」
「……余に、履物を脱げと?
幾多の戦場を蹂躙してきたこの双脚を、
無防備に晒せというのか!」
「いいから脱げって言ってんのよ、この不潔魔王!」
カトレアまでが参戦し、
聖女と魔女のダブル罵倒が飛ぶ。
ヴォルガドは屈辱に震えながらも、
セラフィナイトの
「皆様、どうかなさいました?」
という首かしげスマイルに抗えず、
ついにその黒光りする靴を脱ぎ捨てた。
――その瞬間。
あれほど拒絶していた結界が、
霧が晴れるようにスッと消滅した。
「……入れた」
ヴォルガドが、
最高級シルクの靴下(黒)のまま一歩を踏み出す。
「あんた、そもそも土足で上がるつもりだったの?」
モルディナがジト目で睨みつける。
「非常識にも程があるわね。
神聖なセラフの部屋を汚すつもり?」
カトレアも冷たく言い放つ。
当のセラフィナイトは、
おろおろと手を振りながらフォローを入れた。
「まぁ! 構いませんわよ!
わたくしの部屋、少し散らかっておりますし……
ヴォルガド様なら土足でも、
絨毯が喜ぶかもしれませんわ!」
「「絶対にダメよ!! 汚らわしいわね!!」」
二人の女性の声がハモり、
ヴォルガドは無言で視線を逸らした。
初めて足を踏み入れたセラフィナイトの部屋。
そこは、彼女の「徳」が凝縮されたような、
驚くほど居心地の良い空間だった。
焼きたてのパンをテーブルに広げ、
魔王が不器用に紅茶を注ぎ、
魔女と聖女が「どちらが隣に座るか」で密かに肘をぶつけ合う。
聖域の結界は、
邪悪な魔力には厳しいが、
穏やかな朝食の気配にはどこまでも寛容だった。
こうして四人は、
賑やかで、少しだけ「靴下」な、
登校前の穏やかなひとときを
心ゆくまで楽しむのであった。
ほのぼのとした朝食もいいですね!




