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徳を積みすぎたモブ願望の元聖女。 朝の挨拶で魔王が安眠し、なぜかお隣さんになりました!  作者: 黒武者


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第11話 孤高の魔女と、個室の悶絶(反省会)

 授業終了の鐘が鳴り響くと同時に、モルディナは優雅に、かつ一分の隙もない動作で教壇を後にした。

 廊下ですれ違う生徒たちの羨望の眼差しを、涼やかな横顔で受け流す。


(落ち着きなさい、モルディナ。貴女はアストレア家の誇り、王都最強の魔女よ……)


 迷いのない足取りで向かったのは、校舎の隅にある、最も人気の少ない洗面所。


 周囲に誰もいないことを魔力探査で確認し、一番奥の個室へ滑り込む。


 カチリ。


 鍵をかけた瞬間――。

 モルディナは壁に背を預け、ずるずるとその場に座り込んだ。


「…………っっっっっっっ!!!」


 声にならない絶叫。

 彼女は両手で顔を覆い、バタバタと足を動かして悶えた。

 脳裏に焼き付いて離れないのは、先ほどのセラフィナイトの姿だ。


(なによ、あの『寂しがっている』って……! 数式を感情で読み解くなんて、そんなの、そんなの……可愛すぎるでしょおおおおお!!)


 思い出される、チョークを握って戸惑う銀髪の揺れ。

 「お叱りくださいませ」と、潤んだ瞳で見上げてきたあの破壊力。


「無理……。あんなの、耐えられるわけないじゃない……。よく耐えたわ、私! 偉いわ、私!!」


 モルディナは膝を抱え、自身のローブに顔を埋めて「むぐぐぐ……」と唸った。

 昨日、無防備に抱きついてきた時の体温。花の蜜のような甘い香り。

 それが今日は、教え子として目の前で、完璧な解答を差し出してきたのだ。


(しかも、あのドヤ顔を一切しない純粋さ! 『わたくし、何か変なことをしましたかしら?』みたいな顔して……! ああ、もう! 抱きしめたい! 授業中なのに抱きしめて、そのままお城に連れ帰りたかった!!)


 悶絶のあまり、個室の中で身をよじる。

 「さすがね」とクールに告げた時の自分の声を思い出し、モルディナは激しい自己嫌悪に陥った。


「私のバカ! なんであんなに冷たく接したのよ! もっと優しく『頑張ったわね、セラフちゃん』って頭を撫でてあげればよかったじゃない! 鬼! 私の理性なんて鬼よ!!」


 壁を拳でポカポカと叩く。もちろん、音を立てないよう、魔力で極限まで消音した「魔女のサイレント連打」だ。


「……はぁ、はぁ、はぁ……」


 数分後。

 ようやく呼吸を整えたモルディナは、鏡のない個室の中で、必死に表情を「鉄の魔女」へと戻していく。


(……いいわ。まだ授業は続く。次は、もっとセラフィナイトを……あの子のポテンシャルを引き出すという名目で、合法的にたくさんお話しさせてもらうんだから……!)


 瞳に怪しい光が宿る。

 彼女はゆっくりと立ち上がり、ローブの皺を丁寧に伸ばした。


 カチリ。


 個室から出てきたのは、先ほどよりも一層、厳格で寄せ付けない覇気を纏った「魔女モルディナ」だった。

 だが、その心の内側では――。


(次は中庭でパンを食べるあの子を、死角から魔導望遠鏡で観測するわ。……研究よ。これは、あくまで研究なんだから……!!)



 指先一つで乱れた髪を整え、冷徹な魔女の顔を作って洗面台へと向かう。


 だが、そこには先客がいた。


 優雅に手元を洗っていたカトレア・ルミナスが、鏡越しにモルディナと視線を合わせ、唇の端をわずかに上げた。


「……さすが、王都最高の魔女様ですわね。授業中のあの徹底した冷徹ぶり……。昨夜のあの『デレ』を知る者からすれば、まさにツンデレの極みと言いますか。完璧な演技でしたわ」


 カトレアの皮肉に、モルディナの眉がぴくりと動く。彼女は動じることなく、隣で淡々と手を洗い始めた。


「あら、貴女こそ。ちゃっかりセラフちゃんの隣を陣取って、私の授業を熱心に受けていたじゃない。貴女、仮にも第二聖女様なのでしょう? 随分とお暇なこと」


 今度はカトレアの肩がびくっと跳ねた。彼女は慌てて顔を上げ、鏡の中の自分を直視する。


「わ、私は……! ちょうど講師としての空き時間があったから、教育環境の視察を兼ねていただけよ! それに、あの子は重要な『観察対象』……、聖女として見届ける義務があるわ」


「ふん、もういいわよ。言い訳はそのくらいにしておきなさい。……必死すぎて、顔が赤くなっているわよ?」


 モルディナが勝ち誇ったように鼻で笑う。だが、カトレアもただでは転ばない。彼女は鋭い視線をモルディナの腰元へと向けた。


「貴女こそ、その……今の今まで、この人気のないお手洗いの個室で密かに悶えていたんじゃないかしら? ローブの裾に、座り込んだようなシワが寄っていますわよ。魔女様の理性も、あの子の前では形無し、といったところね」


 モルディナの指先が止まる。

 一瞬の沈黙。洗面所には、静かな水の音だけが響く。


「……観察眼だけは、相変わらず鋭いわね。聖女様」

「貴女の『脆さ』が、あまりに顕著なだけよ。魔女様」


 鏡越しに火花を散らす二人。

 最強の魔女と、至高の聖女。


 本来ならば手を取り合うべき二人の女性が、今、一人の銀髪少女という「特異点」を巡って、静かな、しかし熾烈な牽制を繰り広げていた。


「いいわ。せいぜい、あの子の『お隣さん』として、その椅子を死守することね。……いつまでも、貴女だけが特別だと思わないことだわ」


「言われなくても。あの子の隣に相応しいのは誰か……、しっかりとその目に焼き付けて差し上げますわ」


 カトレアは優雅に背を向け、颯爽と洗面所を後にした。

 残されたモルディナは、再び鏡を見つめ、自分の頬を軽く叩く。


「……全く。ライバルが多すぎて、一瞬も気が抜けないわね。……でも、それだけあの子のことが気になるっていう証拠かしら」


 ため息を一つ吐き、モルディナもまた、戦場へと戻る。

 その背中には、先ほど指摘されたシワを魔力で完璧に消した、隙のない魔女の姿があった。



 孤高の魔女は再び、戦場(教室)へと戻っていくのであった。


両者おもしろいです!

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