意外と庶民派でした
侯爵家と伯爵家の嫡男、それと皇子に追い回されるようになってから、少しずつ不穏な気配が漂っていた。
どうやら嫡男方、婚約者がいたらしい。本気で馬鹿なのか。
見目麗しいお三方は、学園中の女子たちの注目の的で、報われない恋心を秘めるご令嬢方も多い。
そんな中、首席の特待生とはいえ平民の、しかも孤児が構われるとどうなるか。
「……ま、そりゃそう」
個人に与えられたロッカーの前で、ため息をつく。
どんなやり方をしたのか、リラのロッカーだけが破壊され、中身がズタボロになっていた。
しかし、意外と古典的だな。貴族令嬢なら、平民一人消すくらい簡単だと思ったけど。
「…………なんだそれ」
ボソッと後ろからかけられた声に振り向くと、険しい表情の第四王子殿下がいた。久しぶりに声を聞いた。
へら、と、とりあえず笑っておく。
「こんなこともありますよ、きっと人生には」
「おまえいくつだよ……」
「いいんです、大丈夫。特に大切なものは、置いていませんでしたから」
孤児の平民がお貴族様に害されたって、きっと何の問題にもならない。
非がどちらにあるかじゃない。国にとって、どちらが有益かだと思う。
だからリラは、国にとって惜しい人間にならないといけない。
そうでなければ、孤児院のみんなを守るなんてこと、到底できやしないだろう。
まだ、何も成していないただの孤児のリラには、戦う術がない。
それでも、いつか力を持ってやると熱意が燃え続けているから、きっとリラはそうなれる。
王子殿下はただ黙って、しばらくリラからの言葉を待っていたが、やがて踵を返した。
それでいい。まだ大丈夫。やれることは、まだまだたくさんある。
その日から、リラの周囲は人が寄りつかなくなった。
ロッカーは直すたびに壊されるので、使用するのをやめた。
教科書を破られないよう、すべて持ち歩くようになった。
トイレでびしょ濡れにされても、なぜか染料が降ってきても、教室に閉じ込められても、リラは前を向いていた。
聞こえみよがしな罵倒や嘲笑も聞き流し、足をかけられて転んでも黙っていた。
「みんな、意外と子供っぽいな……」
小学生や中学生の嫌がらせレベルのことを、お貴族様がやるとは思わなかった。
意外と異世界、前世と変わりないかもしれない。
男好きな平民、孤児のくせに卑しく婚約者を奪う売女、なんていう噂が広まっている。
悔しい。とてつもなく悔しいし、どうしようもなくやるせないし、当たり散らして叫びたくなる。
でも、そうしたところで、何になる?
どんなにあからさまに断っても、向こうが高位なだけで悪者はリラ。
暴力でもないから、急所を狙うわけにはいかない。
婚約者様のところを訪ねて、弁明する? なんて?
リラはちっとも好きじゃないですなんて、婚約者に言っていい言葉だろうか。
助けを求める? 誰に? 別に、危害を加えられたわけでもないのに。
友人らしい友人はいない。いたけど、とっくに卒業した。
一瞬、漆黒の人が過ぎったけれど、意地っ張りなリラは唇を噛んだ。




