本当はめちゃくちゃ嫉妬します
二週間に一度の一時間だけ、リラは自分にご褒美をあげることにしている。
週末前のこの日、授業を終えたリラは課題を持って大図書室に向かった。
なんと三棟もの校舎からなる学園だが、それぞれの棟に図書室はある。
が、大図書室はその名の通り大きな図書室で、三階建ての別棟の二フロアを占領している。
最上階には、大貴族様限定のテラス? カフェ? があるらしい。
リラは二週間に一度、休みの前日にここへ来て、課題の後に一時間だけ、好きな本を読む。
冒険譚だったり恋愛小説だったり、旅行記だったり美術本だったり。とにかく趣味に全振りするのだ。
大図書室は広いからか、あまり人に遭遇しない。
読むためのテーブルもあちらこちらにあって、リラは特に人の来ない席を見つけ出していた。
奥の奥の、窓際に三つだけ置かれた四人用テーブル。
一番窓に近い席が、リラの特等席だ。
ペンの走る音しかしない静寂が、ひどく心を落ち着ける。
クラスメイトは優しい人ばかりだし、時々変に絡まれることはあるが、基本的には平和だ。
けれど、校舎はどこへ行ってもお貴族様でいっぱいで、食堂なんか前世の体育館より何倍も広い。
ぶつかることなど絶対ないほど廊下は広いけど、やっぱり人が常にいっぱいいて、視線がたくさんある。
同室の人もよくしてくれるけど、子爵家のお嬢様らしく淑やかで、なんだか気が抜けなかった。
そんなリラにとって、ここは唯一呼吸が楽になる場所だ。
カリカリと淀みなくペンを動かし、わからないことは辞書や専門書を開き、またペンを走らせる。
知らないことは、まだまだたくさんある。多少計算が得意でも、歴史や政治はさっぱりだし、ダンスやマナーの出来は我ながらひどい。
肩のあたりで揺れるパステルピンクの髪が邪魔で、ふ、と集中が途切れた時。
「……っ!?」
パラリと紙をめくる音に気づいて視線を投げると、もう一つのテーブルに王子様がいた。
数日前に伯爵令息から助けてくれた、絶対騎士科の王子様。
長いまつ毛を伏せて、静かに本を読んでいる。
あの後、クラスメイトから聞いた。同学年の、第四王子殿下。もちろん騎士科。
粗野な言動はあるものの、基本的に物静かで無口な人、らしい。
本当はリラも、たくさんしゃべるのが好きというわけではない。
どちらかといえば、黙って室内で本を読んでいる方が好きだ。
ただ、そうしていられない状況だったら、相応に振る舞えるだけで。
王子様は、眉にかからないくらい短い前髪で、後ろもかなり短めに揃えていて、剣を振る人の手をしている。
孤児院にいた頃、警邏隊の人とよく接したからわかる。あれは、かなりの鍛錬をこなす人の手だ。
十二歳にしては大柄で、同級生の中でも飛び抜けて身長が高い。羨ましい。
孤児院はあまり食事が充分じゃないから、リラは成長がゆっくりだ。
大きな背も手も腕も、全部羨ましい。力があるっていいな。
そこまで考えて、ふる、と頭を振った。
いやいや、ないものねだりしてても仕方ないでしょ。
リラはとにかく学んで、とにかく色んなことを身につけて、頑張って稼がなければいけない。
声をかけることもなく、また声をかけられることもなく、無言の空間は呼吸を苦しくはさせなかった。




