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逃走経路は真っ先に覚えました


入学して半年、リラは鬼気迫る勢いで勉強に没頭した。


何せ、入学自体が二ヶ月遅れている。加えて、苦手分野や未修学分野については、ほぼ手つかず。

とにかく授業に食らいつき、先生を追いかけて質問を投げまくり、休み時間と放課後は復習。


生徒会から、最終学年のご令嬢が補佐として付いてくれて、学園に馴染めるよう手助けもしてくれる。

一緒に昼ご飯を食べたり、困り事がないかと気にかけられた。

クラスのリーダー的な子ともつないでもらい、サポート体制も整えてくれた。拝んでいいですか。


最初は珍獣扱いだったが、あまりの必死さに同情されたのか、次第に話しかけてくれる人が増えてきた。

場所の案内だったり、次の授業範囲の予測だったり、各々のノートを見せてくれたり。

お貴族様って優しいんだな。ちょっと泣けそうだ。


「リラ……また、男性が呼んでるよ」


そして、リラが周囲に馴染んでくると、絡んでくる人も増えた。なぜか激増だ。めっちゃ迷惑。

今も、勉強の邪魔だと知るクラスメイトが、遠慮がちに伝言を伝えてくる。


「あの方、確か三年生の伯爵家の……」


「次男でしたっけ。少し粗野な方ですわ、一緒に行きましょうか」


気遣いは嬉しいが、まさか貴族令嬢を巻き込むわけにはいくまい。

笑顔で首を振り、やたらにこやかな男性三人に連れられて、リラは廊下の死角に立った。


「どのようなご用件でしょうか」


「おっ、噂通りかっわいいな。ちょっと生意気なのもいい」


「確かにめっちゃ可愛いな。ちょうどいい感じ」


それは褒めているのか? そのつもりなら、もう少し言葉は選ぶべきでは。

とはいえ、こういうのも初めてではない。


「なあなあ。すげえ勉強してるって聞いたけど、大変だろ? 俺と付き合わない? 楽させてやるよ」


「結構です」


「そう言わずさあ。孤児の平民だろ? 伯爵令息と付き合えば、そこまで苦労することないんだぜ」


「わたしが望んでしていることです」


「意地張るなって。美味しいものも食べれるし、宝石だって買ってやるし、小遣いもやるよ。デート行こうぜ」


こういう輩は、基本的に話を聞かない人種だと学んだ。

向こうが飽きるまで、リラは『結構です』『わたしには可分です』のリピート再生マシーンと化すしかない。


そして、キレられるまでがセット。


「俺がこんだけ言ってんだから、さっさと来いってんだよ!」


「……っ」


腕を掴まれて、息を飲む。

さすがに手を出されるのは初めてだ。足を踏ん張るが、年齢の割に小柄なリラでは太刀打ちできない。


散歩に行きたくない犬みたいにズルズル引っ張られながら、どうしようかと考える。

急所いっていいレベル? まだだめ? ご令嬢方が見てるし、まずいか。


「来いって言ってるだろ!」


再度、肩を掴み直そうとしたのを見て、咄嗟に。反射的に、腕を掴み返して、


「いって!」


びたん。


「……あ」


背後に回って足をかけて、背中から引き倒してしまった。

やった後で、ひいっと寒気が走る。

どうしよう。やっちゃった。これ、正当防衛? 過剰防衛? 消される?


ガクガクと震えていると。


「何してんだそこ」


低い、非常にガラの悪い声が聞こえて、ぴゃっと飛び上がる。


見ると、頭二つ分ほど背の高い、逞しい男の人。いかにも騎士科。絶対騎士科。

佇まいといい鋭い眼光といい、騎士科でしかないと思われる男性が、気だるそうに歩み寄ってきた。


身構えるリラを一瞥もせず、背中を打って起き上がれない伯爵令息を、首根っこを掴んで一気に立たせる。片手で。


「何やってんだって聞いてんだが」


「う、ぐっ!」


「受け身一つ取れねえで、ざまあねえな」


はんっと鼻で笑い、ぽいっと伯爵令息を放り投げたその人の怜悧な漆黒の目が、リラを見る。

……漆黒? えっ、漆黒!? 一気にパニックだ。


だって、漆黒の髪と目は、王族にしか生まれない色だ。

よくよく見れば、以前ちらりと会った生徒会長(第三王子)によく似ている。

粗野な言動からは想像できないが、この人、たぶん王子様だ。


さあっと青ざめて、リラはとりあえず深く頭を下げた。


「いい。迷惑をかけたな、行っていいぞ」


「あっ、ありがとうございました!」


許可を得たリラは、もうそちらを見る勇気はないまま、一目散に逃げ帰った。




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