初めまして、こちらが珍獣です
王都は、酔うほどの人混みと、どこからでも見える王宮が合成かと思うほど豪華だった。
異世界すぎて鳥肌が止まらないリラは、観光することなくまっすぐ学園に向かったが、そこもまた絢爛豪華で目を回した。
「うぇ……」
吐き気を堪えつつ、女性寮で受け付けをして、教わった番号の部屋へ向かう。
入学式は、二ヶ月前に終わっている。
特待生は時期をずらしての編入だ。なんと、今年の特待生はリラ一人。
つまり、否応なく注目は集めるわけで。
周囲の視線が気にならないと言えば嘘になるが、どうせどこへ行っても異世界すぎるのだから、いっそ開き直ろうと思っている。
侯爵様もおっしゃっていた通り、目的を忘れてはいけない。
食い扶持ゲット、これは絶対だ。鶏とか飼いたい。
同室だという同級生は授業中のため不在。
明日の編入初日に向けて、リラは制服を整えたり、教科書を揃えたり、復習をしたりとせっせと支度を整えた。
ちょっと心細い。なんというか、故郷を遠く離れた実感が湧いてきたというか。
今日からリラは、一人きり。見知った人が一人もいない、なんならお貴族様しかいない場所で生活するのだ。
前世でだって、もちろんリラは庶民だった。
身分制度がない国だったから、お貴族様がどんなふうに過ごしているのか、イメージでしか知らない。
孤児院はある意味、外界とは少しずれた場所だった。
神父様にもらったお守りの栞を眺めながら、弟妹たちのことを考える。
平民でも行ける学び舎は、お金はかからないけれど、通うなら相応の服と靴が要る。
弟妹たちは、リラたち年長組の服を手直しして着ているが、やはり古めかしい。
女の子は髪留めやリボンを羨ましそうに眺めるし、男の子だって本当はかっこいい靴が欲しい。
それを全部飲み込んで笑う弟妹に、ご褒美を買えるくらいには稼ぎたい。
神父様は、私服なんてきっと一枚もない。いつも同じ支給の制服ばかり。
年長組は、簡単な読み書き計算はできるから、それなりの稼ぎは得られる。
でも、全員が充分に食べられるというわけではない。
成長期のみんなが、毎食お腹いっぱい食べられるようにしたい。
自分だけの服や靴を持てたり、真新しい鞄を持って学び舎に行けたりできるようにしたい。
────うん。わたしは、ぶれない。
目的は一つ。たくさん学んでできる限りのことを身につけて、稼げる職に就こう。
それで、たまに里帰りした時に、笑顔のみんなとお腹いっぱい食べるんだ。
頑張ろうと呟いて、栞を通学用の鞄に仕舞った。
編入初日は、珍獣として過ごした。比喩ではない。
入れ替わり立ち替わり、色んな人がクラスを覗きに来る。
みなさま仕草がお綺麗だし、お行儀もいいからか、直接声をかけてくることは少ない。
それでも、ビシバシと突き刺さる視線は、リラを疲弊させた。
とはいえ、リラは神父様直伝の『貼り付け笑顔』を実践しながら、気づいていないふうに振る舞った。
お貴族様たちは、あからさまな感情表現をなさらないらしい。
なので、大きな反応は却ってマイナスになるとのこと。厳しい。
早々に孤児院の取っ組み合いの喧嘩が恋しくなりつつも、授業は大変興味深く楽しかった。
リラはたぶん、勉強が好きなのだ。学ぶのが心底楽しい。
「リラさん、生徒会室にいらしてと、伝言を預かりましたわ」
一気に憂鬱になった。甘かった……。




