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恐ろしい贈り物をいただきました


「ある程度の喧嘩はできます!」


「うん?」


「孤児院でも取っ組み合いの喧嘩は日常茶飯事ですし、週に一度は警邏隊の方に護身術を習っています! たいてい急所を狙えばなんとかなります!」


「なんて?」


「酔っ払いやナンパくらいなら、お手のものです! 物理攻撃はだめでも、逃げるくらいなら全然! ……物理攻撃、だめですよね?」


お相手は貴族様だ。きっとだめだろう。

伺うように尋ねると、頭痛がするように額を抑えながら、侯爵様は『……いや』と呟いた。


「実際に身の危険を感じる状況ならば、遠慮なくやり返しなさい。過剰でなければ公平に判断される」


「ありがとうございます!」


なんということだ。侯爵様のお墨付きということは、ほぼ安全地帯じゃないか。


「だが、リラさん」


「はい!」


お貴族様に『さん』なんか付けられると、非常に居心地が悪い。

それでも精一杯元気に返事をすると、使用人っぽい人から何かを受け取った侯爵様が、リラに差し出す。


それはもう高級そうな、繊細なブローチ。触りたくない物ナンバーワンだ。膝で拳を握る。


「これは、私のみが使用する身分証のようなものだよ」


「綺麗ですね」


「これを手渡した相手は、いかなる時でも私への直接のアプローチが可能になる。まあ、直通券みたいなものだね。これでも王宮に勤めているから、来てくれれば連絡はつく」


「王宮でのお勤め……お似合いです」


「ありがとう。あるいは、アデット侯爵家のタウンハウスでもいいよ。妻子がいるから、私に連絡がくる」


「はい」


ものっすごい美人の奥さんと、逞しい子供がいそうだ。なんとなく。

真面目に頷いて傾聴するリラに、ちょっと眉を下げた侯爵様が首を傾げた。


「受け取ってはもらえない?」


「えっ!?」


今、そんな話をしていただろうか。してた!? ほんと!?

大混乱に陥るリラに少し吹き出して、侯爵様が改めてブローチを差し出した。


「これは、孤児のきみの後ろ盾だよ」


「……」


「学園に行って、これ以上はどうしようもないと、自分だけではどうしても解決できないと思うことが起きたら、必ず使いなさい」


「どうして……」


「さあ。話してみて、最善と思ったからかな」


これでも人を見る目はあるつもりだと笑う侯爵様の手から、震えるリラの手にブローチが渡される。

小さくて華奢な飾りなのに、これまで手にした何よりも重く感じた。


「必ず常に身につけて、今だと思う時がきたら、躊躇ってはいけないよ。目的を忘れてはいけない。きみは安全に、そして確実に仕事を得るため、学園に行くんだから」


「……はい」


「無事に卒業して、どこからも求められるくらい、素晴らしい人になってね。期待しているよ」


「はい!」


何がなんだかわからないが、とにかく最悪の時のための保険ができたと思っておこう。

調子に乗らない、大事。


リラはあらゆるものを飲み込んで頷き、意気込みを新たにした。








「閣下。なぜ、あのようなことを?」


「んー、そうだねえ。同郷の応援かな?」


「はい?」


「ふふ。なんでもないよ」




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