特待生試験より緊張します
その人が孤児院を訪ねてきたのは、明日には王都に出発するというタイミングだった。
「特待生に受かった子って、きみのことかな」
見上げるほどの鍛え抜かれた長身に、リラは竦み上がった。
だって、身長が高いだけじゃない。身体がものすごく分厚くて、まるで壁のようだ。
声色はとても柔らかいし、表情だって優しい。でも、どこからどう見ても、相当なお貴族様。
淡茶色のふんわりした髪は艶々で、新緑のような目は微笑んでいるのに、すっごく観察しているのがわかる。
挨拶代わりといったふうに首を傾げる仕草一つ取っても、もはや世界が違う。さすが異世界。
ついさっきまでぎゃあぎゃあと騒がしかった孤児院が、一瞬にして静まり返ったほどだ。
「リラ」
「……ぁ」
同じ年長組の男子に肘でつつかれ、ハッと我に返る。
なんてこと! お貴族様が質問していらっしゃるのに!
慌てて居住まいを正し、きっちり九十度に腰を折った。
「すみません! はい、このたび特待生として入学します、リラです」
「リラ……リラさん、家名はあるかい?」
「孤児なのでありません!」
「うん、とりあえず頭を上げて。少し時間、いいかい?」
「もちろんです!」
威勢のいいリラに少々苦笑したその人は、ジルベル・アデット侯爵と名乗った。侯爵……だと……!?
王家の次の次くらいに偉い人ってことじゃない? え、何かしたっけ。
汗をダラダラかきながら、話がしたいと言う侯爵様に連れられ、教会の中に入る。
ちらっと神父様を伺うと、微笑みながら緊張しているのがわかった。
どうぞ座って、なんて、されたことがないくらいスマートに手のひらを差し出される。
よくわからなくて、指し示された椅子に腰かけた。
後ろに控えた使用人っぽい人が、ぴくりと肩を動かしたところを見ると、何か違っていたみたいだけれど。まったくわからん。
「リラさん。孤児ということだけれど、生まれてすぐこちらに?」
「神父様がおっしゃるには、乳離れする頃だろうと」
「名前に由来などは?」
「リラの花の押し花を持っていたそうです」
なんだろう、これ。緊張をほぐすためのジャブみたいなことだろうか。
リラはひたすら、貴族様をお待たせしないように答えねばと、頭をフル回転させた。
「特待生になったきっかけは?」
「食い扶……収入のいい仕事を得るためです」
「なるほど、仕事。働くのが目標なのだね」
「はい。神父様と孤児院への恩返しを」
視界の隅で、神父様が目頭を抑えている。ちょっと堪えてお願い!
ふむ、と優雅な手つきで顎に手を当てた侯爵様が、にこりと微笑む。
笑ってはいるけど、目の奥が冷えていて、リラは背筋を震わせた。
「あの……わたし、何か変ですか」
「ああいや、そうじゃない。きみは可愛らしい顔をしているからね。特待生という目立つ立場で学園に入るとなると、しかも優秀だとすると、よからぬ企みを持つ者もいるから」
なるほど。でも、心配ご無用だ。
神父様も同じことを心配していたので、リラたちは対策を取っている。




