この方との会話はちょっと難しいです
リラを襲った犯人たちは、すぐに拘束された。
攫った方も攫われた方も平民だが、リラが特待生だったことと、官僚見習いになったことで、通常よりも重い罪になるとのこと。
主犯格の令嬢たちは、思い込みでリラを害そうとしたこと、学園に部外者を招き入れたことが問題視され、退学処分となった。
貴族の退学処分は、事実上の社交界追放と同じらしく、彼女たちは貴族として生きていくことは難しいという。
また、誘拐事件を起こすきっかけになった令息たちに関しては、事実を公表の上で停学処分。
ただ、停学処分とは言っても、実害を加えていないだけの加害者には変わりない。生家は揃って令息たちを退学させ、廃嫡とした。
そして、元凶の一員である隣国の皇子様は、即刻自国に返品された。
隣国とはちょっぴりヒリッとしたようだが、友好関係は続くとのこと。あっぶない。
自分を監視させていたことが裏づけとなった(暗部? が動いていたらしい)ことで、なぜかリラの評価が上がった。
ただでさえ平民初の官僚見習いになって騒がしいので、ちょっと黙っててもよくないかなと思ったのは秘密だ。
「ヒロインって知ってる?」
「…………」
そして今、リラの前に座っていらっしゃる侯爵様。
この方は監理長官なる役職のお人だが、なぜかリラの後ろ盾でもあり、恩人でもある。
沈黙を返したリラに、どこか満足そうな微笑みが浮かぶ。
「とある国で流行した物語でね、平民出身の女の子が学園に入って、貴族令息や王子殿下に見初められて、婚約者たちの妨害にも負けず、真実の恋を貫くっていう話があるんだよ」
「……ソウナンデスネ」
話の着地点がわからない。
というか、リラは前世で『そんな話があると聞いたことがある』程度の知識だ。しかも、今言われて初めて気づいた。
でも、うん。考えてみれば、リラはなかなか危険な道を選んでいたのかもしれない。
「逆に、王子や令息の婚約者……悪役令嬢と呼ぶんだけど、彼女たちが主役の話もある。悪役を押しつけられないように立ち振る舞い、あざとく言い寄るヒロインを婚約者共々撃退して、スカッとする話だね」
「ヘエ……」
それは初耳だ。なるほど、それはもっと危険なやつだな。
テーブルの上に置かれた紅茶を飲むタイミングがわからず、リラはとりあえず話に集中した。
「まあともかく、きみが無事でよかった。それに、目標も達成したね」
「まだまだこれからです。まだ、スタート地点に立っただけなので」
「スタート……そうだね、これからもっと楽しくなるね」
楽しくなる。うん、そうなるといい。
にっこり笑う侯爵様が、紅茶を勧める。
香り高すぎてよさがいまいちわからない紅茶は、それでもとても美味しかった。
「きみ、第四王子殿下のことをどう思う?」
「殿下? いい人だと思いますけど……」
急な話題変換に首を傾げつつ答えると、侯爵様の眉が少し下がった。
「いい人なだけ? ……それはそれで不憫だけど」
「だけというか、いい人です。令息からも助けていただきましたし」
「そうか……面白い展開になるかと思ったけどね」
面白いとは、もしかしなくても恋愛関連の話だろうか。
先ほどの話からして、分不相応は身を滅ぼすと言いたいのかな。
リラだってわかっている。タイミングよく助けてくれるような人に、ときめかないと言ったら大嘘だ。
でも。
「今のわたしは、何者でもありません。何かを選んだり選ばなかったりできるほどの身分ではないんです」
「そう」
「はい。努力するのは得意です。いつか、もしもの時が来たら、絶対に掴み取って見せます」
手にできるほどの力は、一生持てないかもしれない。
けれど、やっぱりやる前に諦めるのは、リラらしくはないから。
「頑張ります。堅実に、一歩ずつ、わたしだけの歩き方で」
まずは卒業。そして、官僚見習いデビュー。やることは山積みだ。
一度、孤児院にも顔を出しに行こう。みんなの笑顔に会いたい。




