やる時はやるんです!
「結果は!? ……っっ、い……っ!」
意識が浮上すると同時に叫んだ直後、あまりの激痛に呼吸が止まった。
右足、というか全身が痛い。痛くないところがない。なんだこれ。
「おまえ……いい加減にしろよ」
「えっ、殿下? あれ、これ夢?」
いつも同じ空間にいても口も効かないし視線も合わないのに、漆黒の王子様が呆れたようにこちらを見ている。
痛すぎて痛くない気がしてきたリラは、本気でここが夢だと思った。
「おい、腕を動かすな」
「へ? あ、いった! なにこれ痛い!」
「肩が外れてたんだ。そりゃ痛いだろう」
なんですと。肩って外れるの? 人形みたいに? どうやって?
混乱しながらも動きを止めると、漆黒の王子様を追い出した医務官の診察が始まった。
ものすごい文字数の説教を受けながら、ここが王宮だと知る。
どうやらリラは二日ほど眠っていたようで、その間に概ねのことは王子様と侯爵様が片づけたらしい。
誘拐の主犯は、リラに言い寄っていた侯爵令息と伯爵令息の婚約者の令嬢たち。
リラが本気で恋慕していると思い込み、攫っちゃえばいいじゃん! となったらしい。なんで?
人を雇って学園から誘拐させるため、休み明けのあの日に講堂で『特待生リラの罪』なる講演会を開催。
漆黒の王子様がリラを校舎に入れないことを織り込み済みで、雇った者を学園内に招き入れた。
「変に手が込んでいますね……」
「まあな。俺がおまえを外に出して、講堂の騒ぎを収めるであろうことも計算済みだった。忌々しいことにな」
「へえ……」
そこまで頭が回るのなら、もっと有効活用すればいいのに。
とはいえ、漆黒の王子様はすぐに異変に気づき、生徒会を動かして講堂の鎮圧とリラの捜索を開始。
主犯格を突き止めたものの、リラの姿がない。即座に王宮へ報せを出し、騎士団による捜索をしていたとのこと。
あのまま大人しく馬車に乗っていても、もしかしたら見つけてもらえたのかもしれない。なんてこった。
「いや、だが馬車をすべて検問するのは難しい。無茶だが、おまえの判断は間違ってない。無茶だが」
「二回言った」
夜通し探し続け、同時進行で罪状と処分の方向性を検討し……という時に、リラが自力で生還した。
侯爵様も泊まり込み、いつリラが来ても迎えられるようにしていたという。
「そんな……わたし、何も返せるものないのに」
雲の上の方々をこんなに働かせてしまって、どうしたら。
ガクブルするリラにちょっと笑い、漆黒の王子様は肩を竦めた。
「責任はおまえにはない。すべてはあいつらが悪い」
まあそうか。うん、その通り。リラはあっさり納得した。
とはいえ、やっぱりできる範囲で恩返しはしよう。恩返し先が増えてしまった。
「あ! 殿下、結果発表! もう合否出てますか!?」
「出てるが……俺から言うのは、何か違くないか。ちょっと待ってろ」
恩返しのためには、就職先が必須!
前のめりなリラにも動じず頷いた王子様が、部屋に控えていた使用人らしき人と何やら話している。
リラは、自分の全身を眺めた。
両手首と、左の肩から腕全体に包帯。あと、たぶん左の額から目あたりと、右足首も。
馬車から飛び降りて歩き通しだった割には、だいぶマシな結果じゃなかろうか。
命に別状はないし、骨折もしていない。後遺症も残らない。
傷跡? 取っ組み合いの喧嘩をしている時点で、あちこち残っているから無問題。
────ああ。嬉しいな。
助けてくれと言う先があって、それを受け止めてくれる人がいる。
前世のリラが見つけられなかったものだ。代わりに見つけたけど、少しは気は晴れただろうか。
「なんだか楽しそうだね?」
「侯爵様! このたびは、ご迷惑をおかけしました!」
「とんでもない。私との約束を守ってくれて嬉しいよ。よく頑張ったね」
「えへへ」
部屋に入ってきた侯爵様は、いつかのように探るような目はしていない。ただ柔らかさだけがあった。
「官僚試験の合否だったね。本当なら担当者がいるんだけど、彼は今合格者の見直しをしているから、結果は私から」
「は、はい……!」
合格者の見直しって何だろう。
少し気になったが、ひとまず可能な限り背筋を伸ばして言葉を待つ。
「王立学園最終学年、特待生リラさん。きみは我が国の平民出身者として初めて、一人目の官僚見習いだ。おめでとう」
「…………」
言葉が、出ない。
狭き門と理解していて、それでも我武者羅に目指してきた。
一心不乱に、本当にただひたすらに。
「きみのひたむきさと、強い信念に裏づけられた努力を、心から尊敬するよ」
「……っ、ありがとう、ございます……っ!」
神父様。みんな。やったよ。
孤児だって、卑屈になる必要なんかない。胸を張って生きよう。
わたしたちは、きっと幸せになれる。鶏も飼おうね。




