平凡です。イタくありません。
街外れの教会には、孤児院が併設されている。神父が一人、子供たちは二十二名。
子供たちを仕切る年長組に、リラは名を連ねていた。
そしてリラは今、人生の岐路に立っている。
ふるふると震える手で、開いていた手紙を一度慎重に封筒に戻した。
深呼吸して、手汗を拭き取り、もう一度丁寧に開く。
「受かった……っ!」
王都のど真ん中、お貴族様たちのお屋敷が立ち並ぶ(らしい)都会に、貴族子女が通う学園がある。
最高峰の教養を身につけることができ、卒業後の進路も幅広く受け皿が用意された、憧れの場所。
自力で通う金銭的余裕がなくとも、難関の試験と面接を通過すれば入学できる。
卒業後は国の管理下で働くことが義務だが、つまり食いっぱぐれがないのと同義だ。
リラは次年度の入学を目指し、神父様の協力を得て、試験と面接を受けた。
その結果、合格を勝ち取ったのだ。
「やった……! ちょっとズルっぽいけど、まあこれも実力ってことで!」
リラは、『前世の記憶』なんていうおとぎ話みたいなやつを持っていた。
うんと幼い頃は、前世と現実がよく混同し、神父様を混乱させていたらしい。
根気強く付き合ってくれた神父様のお陰で、リラは『前世』と『今』とを切り分けて、その上で共存できるようになった。
神父様がおっしゃるには、悪用しない限り問題になることはないとのことだし、リラとてそんなつもりはない。
他言無用とのことだったので、知っているのはリラと神父様だけだ。
前世なんて大仰なことを言ったって、ごく普通の女性として生きた記憶があるくらいで、そこまでたいしたものじゃないし。
────あ、でも、勉強は前世の人のお陰だよね。
言語は違う気がするが、前世のリラは小学校から大学までお受験続きの人生だった。
それに、子供の時から社会人になった後も、勉強というものをするのが当然だったのだ。
だから、多少の差異はあっても、一度コツを掴めば早かった。
神父様がとても博識な方だったことも、かなり大きい。
孤児院では、定期的に神父様による勉強会が行われていたが、リラは五歳の時点で誰よりも頭がよかった。
調子に乗らなかったのは、前世の記憶のお陰。
前世では、ツンと高飛車なお嬢様や頭脳を鼻にかけたお眼鏡様、思春期の病を発症された黒眼帯様や趣味の話の時だけ饒舌な薔薇なご本の虫様、仕事はできるが嫌われ者のお局様といった濃い方々に囲まれていた。
反面教師というより、模倣できないクオリティというか。
突き抜けた存在を知っていたら、平凡なリラごときの『調子に乗る』は、ちょっと勘違い野郎になってしまう気がする。
イタいと思われるのだけは嫌だ。真っ当でいたい。
ともかく、リラは学園入学の切符を手に入れた。
入学後は特待生として、成績を落とさないことが大前提。
あと、お貴族様たちのお気に障らないよう、目立たず生きよう。
リラは勉強がしたいのだ。というか、将来の食い扶持を確保したいのだ。
何せ、今世は孤児である。神父様や孤児院に育てられた身としては、可愛い弟妹たちのために稼ぎたい。
修繕したい箇所もあるし、できるなら動物も飼いたい。食用の。
「リラー! 神父様が呼んでるー!」
「はーい! 今行く!」
血のつながらない弟妹たちにもみくちゃにされないよう、本のページに手紙を挟み込む。
本を持ったまま、パステルピンクの髪を翻して、リラは駆け出した。




