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とある令嬢と婚約者、そしてその幼馴染の修羅場を目撃した男の話  作者: 小平ニコ


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第5話

 かわいそうだよな。真剣にデイモンドのことを愛していなかったら、あそこまで思いつめることもなかっただろうに。世間知らずのお嬢様が、初めて恋をした男が『最低の人間』だったなんて、あんまりだぜ。


 でも、その最低の人間――デイモンドも、自分のやったことの、報いを受けた。


 デイモンドはエレーンに殴られなかったけどさ、別の人間が、デイモンドをぶん殴ったんだ。……殴ったのはエレーンの遠い親戚で、えっと、名前……なんて言ったかな……ああ、そうそう、ジャスティンだ。


 ジャスティンはのんびりとした性格の青年で、それまで、誰も怒った姿を見たことがなかったらしいんだけどさ、エレーンが、デイモンドとジェリーナのせいで正気を失うくらい追い込まれてたって知ったときは、髪の毛が逆立つほどに激怒したそうだ。


 彼は燃え上がる怒りに身を任せ、単身、デイモンドの屋敷に乗り込んだ。


 ふざけたことに、デイモンドの野郎は、エレーンを傷つけたことなんか気にもしないで、また別の女の子をひっかけて、お庭で優雅に、お茶してたらしいぜ。野郎、人間じゃねぇ。俺がその場にいたら、ジャスティンの代わりにぶん殴ってやったぜ。いや、蹴っ飛ばしてやるべきかな、こう、思いっきり、頭をよ。


 ……おっと、悪い悪い、話がそれたな。


 突然屋敷の中に入って来たジャスティンに、デイモンドは震えあがった。そりゃそうだよな。ジャスティンの顔には、隠す気もない怒りの意思が表れていただろうし、ジャスティンは身長185cmの、たくましい青年だ。華奢なデイモンドが、太刀打ちできる相手じゃない。


 えっ?

 貴族の屋敷なんだから、警備の者とかは、いなかったのかって?


 ふふ。

 それがさ。


 警備の男が数人いたらしいんだけど、ジャスティンを素通りさせたんだとよ。警備の男たちもさ、デイモンドの日頃の振る舞いにうんざりしてて、それに、エレーンのことも知ってるから、むしろジャスティンの味方だったんだとさ。


 さてさて、自分の屋敷の庭とはいえ、味方は一人もおらず、一緒にいた女の子も逃げちまって、デイモンドとジャスティンは、一対一で向かい合った。


 ジャスティンは、めちゃくちゃ怒ってたけど、それでも、問答無用でデイモンドに殴りかかったりはしなかった。彼は深呼吸し、まずは静かに、語りかけたらしい。


「デイモンド。エレーンはお前のことを、真剣に愛していたんだぞ。なのにどうして、エレーンの気持ちを大切にしてやらなかったんだ。何か、どうしようもない、特別な理由があったのか? もしそうなら、教えてほしい」ってな。


 デイモンドは、その質問に答えなかった。そりゃ、答えられないわな。『どうしようもない、特別な理由』なんて、ない。ただひたすらに、エレーンのことを軽く見て、舐めくさってただけなんだから。


 このままじゃ、ジャスティンにボコボコにされると思い、デイモンドはビビったんだろうな。奴は、庭にあった鉢植えをいきなり掴んで、ジャスティンの頭に叩きつけた。先制攻撃をして、ぶっ倒しちまうつもりだったに違いない。


 しかし、デイモンドの細腕じゃ、そこまでやっても、ジャスティンに大怪我をさせることはできなかった。ジャスティンは、額からうっすらと血を流し、仁王立ちのまま、「それがお前の答えか」と、ため息をつき、それから、拳を構えた。


 あとはもう、勝負になんか、ならなかったよ。


 ジャスティンは岩のような大きな拳で、デイモンドのほっそりとした顔を、二発、殴った。それで、デイモンドの上の前歯と、下の前歯が、四本、折れてしまった。まさに、怒りの鉄拳だ。あれなら、エレーンに酒瓶で殴られた方が、よっぽどマシだったろうな。


 いくら美男子のデイモンドでも、歯抜けの情けない顔じゃ、もう女の子をひっかけることはできないだろう。まっ、因果応報ってやつだな。あと、言うまでもないことかもしれないが、エレーンとデイモンドの婚約は、当然、白紙になったよ。


 そうそう、因果応報と言えば、ジェリーナも、エレーンに殴られたショックでな、すっかり人が変わっちまったんだよ。これまで、散々人を舐めた真似をしても、一度も報いを受けることはなかったから、普段はおとなしいエレーンがキレたことで、心底ビビったんだろうな。


 ジェリーナは今じゃ、部屋に閉じこもって、ほとんど外に出ることもなくなったらしいぜ。まあ、まだ若いんだ。しばらく引きこもって、自分のしたことを見つめなおし、反省して、それから、新しい人生を生きていくといいさ。


 えっ?

 暴力を振るったエレーンとジャスティンは、罪に問われなかったのかって?


 はぁ~……


 そりゃ、問われたさ。


 どんな理由があろうと、暴力は、暴力だからね。


 でもさ、あの時のエレーンは、ほとんど心神喪失状態だったし、ジャスティンに対しても、情状酌量の余地ありって感じで、そこまで重たい罪にはならなかったんだ。


 デイモンドの方から、ジャスティンの頭を凶器――鉢植えでぶん殴ったことも、考慮された。男同士の喧嘩の場合、負傷の程度も大事だけど、『凶器は使われたのか』『どっちが先に手を出したか』ってのが、かなり重要な要素になってくるんだとさ。

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