表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある令嬢と婚約者、そしてその幼馴染の修羅場を目撃した男の話  作者: 小平ニコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/6

第3話

 不可解な返答に、俺は首をひねった。そして、質問に答えてくれたデイモンドに敬意を表し、先程より少しだけ態度を良くして、問う。


「婚約者同士のデートに、何故、幼馴染のジェリーナさんがついて来るんですか?」


 その問いに答えたのは、ジェリーナだった。


「だって、デイモンドったら、一年前にエレーンと婚約して以来、私よりエレーンのことばかり優先するから、私、寂しいのよ。だから私、デイモンドとエレーンのデートにまぜてもらうことにしたの。そうすれば、寂しい思いをしなくて済むでしょ?」


 ジェリーナはそう言って、デイモンドの手に自分の手を重ね、二人は笑顔で見つめ合った。その様子は、どう見ても『ただの幼馴染』には見えず、仲睦まじい恋人同士としか思えなかった。


 まったくもって、おかしな話だよな。いくら寂しいからって、婚約者同士のデートに、幼馴染がくっついていくなんて話、聞いたことがない。訝しむ俺に、ジェリーナは抗議するように、言葉を続けたよ。


「ボーイさん、あなた、三人でデートなんて、変だと思ってるんでしょ。でもこれは、エレーンも認めてくれたことなのよ。エレーンはいつも、快く私の同行を許してくれるの。『そんなに、どうしてもついて来たいなら、仕方ありません、諦めます』ってね」


 おいおいおいおい。


『そんなに』

『どうしても』

『仕方ありません』

『諦めます』


 全然、快く許してないじゃないの。

 エレーンさん、めちゃくちゃ嫌がってるじゃないの。


 俺さ、そこで、なんとなくわかったんだ。

 エレーンが、どうして昼間から強い酒をあおるほど、荒れているのかを。


 怒ってるんだよ。

 そして、激しく失望してるんだ。

 馬鹿で常識のない婚約者と、彼の、図々しく無神経な幼馴染に。


 だから、強い酒でも飲まなきゃ、やってられなかったんだな。


 デイモンドがエレーンと婚約したのは一年前だって、ジェリーナが言っていただろ? ……と、言うことは、エレーンは一年間も、この馬鹿な二人組と、三人一緒にデートさせられてたってことになる。


 酷い話だよな。人を舐めるにも、ほどがあるだろ。


 なんだか、無性にエレーンがかわいそうに思えてきた俺は、デイモンドとジェリーナに対し、苦言を呈そうとしたんだ。どうせ店はクビになるに決まってるし、この馬鹿二人に、ちょっとくらい文句を言ったって、バチは当たらないだろうと思ってね。


 しかし、結局俺は何も言えなかった。

 俺が口を開く前に、エレーンが、ずっと閉じていた口を開いたからだ。


「……私……許してなんかいない……」


 女の声とは思えないくらい、低い声だったよ。

 そして、低い割に、よく聞こえる、重たい声でもあった。


 しかしジェリーナは、おどけたような仕草で耳に手をやり、ケラケラと笑いながら、言う。


「えぇ~? なんですかぁ~? よく聞こえないんですけどぉ~? くすくす、もうちょっと大きな声で言ってもらってもいいですかぁ~? あはっ、エレーン、いつも思ってたけど、あんたの声って、蚊の飛んでる音みたいに小さくって、気持ち悪いわよね」


 見てるこっちがイラッとくるような、ふざけた態度だったよ。


 良く聞こえないはずなどない。ジェリーナよりエレーンから離れている俺だって、ハッキリ聞き取ることができたんだからね。……恐らくあの女は、いつもこんな調子で、物静かなエレーンをからかっていたんだろうな。


 そして、あからさまにエレーンが馬鹿にされているというのに、デイモンドはジェリーナをたしなめる様子すらなかった。むしろ、微笑ましいものでも見るかのように、ニコニコと笑ってたんだ。


 本来なら自分の味方であるはずの婚約者に、いつもこんな態度を取られていたとしたら、エレーンはどれほど悲しく、そして、悔しい思いをしてきたことだろう。


 ますますエレーンを哀れに思った俺は、馬鹿二人に、罵声を浴びせようとした。


 その時だった。

 エレーンが、急に立ち上がったんだよ。


 その手には、先程デイモンドがひったくっていったはずの酒のボトルが、上下さかさまに握られていた。話している最中に、ひっそりと取り返していたらしい。


 それで、エレーンはどうしたと思う?

 まあ、だいたい予想つくよな。


 そうだよ。

 殴ったんだよ。

 酒のボトルで、思いっきりジェリーナの頭を。


 その一発で、ジェリーナは「ぐぇっ」て、悲鳴を上げて、ぶっ倒れちまった。


 ……殴る前にさ、エレーンが、叫んだんだけどさ。

 その叫び声が、めちゃくちゃ怖かった。

 俺、今でも時々、夢に見るくらいだもん。


 エレーンは、心の中身、全部吐き出すみたいに、大声で「ね」って叫んだんだ。


 えっ?

 それのどこが怖いんだって?


 ああ、そうか。

 実際に聞かないと、分かんないよな。


 エレーンはさ、「ね」って言う前に、鋭く息を吸ったんだよ。

「シッ!」って、それこそ、刃物みたいに鋭い呼吸でね。


 な?

 これでエレーンが、なんて叫んだのか、分かっただろ?


 彼女はさ、「死ね」って叫んだんだよ。


 ほら、俺たちさ。あんまりいいことじゃないけど、日常会話の中で、けっこう『死ね』って言葉、使ったりするだろ? カッとなって言っちまうこともあるし、冗談めかして使うこともある。


 でもさ、エレーンの言った「死ね」はさ、言葉としての重みが、全然違ったよ。それこそ本当に、彼女の怒りとか、悲しみとか、苦しさとか、そういうのが、全部詰まってた感じだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ