第2話
ビックリしたのは、二人だけじゃない。
もちろん、俺もさ。
前に、無茶な飲み方して、ぶっ倒れちまった客もいるからさ。俺、とにかく慌てちゃってさ。上ずった声で聞いたんだよ。「お客様、大丈夫ですか!?」って。
そしたら、黒髪のお嬢様、ふらつきながら、なんて言ったと思う?
「今度は、ボトルごと持ってきて」
そう言ったんだよ。
その声がさ。
また、ドスがきいてて怖いんだ。
俺、思わず反射的に、「はい、ただいま!」って返事しちゃってさ。
カウンターに戻ろうとしたんだよ。
そんな俺を、デイモンドがピシャリと止めた。
「いや、持ってこなくていい。代わりに水を頼む」
そう言ってさ。
俺、困っちゃったよ。
どっちかの言うことを聞いたら、どっちかの言うことは、無視しなきゃならなくなるからね。んで、ちょっと迷った結果、酒をボトルごと持って行ったんだ。
どうしてかって?
怖かったからだよ。
黒髪のお嬢様の方が。
俺、直感的に思ったんだ。
デイモンドを無視しても、せいぜい怒鳴られるか、店長に告げ口されるくらいで済むけどさ、黒髪のお嬢様の言うことに逆らったら、指の一本か二本、切り落とされるかもしれないって、あの時、マジでそう思ったんだよ。
だから、酒のボトルを持って行った。
予想通り、デイモンドは怒鳴った。
「持ってくるなと言っただろう!」
そう言って、かなり怒っていたが、大して迫力は感じなかったね。
デイモンドは、運ばれてきたボトルを、ひったくるように奪ったよ。
そして、黒髪のお嬢様を、叱りつけたんだ。
「エレーン! いい加減にしろ! せっかくのデートで、昼間から酒なんて、見苦しい! きみに悪い噂がたったら、婚約者の僕まで恥をかくんだぞ!」
俺さぁ、その言葉を聞いた時、ぽかーんってなっちゃったよ。
デート?
婚約者?
これ、いったいどういうことよって、何度も首をひねったよ。
んで今度は、それまで黙ってたジェリーナが、黒髪のお嬢様――エレーンを非難し始めたんだ。
「デイモンドの言う通りよ、エレーン。女の人が、こんな下品なお酒を飲むだけでもみっともないのに、明るいうちから……恥ずかしいと思わないの? だいたい今は、久しぶりの、デイモンドとのデート中でしょ? 信じられないわ」
いやいやいやいや。
こいつも、なに言ってんの?
今までの、本当に、エレーンとデイモンドのデートだったのか? 二人とも、雰囲気が悪いどころか、会話すらしてないじゃないのよ。ジェリーナとデイモンドは、それはもう、仲睦まじい感じだったけどさ。
『ジェリーナとデイモンドのデート』の、間違いじゃないの?
……っていうかさ。
エレーンとデイモンドが婚約者で、これが二人のデートだって言うなら、ジェリーナ、あんた、いったいなんなのよ?
そこでさ。
俺、とうとう我慢できなくなって、聞いちゃったのよ。……「エレーン様とデイモンド様が婚約しておられるのなら、ジェリーナ様、あなたはいったい、どういうお立場の方なのですか?」って。
図々しいって?
失礼すぎるって?
俺も、そう思うよ。
でも、目の前で訳の分からない状況が続いてさ、どうしても、好奇心を抑えきれなくなったんだ。案の定、ジェリーナは不愉快そうな顔になったが、それでも無視はしなかった。彼女は、俺に唾でも吐きかけるような勢いで、こう言ったんだ。
「私はデイモンドの幼馴染よ。それが何か? ボーイさん、あなたには関係ないでしょ?」
いやいやいやいやいやいや!
わけわかんねーよ!
婚約者であるエレーンとデイモンドにとって、関係ないのはあんたの方だろ!?
一度俺の頭に浮かんだ疑問符はどんどんと膨れ上がり、俺はもう、自分の行動を止められなかった。変な話だけど、仕事をクビになってもいいから、この三人組の『奇妙な三角関係』について、詳しく知りたいと思ってしまったんだ。
だから俺は、尋ねた。
「あの、大変失礼ですが、あなたたちはいつも、三人でデートをしているのですか?」
本当に失礼な質問だと、自分でも思う。
デイモンドは明らかにムッとした様子で、答えた。
「さっきからなんなんだきみは! このラウンジは、どうしてこんな無礼な男を雇っているんだ! 店長を呼んでくれ! 抗議させてもらう!」
ああ~。
やっちまった。
これで、確実にクビだな。
そう思ったよ。
で、逆に覚悟が決まった。
俺はしつこく、デイモンドに食い下がった。
「わかりました。今、店長を呼んできます。……その前に、できれば俺の質問に、答えてもらいたいんだけどね。どうせ俺はクビになるんだ。ならせめて、疑問を解消してから、店を辞めたいんでね。答えてくれたら、もう何も言わないよ。なんなら、あんたたちに土下座して謝ってもいいよ」
俺の口調が、丁寧なものから、粗野なものに変わっていた。
まあ、これが地だからね。育ちだって、良いわけじゃないし。
態度が変わった俺に少々怯んだのか、デイモンドは意外にも素直に、質問に答えてくれた。
「……いつも、と言うか、まあ、ほとんどの場合、三人でデートしているな。だって、仕方ないだろう。ジェリーナが、僕とエレーンのデートに、ついて来たがるんだから」




