第六話:狂乱のロミオとジュリエット
1.開演:ロミオという名のフェロモン爆弾
幕が上がり、スポットライトがロミオを照らした瞬間。 そこには、凛々しいだけでなく、どこか「ひと仕事終えたような気だるげな色気」を纏った美少年が立っていた。
「きゃぁぁぁっ! なにあれ! 今日のロミオ様、唇が……唇が濡れてるわ!」
「あの目! 何かに怯えているような、でも熱っぽい目……! 守ってあげたい! いや、犯したい!」
「ぐはっ……! 俺、男だけど……今、扉が開いた音がした……」
客席からどよめきが起こる。リリアの予想外の色気に当てられて、意識を失う者、錯乱する者、息を荒げる者、多種多様な反応だった。
そんな中で、最前列で、レンズを調整するマリオンは表面上は冷静だった。
(……ふむ。リリア様の唇の発色。あれは本来のメイクではありませんね。ズーム・アップ……あれは、ジュリエットと同じ色! しかも、塗り方が雑……いえ、『移された』跡ではっ)
カメラを構える手が興奮で震えそうになる。そう、内心は他の生徒と変わりなかった。
「……なんてことでしょう。開演前の数分間で、捕食完了済みですと! まさかの背徳的な『直接マーキング』……! 尊い、尊すぎて、ご馳走様です……!」
カシャシャシャシャシャ!!! 神速連写が捗るのであった。
◇◇◇
場面は変わり、舞台袖の上手と下手から仮面をつけたロミオとジュリエットがそれぞれ登場する。 歓声が予想以上に大きく、しかもその熱気が「リリアの色気」に向けられていることに気づき、エリアスは眉をひそめる。
(……チッ。計算違いだ。 泣きそうな顔で舞台に立てば、演技に支障が出るかと思ったが……まさか、こんな『退廃的な美しさ』になるとは)
(おい、そこの男子生徒。僕のリリアをそんな目で見るな。眼球を凍らせるぞ)
不機嫌を隠さないが仮面がそれを隠していた。
そんなエリアスにリリアが近づき、手を差し出す。
「美しいお嬢さん、どうか僕とダンスを踊って頂けませんか?」
柔らかい声、優雅な所作、そして、開演前の睦み合いの残り香がほのかに淫靡さを醸し出している。
(僕としたことが、予想以上だな)
「ええ、もちろん。素敵な御方」
ロミオの手を取り、舞台の中央で二人で踊り始める。いつもの舞踏会とは違って男女入れ替わってのダンスは初めてだった。
本来はロミオがリードするはずが、気づけばジュリエットが完璧なリードでロミオを振り回す形となった。
「リリア、もっと腰に手を回して。……そう、密着して」
「ちょ、近い! 観客が見てるわよ!」
少し顔を近づけて、腰を引き寄せただけで真っ赤になるリリアにエリアスはくすりと笑みを漏らす。さっきまでの不機嫌はリリアの初心な反応に何処かに飛んでしまったようだった。
◇◇◇
2.飛ばされた結婚式と、外れない指輪
舞踏会の後、バルコニーでの愛の語らいを経て、二人はロレンス神父の元で「秘密の結婚式」を挙げるシーンへと移った。
そこは、観客もしっとりと見守る静かなシーン……のはずだった。
(……ちょっと待って。なんで『小道具の指輪』が、本物のプラチナなの?)
(しかも、内側にエリアスの家紋が刻印されてるわよね!?)
舞台上で、神父役の生徒の前で指輪交換をした時だ。 エリアスがリリアの左薬指に嵌めたのは、どう見ても「本物の婚約指輪」だった。 しかも、サイズが怖いほどピッタリで、一度嵌めたらどうやっても抜けない。
「……永遠の愛を、君に」
厳かなセリフと共に、エリアスが指輪に口づけを落とす。 その瞳は「演技」ではなく、完全に「本気」だった。
(これ、絶対『魔法』で固定したわよね!? 演劇が終わったら外しなさいよーッ!)
心の中で叫ぶが、劇は止まらない。 私は「重たい指輪(物理的にも精神的にも)」を嵌めたまま、物語のクライマックス――霊廟のシーンへと向かうことになったのだ。
◇◇◇
3.加速する悲劇
舞台はクライマックス、霊廟のシーンへ。
劇は進み、すれ違いの悲劇により、仮死状態のジュリエットが安置されている霊廟へ、ロミオがたどり着く。
「ああ、我が妻よ……死してなお、その美しさは色褪せない……」
台詞を言いながら、エリアスの顔を覗き込んで、リリアは自分の顔が赤らむのを感じた。
(……って、寝顔まで完璧すぎない!? まつ毛長っ! それに……さっきのキスのせいで、意識しちゃって直視できないわよ……!)
リリアは震える手で、小道具の「毒薬(中身はただの水)」を取り出す。
「君がいない世界など、生きる意味はない。……さあ、私もすぐに逝こう」
観客が固唾を呑んで見守る中、ロミオが瓶に口をつけようとした――その時!
4.悲劇は回避され、新たな伝説(神話)へ
毒薬の小瓶に口をつけようとしたその時。 死んでいたはずのジュリエットの白い手が、ガシッ! とロミオの手首を掴んだ。
「――待ちくたびれたわ、ロミオ♡」
「えっ……!?」
驚愕に目を見開くリリア。 起き上がったエリアスは、獲物を見つけた肉食獣の如く微笑むと、リリアの襟首を掴んで引き寄せた。
「迎えに来てくれたのね。……愛しているわ」
「ちょ、まっ……んぐぅっ!?」
舞台上で、二人の唇が重なる。 フリではない。角度詐欺でもない。 観客全員が目撃した。ジュリエットがロミオの口をこじ開け、深く、貪るように侵略する様を。
「キャアアアアア!!」
客席は悲鳴と歓声の嵐に包まれ、舞台裏も騒然とした。
長い、長すぎる口づけが終わる。 酸素と気力を吸い尽くされたリリアは、腰が抜けてふにゃりと崩れ落ちる。 それをエリアスが片手で抱きとめ、客席に向かって高らかに宣言する。
「見なさい! 運命さえも私たちの愛を引き裂けなかった! さあ、永遠を誓いましょう、私の愛しいロミオ……」
照明が二人を照らし出し、感動的(?)なフィナーレへ。
◇◇◇
5. アリスの動向
その頃、客席の通路にて。 保健室からふらふらと戻ってきたアリスが、その光景を目撃していた。
「あ……あ……」
(私の……私のリリア様の唇が……舌が……!)
彼女は幽鬼のように手を伸ばし、ガクガクと震える。
「離れ……ろ……。この……泥棒猫……っ!」
「浄化……! しなきゃ……悪魔を……滅ぼ……」
しかし、身体は限界だった。 アリスは白目を剥き、「リリア様ぁぁぁ……」という断末魔とともに、通路の真ん中で三度目の気絶(撃沈)。
通路に人の気配を感じた生徒が倒れたアリスをみて慄く。
「ひっ、何か怨念めいたものが倒れてる!?」
◇◇◇
6.祭りのあと、そして次の戦場へ
鳴り止まない拍手の中、幕が下りる。 照明が落ちた薄暗い舞台袖で、エリアスはぐったりしているリリアを愛おしげに抱きしめたまま囁く。
「……お疲れ様、リリア。最高のジュリエットとロミオだったよ」
「……バカ。……やりすぎよ、あんなの……」
(顔が熱い。唇がジンジンする。心臓の音がうるさすぎて、エリアスに聞こえてしまいそう……)
恨めしげに上目遣いでみてくるリリアにエリアスは満足げな笑みを浮かべる。
「ふふ。悲劇なんて僕たちには似合わないからね。 ――さて。これで君が『誰のものか』は、全校生徒に伝わったかな?」
2. マリオンの商魂
そこへ、ホクホク顔のマリオンが姿を見せた。
「素晴らしいフィナーレでした! ラストの『魂の接吻』、バッチリ撮れましたよ。 これは『世紀のカップル・愛の奇跡セット』として、号外で売り出します」
「売らないでぇぇぇ!!」
リリアは真っ青な顔で息も絶え絶えに叫ぶのだった……。
◇◇◇
3. アリスの復活と決意
場面は変わり、保健室のベッド。 意識を取り戻したアリスは、窓の外から聞こえる歓声と、マリオンが配り始めた「号外写真」を見て、血の涙を流す。
「……また……また私は、リリア様の大事なシーンを見逃してしまったのですか……!」
「しかも、こんな……こんな濃厚なキスを衆人環視の中で……っ!」
アリスは写真を握りつぶし、燃え上がる闘志を目に宿す。
「許しません、エリアス……! 次のイベントは『修学旅行』……宿泊行事です! 夜の闇に紛れて、リリア様に不埒な真似はさせません! この聖女アリス、リリア様の部屋の前で一晩中仁王立ちしてでもお守りします!!」
ここまで読んで頂いてありがとうございます!
学園祭が終わり、次は修学旅行が待っていますので、楽しみにお待ち下さい。
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