第三話:翻訳されたランチタイム
「リリア様、中庭でお弁当にしましょう! 私、腕によりをかけて作りましたの!」
「えっ、ありがとうアリス。でも、悪いわ……」
「いいえ! リリア様のお口に入るなら、食材たちも本望です!」
強引に誘われ、中庭のベンチへ。 アリスが広げたバスケットには、キラキラと輝くようなサンドイッチやフルーツが並んでいた。
(すごい……! これがヒロインの手料理スキル……!)
「さあリリア様、まずはこの『愛の厚焼き卵』を……あーん!」
アリスがフォークを差し出した、その時。
スッ……。
音もなく、風もなく。 リリアとアリスの間に、当然のような顔をしてエリアスが割り込んだ。
「やあリリア。奇遇だね。僕もお腹が空いていたんだ」
「えっ、エリアス!?」
「っ!? 貴様、何故ここに……!」
アリスが般若のような形相で叫ぶ。 ――が。
「……?」
リリアは首を傾げた。 アリスが口を大きく開けて何かを叫んでいるようだが、声が全く聞こえないのだ。 まるで、アリスの周囲だけ空気が遮断されているかのように。
(あれ? アリス、声が出てないわよ? 口パク?)
不思議そうにするリリアに、エリアスが涼しい顔で微笑みかける。
「ああ、リリア。彼女は今、『今日は喉の調子が悪いので、筆談かジェスチャーで失礼します』と言っているみたいだよ」
「えっ、そうなの!? 大変!」
リリアが驚いてアリスを見ると、アリスは顔を真っ赤にして、フォークを振り回して暴れている。
「ふむ……。『せっかく作ったので、エリアス様にも食べていただきたいです。毒なんて入っていません』だって。殊勝な心がけだね」
「まあ! アリスったら、エリアスの分まで考えてくれていたのね!」
リリアは感動して手を打った。
実際のアリスは『ふざけんな! それはリリア様の聖なる唇のための卵焼きよ! どけ! 殺すわよ!』と叫んでいるのだが、リリアには一切聞こえていない。
エリアスが展開した『特定周波数遮断結界』が、アリスの声を完全にシャットアウトしているからだ。
「じゃあ、遠慮なく」
エリアスはアリスの手からフォークを奪い取ると、パクッと卵焼きを口に入れた。
「んむ……味は悪くないね。平民にしては上出来だ」
「きええええええええっ!!!」
アリスが無音の絶叫を上げて、地面に崩れ落ちる。 その姿を見たリリアは、胸を痛めた。
「見て、エリアス。アリスったら、自分の料理を食べてもらえたのが嬉しくて泣き崩れているわ……なんて純粋な子なのかしら」
「そうだね。本当に、面白い子だ」
エリアスは冷酷な瞳でアリスを見下ろしながら、リリアの口元についたパン屑を、自分の指で優しく拭い取った。
「ふざけんな! 返せ! それは私が徹夜で作った最高傑作よぉぉぉ!!」
アリスは地団駄を踏みながら絶叫する。 しかし、エリアスは完璧に自分の都合がいいように翻訳してしまう。
「……ふむ。『私の未熟な料理を、公爵家の次期当主様に食べていただけるなんて光栄です。涙が出るほど嬉しい』だそうだ。良かったね、アリス」
「まあ、アリスったら。そんなに謙遜しなくていいのに!」
「リリア様! 騙されないで! その男は悪魔です! 今すぐ逃げてぇぇぇ!!」
「……なるほど。『リリア様、見てください。あちらの雲、猫の形をしていて可愛いですね。癒やされます』と言っているよ」
「えっ、どこどこ? アリスってば、メルヘンチックなのね!」
アリスの必死な形相にリリアは気がついた。
「あら、感動して震えてるのかしら?」
「ううう……私が……私がリリア様に『あーん』したかったのにぃぃぃ……!!」
アリスは涙目でうなだれる。
「……『私のような平民の手では恐れ多いので、ぜひエリアス様の手からリリア様に食べさせてあげてください。それが一番映えます』……だってさ。気が利くね」
「アリスは本当にエリアス推しなのね! 分かったわ、エリアス、あーんして?」
アリスは白目を剥いて卒倒した。
「アリスったら、今日は喉の調子が悪かったのに、無理して私を楽しませようとしてくれたのね……。なんて健気なヒロインなの!」
「そうだね。本当に……都合のいい聖女様だ」
エリアスはサンドイッチを食べながら、肩をすくめた。
「さて。リリア、僕のお弁当も食べるかい? 君のために、公爵家のシェフを総動員して作ったんだ」
「えっ、食べる!」
こうして、中庭のランチタイムは、 「無音で発狂するヒロイン」と「ニコニコと食事を楽しむ悪役令嬢&ヤンデレ」という、シュールな地獄絵図となったのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
おかげさまで本作、【日間ランキング224位】にランクインすることができました!
皆様の応援が、執筆の最大の動力源です。
もし「続きが気になる!」「エリアスの執着がもっと見たい!」と思っていただけましたら、下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると、順位がさらに上がって作者が泣いて喜びます……!
合わせてブックマークもいただけると、更新を見逃さずにお楽しみいただけます。
明日は第4話。いよいよ「あの舞台」への準備が始まります……!
あわせて、明日2/13(金)21:00より、新作『「聖女」として召喚されましたが、私は世界の「鍵」らしいです。~完全無欠の美形たちが、それぞれの事情で私を逃がそうとしません~』の連載を開始します。
【URLはこちら↓】
https://ncode.syosetu.com/n4323lm/
今作とは一変、世界の存亡をかけたシリアスなハイファンタジーです。
なんと結末が4つに分かれるマルチエンディング仕様!
明日の夜、また新しい「執着」の世界でお会いしましょう!




