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「君を愛してる」と脅されても、もうすぐエンディングなので全力で応援します! ~悪役令嬢ですが、ヒロインと婚約者様が結ばれるのを待ってるんですが?~  作者: ましろゆきな
第一部:神殺し編 第一章:導入と勘違いの幕開け

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第二話:聖なる光は、くじ引きのために

 王立魔法学園。アルメリア国の王侯貴族の子弟、聖女候補たちが国を統べるものとしての心得や魔法について学ぶ、王国一のエリート学園である。 基礎教育を終えた16歳から18歳の子息たちが、今日も輝かしい未来のために学業に励んでいる――はずだった。


「……はぁ。生きて朝を迎えられたわ」


 公爵令嬢リリアーナ・フォン・ローゼンハイムは、目の下にうっすらとクマを作って登校していた。 昨日、婚約者であるエリアスと過ごした『濃厚な一夜(※監禁未遂とキスマーク)』のせいで、心身ともに疲労困憊なのだ。 だが、悪役令嬢たるもの、弱みを見せるわけにはいかない。リリアは背筋を伸ばし、気合を入れて校門をくぐる。


「リリア様ーっ! おはようございます!」


 朝陽の光を受けてミルクティーベージュのふわふわの髪が揺れ、大きな宝石のようにきらめくエメラルドの瞳。可愛らしい笑顔はまさしく小動物のように愛らしく守りたくなるアリス・ミルトンがその姿を見つけて駆け寄る。


「今日もお美しいですわ!」


 にこにこにこ。見るもの全てを幸せにする神々しい笑顔がリリアのこころ(ハート)に突き刺さる。


(うっ! さすが主人公(ヒロイン)ですわ。笑顔向けられるだけで相手を魅了して虜にしてしまうわ!)


 しかし、リリアは「悪役令嬢」だ。ヒロインに魅了されている場合ではない。


「あら、おはようございます。――ふ、ふん。今日も聖女候補は脳天気なようね!」


 律儀に朝の挨拶をしてから、精一杯の皮肉を口にする。

 が、アリスにはまったく通じていないようだった。


「はい! 朝からリリア様にお会いできて、とっても嬉しいんです!」


 勢いに押されているとアリスはリリアの手にするりと自分の手を絡める。


「教室までご一緒いたしましょう!」


そこまで言うと、それまでの太陽のような笑顔はどこへやら。アリスはリリアの首元――スカーフで隠しきれなかった赤い痕――に視線を止めたまま、凍りついた。


「……リ、リリア様? その首の痕は……っ!?」


アリスのエメラルドの瞳から、スッ……とハイライトが消える。


「まさか、あの男に……汚らわしい! なんて汚らわしい! 今すぐ私が『聖女の癒やし(浄化)』で消し去って差し上げます! さあ、私の胸に飛び込んで! 痕跡すら残しません!!」


よくわからないが、両手を広げて迫りくるアリスの狂気的な視線を隠すように、リリアは慌ててブラウスの襟を立てた。


(ひえっ! バレた!? 『昨日のお仕置き(監禁未遂)』の痕を見られたら、悪役令嬢としての沽券に関わるわ!)


「お、おやめなさい! これは……そう、ただの虫刺されよ! あなたのような平民に治療されるほどのものじゃなくてよ!」


 アリス渾身のハグを両手で押し返しながら、リリアは足早に校舎に向かった。


(突き飛ばされた……ご褒美だわ! でも、あの痕は許せない。後で呪い返ししなきゃ)


 あとに残されたアリスも慌てて、リリアの後を追うのだった。


 ◇◇◇


「今日は『魔力循環レゾナンス』の授業を行います」


 魔法学の教授が授業を始める。『魔力循環レゾナンス』とは、二人一組となり、お互いの手を合わせ、魔力を循環させて一つの魔法を発動させることだ。


「互いの波長を合わせ、魔力を流し合う……つまり、信頼関係がないと成立しません。パートナー選びは重要です」


 教授の言葉にエリアスは一人ほくそ笑む。


(信頼関係? 必要ないね。僕が一方的に流し込んで、リリアを僕の色に染め上げればいいだけだ。……ふふ、リリアの魔力回路を僕が支配する……最高だ)


 ……とんでもなく物騒な考えだった。


「二人一組で行いますので、皆さん、こちらのくじを引いてパートナーを決めましょう」


 箱の中から、同じ番号の紙を引いた相手とパートナーになる形式だった。


 リリアは内心、冷や汗をかいていた。


(ど、どうしよう。もしエリアスとペアになったら……『僕の魔力で満たしてあげる』とか言われて、公開処刑イチャイチャされる未来しか見えないわ!)


 周囲の女子生徒たちは「キャーッ! エリアス様と組みたいわ!」と色めき立っているが、リリアにとっては死活問題だ。


 祈るような気持ちで、リリアは箱から一枚の紙を引いた。  書かれていた数字は『7番』。


「……よし、7番ね」


 リリアが小さく呟く。それを、エリアスは聞き逃さなかった。


(7番か。可愛い数字だね。僕たちのラッキーナンバーにしよう)


 エリアスは優雅な所作で箱に近づく。  その瞬間、彼のアメジストの瞳が怪しく光った。  ――無詠唱の風魔法。  誰にも気づかれないほど微細な魔力操作で、箱の中の紙を動かし、手前の『7番』を自分の指先へと誘導する。


(完璧だ。これでリリアは僕のもの――)


 勝利を確信したエリアスが、その紙に触れようとした、その時だった。


「――させません」


 鈴を転がすような、しかし地底から響くような声が聞こえたかと思うと。


 カッッッ!!!!


 突如として、教室全体が目も眩むような黄金の光に包まれた。


「きゃあああっ!?」

「な、なんだこの光は!? 窓の外から!?」

「目が、目があぁぁぁ!」


 生徒たちがパニックになる中、リリアも手で顔を覆う。


(なにごと!? 敵襲!? それとも誰かの実験失敗!?)


 やがて光が収まると、そこには――。  箱の中に手を突っ込み、一枚の紙を高々と掲げるアリス・ミルトンの姿があった。  彼女の全身からは、神々しいほどの聖なる粒子キラキラが舞っている。


「……神の導き(物理)がありましたわ」


 アリスはおっとりと微笑むと、手にした紙を開いて見せた。  そこには、燦然と輝く『7番』の文字。


「ああっ、なんという偶然でしょう! 私も7番ですわ! リリア様!」


(ぐ、偶然……?)


 リリアは引きつった笑みを浮かべた。  どう見ても今、聖女の固有スキル『運命改変』クラスの力が発動した気がするのだが。


(……ハッ! まさか!)  リリアはポンと手を打った。


(アリスは、私がエリアスと組んで『悪役令嬢として孤立する(あるいは公開処刑される)』のを防ぐために、あえて貴重な聖女の力を使ってくれたのね!?)


 なんて優しいヒロインなのだろう。  くじ引き一つに全力投球するその姿に、リリアは感動すら覚えた。


「あ、ありがとうアリス。……すごい光だったわね?」


「はい! リリア様とペアになるためなら、太陽だって爆発させてみせます!」


「えっ、規模が怖い」


 無事に(?)ペアが成立し、キャッキャと手を握り合う二人。  その背後で。


 エリアスの手の中にあったはずの『7番』の紙は、聖なる光によって『浄化(消滅)』し、ただの灰になっていた。  代わりに残ったのは、アリスが押し付けたであろう『ハズレ』と書かれた紙切れ一枚。


「…………」


 パキ、パキパキ。  エリアスの足元の床板が、急速に凍りついていく。  アメジストの瞳からハイライトが消え失せ、彼は虚無の表情でアリスの背中を見つめた。


(……あの聖女、殺す)


 教室の気温が一気に五度下がったことに、リリアだけが気づいていなかった。


 ◇◇◇


「では、ペアの方と手を取り合って。目を閉じて、魔力を循環させてください」


 教授の合図とともに、リリアはおずおずとアリスの両手を握った。  アリスの手は小さくて柔らかい。……のだが、その握力は万力のように強かった。


「……あ、あの、アリス? 少し力が強くないかしら?」

「いいえ! 逃がさないように……いえ、魔力が漏れないように全力で密着しているだけです! さあリリア様、私の全てを受け入れてください……!」

「う、うん?」


 アリスのエメラルドの瞳が、とろんと潤んでいる。  リリアは一瞬「熱でもあるのかしら?」と心配したが、次の瞬間、そんな余裕は消し飛んだ。


 ドゥンッ!!


 繋いだ手のひらから、ダムが決壊したような奔流――アリスの聖なる魔力が、リリアの体内になだれ込んできたのだ。


「ひゃうっ!?」

「ああ……っ! リリア様の中……暖かい……っ! 私の魔力が、リリア様の魔力回路を巡っている……ふふ、ふふふふ!」


(お、多い! 魔力量が桁違いよ! さすがヒロイン、加減を知らないのね!?)


 リリアの全身が、カッ! と内側から発光し始める。  まるで人間イルミネーションだ。  あまりの熱量にリリアが悲鳴を上げそうになった、その時。


 ゾクゥッ……!!


 今度は背筋に、氷柱を突き刺されたような悪寒が走った。


(な、なに!? 今度は寒気が!?)


 リリアがおそるおそる視線だけ動かすと、少し離れた場所で誰かとペアを組んでいるエリアスが、こちらを凝視していた。  ニコリ、と彼は微笑んでいる。  だが、その背後には吹雪が見えた。幻覚ではない。実際に彼の周囲の床だけが凍りつき、ペアを組まされた男子生徒がガタガタと震えながら「た、助け……」と青い顔をしている。


(ひえええっ! エリアス、やっぱりアリスと組みたかったのね!? 嫉妬のオーラで教室の気温変えてるじゃない!)


 前から注がれる「灼熱の聖女パワー」。  後ろから突き刺さる「極寒の嫉妬ビーム」。


 リリアの体は、ホットコーヒーとアイスコーヒーを交互にぶっかけられているような状態だった。


「は、はう……っ」

「リリア様? お顔が赤いですよ? まだ足りませんか? もっと奥まで注ぎましょうか?」

「ち、ちが……これ以上は……あふれ……っ」


 リリアが白目を剥きかけたその時。


「――そこまで!」  教授の声が響き渡った。


「す、素晴らしい輝きでしたね、アリスさん、リリアさん! ペアの相性は抜群のようです!」


 パチパチパチ、と拍手が起こる中、リリアはガクリと膝をついた。  魔力酔いと、極度の温度差による自律神経の乱れだ。


(……し、死ぬかと思った……)


 ゼエゼエと肩で息をするリリア。  そんな彼女を、恍惚とした表情のアリスと、氷のような無表情のエリアスが同時に支えようと手を伸ばし――バチバチと火花(と氷)を散らすのだった。

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