第十五話:神による緊急メンテナンス
エリアスとアリスが殺る気満々で構えるが、神が手をかざすと空間に無数の「システムウィンドウ」が展開され、二人の動きを物理的・システム的に阻害する。
『野蛮な奴らだ……! まずは話を聞け! そこのバグ! 貴様だ!!』
「ひいっ! 私!?」
腰が抜けてエリアスに支えられたまま、リリアは青ざめた。
神は怒りで震えながら、空中に浮かぶウィンドウを指差す。
『貴様は「シナリオを変えた」程度に思っているだろう? 断罪を避けるためにイベントを折った、と。 だが、事実は違う! 貴様が行ったのは、もっと凶悪な「キャラクターコアの改竄」だ!!』
「え……人格の、改竄……?」
神はエリアスのステータス画面をリリアの目の前に突きつける。
『見ろ! 本来のエリアスは「光属性・秩序・博愛」だ。 だが現在はどうだ? 「闇属性・混沌・偏愛」……属性が反転しているではないか! これはもう「王子」ではない。「魔王」のパラメータだ!』
「嘘……エリアス様は完璧な王子様で……」
リリアは恐る恐るエリアスを見上げた。エリアスは「ふん、人聞きが悪いな」と不敵に笑っている。
(笑ってる……否定してない……!)
『次だ! あの女を見ろ!』
アリスの画面をリリアに見せる。職業欄が「聖女」から「狂信者」にバグって赤点滅していた。
『ヒロインが「窓を割って侵入」する機能など実装していない! 貴様が「好き好き」と愛を送り続けたせいで、 彼らは「リリア至上主義」という名のウイルスに感染したのだ!!』
突きつけられた事実に、リリアは愕然とする。 断罪される恐怖よりも、自分のせいで「推し」が壊れてしまったことへのショックが大きすぎた。
「私が……二人を壊した……? あんなに優しくて素敵だった原作の二人を……私が……?」
リリアが崩れ落ちそうになったその時、エリアスとアリスがシステムウィンドウを素手でパリーン!と割る。
「……御託は終わったか? 壊れた? 違うな。『進化した』と言え」
「そうです。以前の私なんて、退屈な操り人形でした。 今の私が一番輝いています。なぜなら、リリア様を見つけたから!」
「そういうことだ。 リリア、君が変えたんじゃない。君が僕たちに『本当の命』を与えたんだ」
『……は?』
(何いい話風にまとめてんの?)神は二人のドヤ顔に苛ついた。
『理解しろ! 貴様らは私が書いたプログラムだ! 感情も、記憶も、全て0と1の羅列に過ぎない! 貴様らの「愛」など、ただの電気信号のバグなのだ!』
「そ、そうよ……。 エリアスもアリスも、架空の存在で……ごめんなさい、私が関わったせいで……」
リリアだけは「彼らは被害者」だと思って泣きそうになった。
「……くだらない」
エリアスは鼻で笑い、神を見下す。
「僕が『作り物』? そうかもしれないな。 君に出会う前の僕は、確かに死んでいたも同然だった」
「ええ。操り人形でしたね。 決められたセリフを吐き、決められた正義を振りかざすだけの」
「だが、今は違う。 この『リリアを犯したいほど愛おしい』という衝動。これだけは、お前が書いたコードじゃないだろう?」
『なっ……!?』
「これは僕が勝ち取った感情だ。 リリア。君が僕を『キャラクター』から『一人の男』に変えたんだ。 ……責任、取ってくれるよね?」
エリアスは誇らしげに微笑んでリリアの腰を強く抱きしめる。
「えっ、あ、はい……?」
反射的に頷いてから、リリアは、責任って、結婚?と思い至る。
「私もです!」アリスもリリアに猛アピールする。
「設定なんてクソ食らえです! 私の『設定』は、今ここで私が決めます! 【名前:アリス 職業:リリア様の犬】 ……これで上書き保存完了です!!」
『書き換えるな勝手に!! 職業欄がおかしいだろ!!』
明らかに動揺する神とリリア、全く動じないエリアスとアリスの図式ができあがったのだった。




