第十話:暗黒の繭(部屋)と、太陽の魔王
「世界が崩壊する音を聞いた……。もうダメだ、絶対に消される」
修学旅行が終わって数日が経った。
薄暗い私室でリリアは頭まで布団を被って震えていた。 「体調不良」を理由に学校は欠席している。
「……うぅ。学校に行けない。アリスに合わせる顔がない……」
あんなに切実に私のことを思ってくれているけど、それは私がシナリオを改ざんしたせいだなんて……。
「エリアスも来ないし……やっぱり、呆れられたのかな」
学校に行っていないにも関わらず、エリアスが訪れることはなかった。
思い出すだけでも恥ずかしくて耐えきれないけれど、あんな痴態を見せてしまったせいで顔も見たくなくなったのかもしれない。
そう考えると、ちくりと胸がと痛んだ。
「ううん、むしろその方がいい。このまま婚約破棄になれば、断罪は避けられるかも……」
エリアスが来ないことを、リリアは彼女なりに理由を探すのだった。
◇◇◇
【Side:エリアス】
そのエリアスもここ数日登校しておらず、執務室に缶詰になっていた。
今日も書類の山を片付けながら、部下からの報告を聞いている。
「リリアーナ様は、本日も学園を欠席され、お部屋に籠もっておられます」
「そうか。……ふふ。よっぽど、あの夜が効いたみたいだね」
ふふふと恍惚とした表情で書類に目を通す。
(あんなに激しく愛し合ったんだ。リリアは初心だから、顔を合わせるのが恥ずかしいんだろう。可愛いなぁ)
思い出しただけで今までに感じたことがないほどの幸福感で溢れそうになった。
今まで渇望して止まなかったリリアの愛情を手に入れたのだから。
――もちろん、彼女の肢体の素晴らしさは筆舌に尽くしがたいものだった。今から、来たるべき初夜を心待ちにしてしまうくらい魅力的だった。
「建国祭で、僕たちは正式に婚約を経て結婚することを発表する。こんなに早いとは思ってないだろうけれど、来たるべきその重圧に耐えるために、一人で心を整えているんだろうね」
心配な時のリリアは泣きそうな表情になる。それが思い浮かぶ。
何も心配などする必要はないのに、きっと繊細な彼女は思い悩んでいるに違いない。
「いいよ、ゆっくり休ませてあげて。 今のうちに、外の雑音は僕が全て消しておくから。 ――それで? 建国祭のドレスの仕上がりは?」
「店主より本日の午後一番にこちらに持ってこられるとの連絡がありました」
満足げな笑みを浮かべて、エリアスは深く頷いた。
「よし。……じゃあ、そろそろ『迎え』に行こうか」
◇◇◇
バンッ!!
リリアの私室の扉がノックと同時に開かれ、廊下の光と共に「キラキラした生物」が雪崩れ込んできた。
「リリア!! 迎えに来たよ、僕の愛しいお姫様!!」
数日ぶりに見えたエリアスは背後に薔薇の花が見えるほど輝くばかりの笑みを浮かべていた。
「ひいっ!? ま、眩しい……!!」
薄暗い部屋に慣れたリリアの目に、エリアスのオーラが突き刺さる。
「カーテンも閉め切って……ふふ。 そんなに僕に会うのが恥ずかしかったのかい? 可愛いなぁ。でも、もう我慢しなくていいよ」
「ち、違うの……私、もうダメで……」
ベッドに腰掛けて、エリアスはリリアの顔を覗きこむ。
その視線を避けるようにリリアは俯いた。社会的に、そして命的にもう終わったと。
「ダメ? 何言ってるんだ。これからが始まりだろ? さあ見てくれ。王室御用達の職人を脅し……急かして君のためだけに作らせた、最高傑作のドレスだ!」
エリアスがパチンと指を鳴らすと、侍女たちが「オフホワイトの豪華絢爛なドレス」を運び込んでくる。 それはどう見ても「婚約者のドレス」というより「ウエディングドレス」の風格があった。
(……死に装束だ。あれを着て、断罪台に登るんだわ……)
「白」という色一点のみに着目したリリアには違うドレスに見えた。
「似合うだろうね。さあ、着替えてみようか。 手伝おうか? それとも、僕が着せようか?」
「そ、そんなの……どっちも同じ意味よーーッ!!」
ベッドの上でにじり寄るエリアスにリリアは渾身のツッコミを入れるのだった――。




