人の世
自分の世界に戻ると、河乃子は居なくなっていた。帰りのバスで見送り。あとで行くからと言ってたのに、河乃子は、来なかった。
学校でも、先生は河童については、何も言わなかった。まるで最初から居なかったかのように振る舞うだけ。どこへ行ってしまったのだろうか、母もそれについて何も言わなかった。私も何か怖くて訊けなかった。
でも、クラス内での私へのいじめは、ちっとも減らない。村八分、誹謗中傷、強制的な奢り。でも家では良い子の仮面。
心のよりどころがなくなり、私は家に閉じこもることに決めた。親には、授業料を払ってんだから行きなさいとか、どやされたが、今はそうでもしないと、今日と言う日を生きたまま終われそうにない。
親の期待に応えられない私、世間から落ちこぼれてゆく私、空っぽの私。
ねぇ、河乃子、私のエッセンスって何?あったとしたら、どんどん減ってしまって、あの時より無くなっている気がするよ。
傷だらけの腕、転がっている薬の箱。
河童の国にはもう行けないかも。
まるでぼろぞうきんのような私の心。
昔昔・・・遠い昔、清純な泉の奥底に河童の国がありました。
国は、河童の王様が治めていて、王様には一人の娘が居ました
娘は夜な夜な、泉の岸辺に上がっては、深い森の上に広がる
星々や月を眺め、歌を歌っていました。
或夜、道に迷った旅人が、その歌声にひかれて娘と
遭いました、旅人は今までに辿ってきた町々の話しを
娘に娘は歌を旅人に与えました。
旅人は、その後も幾度か泉を訪れては、話しと歌の交換
をしていきましたが、やがて旅人は歳を経て来訪しなく
なりました。
ある日、娘の大事な友人が病気になりました
娘は、心に残る旅人の話しの中にくすりやという病気を治す
ものを売っている処があることを思い出しました
ただ、夜は開いていないのだと。
そこで、禁忌を犯して
昼に泉から出てしまいました。時は灼熱の夏
各地では日照りで農作物が枯れていた頃・・・
娘の体は日に焼け、たちまち体から水分が失われて、干からびて
死んでしまいました。
娘の魂は、その後に起きた大雨にながされ、遠い国に
運ばれてしまいました。そして水とともに人の中に潜みながら、
いつぞや、故郷の泉に帰る道を探して、放浪の旅を続けているのでした。
「河童達の伝説だよ」河乃子はある日、私に話した。「魂は人の中に隠れて、孵るのを待っているんだよ」河乃子は、自分の胸をそっと撫でた。「今この世界のどこかに、その娘の魂を抱いている人がいる。そして、河童の世界では、その娘の帰りを待っている娘の友人が居るんだ。」
「私の中に、あなたの友人が居るのかしらの?」
河乃子は、笑っていたが、肯定も否定もしなかった。
ううん、きっと私は、あなたの友人なのだと思う。いつからか、私はそう思うようになった、いつか私は深い水底の国に辿り着くのだと、その為にも、絶望の底にしがみついてばかりはいられないのだ。




