終章 奇跡よりも甘い夜
――思えば、随分いろんなことがあった。
学園の頃の乙女ゲーム的イベントを一人で片づけた日々、33歳の前世があるから余裕!と思っていたら全然ダメだった恋する日々。
――でも、それは全て今日につながっている。
ソフィーア=アストレア。
ようやく、婚礼の日を迎えたのだ。
◆
花嫁控え室。
重たく華やかでちょっと不器用な刺繍の入った純白のドレスに身を包み、鏡に映る自分をソフィーアは眺める。
心臓がうるさくて落ち着かない。カトレアがそっと髪飾りを差しながら微笑んだ。
「姫様、本当にお美しいです。宰相閣下が卒倒してしまうのでは」
「やめて!!緊張が倍増する!!」
そこへ――カツ、と高い音を響かせて入ってきたのは、深紅のドレスのマルティナ公爵夫人だった。
「姫君」
「……マルティナ様」
麗しい顔立ちに隙のない所作。
けれどその唇が開いた瞬間、思いもよらぬ声が響いた。
「――ソフィーア殿!あの仕事バカをどうか見捨てずに頼むぞ!」
「……えっ?」
「私もな、見目は女らしいかもしれんが、中身は全然女らしくなくってな!
けど、亡き夫とは愛し合って周囲の反対を押し切って結婚したんだよ!だからお前も歳の差なんか些細なことは気にせずに、覚悟を決めて頑張れよな!」
「……え?マルティナ様ってそういう……?」
私とカトレアは同時にぽかんとした。
麗しの未亡人がまさかこんなに豪快な人だったとは。
「……かっこよすぎる!!」
思わずつぶやいたのはソフィーアではなく――控え室に既に来ていたラファエルだった。
瞳をきらきらさせてマルティナに駆け寄る。
「すごい、俺、貴女のような人が理想だ……!」
「お、おい誰なんだよ!」
マルティナが目を丸くし出ていくのをラファエルは嬉々として追っていった。
残されたソフィーアとカトレアは顔を見合わせた。
「……あれ、なんだかいろいろ片づいた?」
「……姫様、世の中は奥深いですわね」
◆
結婚式。
聖堂には花々が飾られ、参列者のざわめきは祝福の色で満ちていた。
父上は厳めしい顔をして腕を組み、兄上は妙に神妙な表情。
カトレアはハンカチを握りしめてすでに涙目。
そしてダリウス様は――それどころか号泣していた。
「ううっ……!ついに!ついに孫が……!」
「まだですから!」
と隣に立っていたレオネル様が慌てて小声で突っ込んでいた。
誓いの言葉を終え、いよいよ口づけの時。
頬に軽く……と教えられていたのに、ソフィーアは緊張で距離を間違え――
「……ん!?」
――思い切り、口に。
参列者がどよめき、父と兄が同時に頭を抱えたのが見えた。
「……そ、ソフィーア」
耳まで赤くなったレオネル様が囁いた。
「……う、うん。夫婦は補い合うものだ。……だから、こういう時は私が」
そう言って、彼は堂々と口づけを重ねた。
場内に大歓声が湧き上がる。
(ああもう……もう、もう……幸せ……!)
◆
夜。
初めて二人きりで迎える部屋。
緊張で心臓が壊れそうだ。
「……ソフィーア」
レオネル様が私室の書類を片付ける。
が、その途中で指を切った。
とっさに私はその手を包み込む。
「大丈夫ですか!?」
すると――指先から柔らかな光が溢れ、傷がたちまち塞がってしまった。
「……えっ」
「……んっ!?」
互いに顔を見合わせ、呆然とする。
「こ、これって聖女の力……?」
けれども、次の瞬間レオネルは微笑んだ。
「奇跡よりも、君と過ごす今夜の方がもっとずぅと大事だ」
胸がじんと熱くなる。
彼の腕の中でソフィーアは幸せに震えた。
◆
翌朝。
「またかぁぁぁぁ!!」
「なんでうちの妹はこうなんだ!」
父上と兄上とダリウス様が同時に狼狽していた。「聖女の力発現」の報せに大混乱。
その横でカトレアはすました顔で言った。
「さすが姫様です」
そして兄レイモンドが横目でカトレアを見ながらぽつりと言った。
「……なあ、カトレア。ソフィーアはもう片づいたんだから、約束通りそろそろ俺と結婚してよ」
無視。けれどカトレアの耳は真っ赤だった。
一方、当のソフィーアとレオネル様は――
「……レオネル様」
「……ソフィーア」
周囲の喧騒など何も聞こえず、ただ幸せいっぱいに見つめ合っていた。
――乙女ゲームのフラグなんて、もうとうに過ぎた。これからは、自らで選んだ愛と未来を築いていくのだ。
(ねえ、レオネル様。私たち、きっと最強の夫婦になれるわ)
最恐かもしれないけれど。
嵐の前の静けさという言葉を、レティは知らない。
書き始めたばかりで拙いものですが、反響、大変嬉しいです。数ある作品の中でソフィーア達の物語をお読みいただきありがとうございます!
外伝や続きを考えておりますので、宜しければブクマやコメント、反応頂けますと励みになります。
他にもたくさんサラッと読めるものを書いておりますのでよろしければ…。
これの続き!などがあれば感想をぜひ。




