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華間 -カカン-  作者: 8ツーらO太!


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第十四話:この上ない

『わあ、でかいぃぃ!』


 しかも三匹。


「標準サイズです」


 と立羽(たては)は言うが、真宵(まよい)は信じられないという気持ちで首を振る。


『ど、どうすれば……』

「まずは剣をきちんと構えてください」


 言われて真宵は、重さに負けて下がっていた剣先を上へと向ける。それだけでもずいぶんな負担が腕にくる。


『それで、次はっ?』

金蚉(かなぶん)に向かって振り下ろしてください」


 剣の使い方として至極当然なことしか立羽は言わないが、混乱した真宵は考える間もなく、言われたとおり剣を振り下ろす。しかしその動きは覚束なく、機動力の高い金蚉に当たるはずもない。


 それどころか、重い剣を振った反動で真宵は前のめりによろけてしまう。そこへ金蚉の一匹がブウンと寄ってきたからもう大変だ。真宵は叫び声を上げ、あろうことか剣を捨てて逃げ帰り、立羽の袖にしがみついてしまう。


『無理だよぉ、無理無理! あんな大きい蟲、切れない!』

「無理ではございません。ほら、夜華君! 相手は温和な金蚉ですよ?」


 立羽は真宵を引き剥がそうとするが、そこは真宵も必死だ。立羽の羽衣を両手で掴んで離さない。


「夜華君っ。まだお小さい方ならともかく、あなた様はおいくつですか!」

『五歳っ!』

「すぐバレる嘘をおっしゃいますな」

『だってだって、立羽が意地悪なんだものぉ』


 真宵は今となっては、恥も外聞も捨てて立羽の腕にコアラのように巻きついていた。立羽のほうもムキになって腕を引き抜こうとする。


 その間にも、巨大な金蚉三匹は彷徨うように、立羽と真宵の周囲を飛んでいた。おそらく金蚉たち自身も、夜華の芳香に誘われて来たものの、どうすればいいのか、どうしたいのかわかっていないのだ。蟲とはその程度の知能しか持たない。


「立羽様ぁ、夜華様がお可哀想ですよぉ。もうこいつら食べていいです?」


 離れて見守っていた網玲(もうれい)がしびれを切らしたように言う。立羽は真宵を離そうとする手を止めると、肩を落として頷いた。


 シュルルルルッ


 網玲の伸ばした両手のひらから、桃色の糸が噴出される。糸はたちまち三匹の金蚉たちを絡め取り、土の地面に落下させた。


 そこでようやく真宵がハッと我に返った様子で、立羽の羽衣から手を離す。


「じゃじゃーん! 金蚉団子の出来上がりー」


 網玲は明るく笑い、桃色のバスケットボール大の玉を両手に持ってカプリと齧る。


「うんうん、美味しい。蜻迅衛(せいじんえ)も食べなよ」

「では、ひとついただきましょう」


 蜻迅衛もまた、桃色の玉を両手で持って齧りつく。


 真宵は理解しがたい思いを抱えて二人の食事風景を眺めていた。あの巨大な金蚉を食べるなど……。


「夜華君」


 呼ばれて顔を向けると、立羽が、真宵が放り出した剣を差し出していた。丁寧にも、すでに鞘に納めてある。


『ごめんなさい……』


 真宵は剣を受け取り、背負った。立羽は特に怒ったふうでもなく淡々と続ける。


「その剣は、赤国の華間が蟲と契約するときに用いる契剣(けいけん)です。それ自体は市中に売られているありふれた剣ですが、今、夜華君の修行のために白華山(はっかざん)に持ち込んでいるのはそのひと振りだけですので、なくさないようお気をつけください」

『……なくしたら、修行ができなくなってしまう?』

「いいえ。修行だけなら木の棒を振るのでも構いません。ですが蟲との契約には、必ず契剣が必要になります」

『僕は、蟲と契約するの?』

「そのつもりです。今日から三日間かけて頂上へ行くという話はしましたね。頂上へ着いたら四日目には、頂上付近の蟲と契約をしていただきます。この白華山は、頂上付近に行けば行くほど強い蟲が生息しています。ですから夜華君の蟲間となるにふさわしい強い蟲を、頂上付近で見つけられたら、と」

『蟲と契約したら、僕はどうなるの?』

「夜華君は御年十六であらせられましたね」

『うん』

「でしたら、ご年齢の条件はすでに満たされております。蟲と契約し、その蟲を蟲間として使役することができれば、あなた様は晴れて成華となられます」

『じゃあ、僕の蟲間になった蟲は?』

「あなた様のために、残りの命のすべてを捧げて生きることとなります」

『それは、その蟲にとって幸せなの?』


 立羽は穏やかな笑みを浮かべて答える。


「この上ない幸せでございます」




 金蚉を食べ終えた網玲と蜻迅衛に、立羽は短い命令を下した。


「この平地に結界を張れ。私の許しなく一匹たりとも蟲を入れるな」


 それは先刻までとは手のひらを返すような内容だった。しかし立羽の使蟲間たちは反論もせず了と返事をし、それぞれ散っていく。


「夜華君。先ほどは私が事を()きました。申し訳ございません。もう一度最初から順を追って、身体で覚えていただきましょう」

『か、身体でって、何を?』


 立羽が羽衣の右袖を振る。するとマジックショーのように、何もない場所から赤い蟻が現れた。ただの蟻ではない。全長一.一間(二メートル)の巨大蟻だ。


「あなた様にとって、蟲とは恐怖の対象でなく支配の対象だということを」

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